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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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124 抗いようのない敗北


「逃げろぉぉぉぉっ!!」


 カズキは喉を引き裂かんばかりの威勢で、声を張り上げる。

 時間を自在に操ることができるハイレザー・ハイディーンが自由となった現状、この場にいる者たちが取れる手段は限られている。


 いや……“限られている”などという言い方は相応しくない。


 ハイディーンの魔の手から逃れる方法は――ない。


「はは、殊勝なことだ」


「ぐ、がは……っ」「エド!!」


 エルドラークの腹に突き刺した魂装武器カルマ・ウェポンを手首を使って回転させながら、ハイディーンは笑みを浮かべる。腹を抉られる痛みに耐えかね、エルドラークは膝を着く。隣のアルアが、慌ててその身を受け止める。真っ赤な血が大会議室の床を染め上げていった。


「ハイディーン貴様ぁぁぁぁぁ!!」


「やめておけ。“時間の無駄”だ」


 エルドラークの状態を即座に察知したシャックが、怒声を上げてハイディーンへと接敵する。しかし、まばたきのあと――ハイディーン以外は誰も目視できぬ数舜に――シャックは全身を切り裂かれた姿となっていた。体中に切傷が走り、四肢が完全に血濡れていた。


「な、に……?」


 自分になにが起こったのかを理解できぬまま、シャックは血だまりの上に倒れ伏す。

 続けざまの無残な出来事に、アルアも事態が飲み込めないのか、目を見開いたまま震えている。


「あぁ、なんと美しい戦い様か……これが神王、ハイレザー・ハイディーン様のお力」


 ハイディーンの右腕であるダンストップ・オールドマンが、感嘆に打ち震えた表情で呟く。その隣では同じような顔で、アビゲイル・ツィーゲルも陶酔していた。


「くそぉぉぉぉ!!」


 敵からの攻撃を認識すらできないまま、エルドラークらが蹂躙されていくのに耐えかねたカズキが叫び声を上げる。怒りを全身から発散しながら、ハイディーンへと突進する。


 しかし。


「吼えるな。鬱陶しい」


「が、あ……?」


 踏み込んだはずの足が、なぜか力が入らぬまま膝から折れる。カズキの自覚が追い付く頃には、全身から血が噴き出て身動きが取れなくなっていた。


「ぐ、があぁ!?」


 倒れ伏したカズキを、全身の痛みが襲う。ハイディーンが止めた時の中で、カズキの身体を思うまま痛めつけていたのだった。打撲、切創などが一瞬でカズキの身体に刻み込まれていた。


 止まった時の中で、ハイディーンはこの場の者たちを蹂躙していく。


魂装カルマ――アグニッ!」


 ようやく状況が飲み込めたのか、アルアが魂装を発動させる。長大な鞭が手元に現れ、すぐに臨戦態勢となる。傍らに横たえたエルドラークが、苦しそうに呻いていた。


「ハイディーン! 交渉は決裂よっ! ここで死になさい!!」


 デーモニアの重臣の一人として、アルアは叫ぶ。

 エルドラークとシャックが倒れ伏した今、自分が国を守らなければ魔族そのものが終わる。能力不明で底知れぬ恐怖を与え続けるハイディーンに向けて、アルアは自らの魂装武器カルマ・ウェポンを振り上げる。


魂装真名カルマ・ヴェーダ――呪停無ジュテイム!!」


 鋭く振られた鞭が、目にも止まらぬ速さでハイディーンの喉元へ伸びていく。

 もらった――アルアは自らの一撃に、心内で勝利を確信する。


 だが。


「……なっ、なぜ!?」


 次の瞬間には、アルアの魂装武器はハイディーンの手に握られていた。


「この私に、貴様ら愚民の攻撃が届くと思うな」


 ほくそ笑むハイディーンに対して、アルアはほぞを噛む。

 だがそれでも、アルアは戦う意志を折ることはない。


「攻撃は当たらなかった……けど! くらえ!!」


「……っ!?」


 アルアが再び叫ぶ。

 鞭の先を掴んでいたハイディーンが、自らの身体に起きた異変を感じとる。


 全身の激痛に耐えながら戦況を観察していたカズキは、“魂装の義眼”によってアルアの魂装真名の能力を理解する。

 アルアの手元から伸びた彼女の鞭が、触れている箇所の全ての魂力チャクラが脈動をやめ、完全に停止していたのだ。


「魔族の牝が……!」


 魂力を停止させられたハイディーンが、忌々しそうにアルアを睨む。


「来て! 呪停無ジュテイムの効果は永遠じゃない!!」


 アルアの呼びかけが意図するところを理解し、即座に反応するルタとルフィア。それぞれがカズキ、シャックを抱えてアルアの側へと接近する。アルアは魂装武器を引っ込めると、足元に横たえていたエルドラークをその胸に抱いた。


「飛ぶわよ!!」「やれい!」「ええ!」


 アルアが素早い動きで、懐から瞬間転送の魂装道具カルマ・サーダンを取り出した。間髪入れずにそれを掲げて使用する。


 激しい発光のあと――その場から、カズキらと魔族、六名の姿が消え失せた。


 命からがら、カズキたちはハイディーンの魔の手から逃げおおせたのだった。


「……ふん、まぁいい。いくぞ」


「「はっ、神王様」」


 大会議室に残されたハイディーンは、さしたる焦りもなく歩き出す。オールドマンとツィーゲルを従え、分断の壁を我が物とするべく会議室を出る。


 その日はじめて、分断の壁は武力による突破を許したのだった。


 魔族たちの安寧が、脅かされようとしていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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