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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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118 世界の命運を握る交渉へ


 ハイデュテッドによる、デーモニアへの宣戦布告から数日が経過していた。


 分断の壁に併設されている、駐兵ちゅうへいたちの生活区域にて生活していたカズキたちは、ついにハイデュテッドの王ハイレザー・ハイディーンとの交渉のため、慌てて身支度を整えていた。


「ようやくおでましって感じだな」


 カズキは革のベルト、手袋などをしっかりと装着し、締め付け具合を確認しながら言う。フシンからもらった左眼用の眼帯布も忘れずに巻く。周囲では、同じく準備をしているルタとルフィアが装備品などを手入れしていた。


「緊張しますね……」


 不安に表情を揺らしているのはルフィアだ。

 美しい銀髪を、少し尖ったエルフ族特有の耳にかけながら俯いている。


「ふん。わしらがどうしたところで、大勢はなにも変わらん。座して待つのみ」


 一方ルタは、準備室に設けられた木箱の上にどっかり腰掛けて言う。この木箱は兵士らの装備品や道具、物資などが雑多に詰め込まれるものらしいが、ルタにかかれば腰を降ろす椅子になってしまうようだ。


 ルタは首元をボリボリと掻きながら、余裕たっぷりに欠伸をしている。


 三人は皆、衣服、装備の上からフード付きの外套を羽織っている。その襟を正しながら、カズキは一度大きく息を吐く。


 カズキたち三人――“ローブズ”は、三者三様な姿で“その時”を待っていた。


「お三方、お待たせした。そろそろ、会議室へ」


 と、そこへ入ってきたのはシャックだ。

 いつも着用している胸元の開いたワイルドさのある服ではなく、スーツのような形をした堅い印象の服を今回は着込んでいる。その上に、装飾の施されたマントを羽織っていた。


 その姿からは、やはり交渉の席ということで、デーモニア側の重役たちも失礼・粗相のないようにという意識があることが見て取れた。


「あぁー、かったりぃ」


 だが、続けて入室してきた者――デーモニアの王、引いては魔族の王であるエドワルド・エルドラークの姿を見て、カズキが感じた緊張感は失われる。


 エルドラークは至っていつも通りの、至極気の抜けた表情をしていた。


 一応服装だけは無理矢理に着せられたのか、シャックと同じようなものを着てマントを肩にかけているが、襟元がだらしなくはだけており、いかにもやる気がなさそうに見える。


「アンタねぇ、こんなときぐらいシャンとなさいよ」


 エルドラークに続いて入室してきたアルアが、呆れ顔でため息をついている。

 彼女もいつもの露出度の高い服ではなく、ふんわりと膨らんだスカートが目を引くドレスのような着衣を身に着けていた。


「はぁ……アルア、エドにはもうなにも期待するな。我々二人がしっかりするしかない」


「ああ、そうしてくれるとありがたいぜ」


 怒りも呆れも通り越して、絶望したような深いため息を吐いたシャックに対して、一切悪びれず大欠伸おおあくびをかますエルドラーク。


 エルドラークらが来る前、多少の緊張や不安を感じていたカズキにとって、そのいつも通りとも言える魔族三人の姿は、ありがたいほどの安心感を与えてくれた。


「さあ、ついに本番だ。気を引き締めていこう。エド以外は」


「ああ」「うむ」「了解です」「ええ」


「おい、オレを除け者にすんな」


 エルドラークを無視してシャックの呼びかけに、カズキら全員の返事が重なる。

 さすがに邪魔者のような扱いは癪に触ったのか、エルドラークが不貞腐れたように下唇を出して悪態をついた。


 ここにいる全員、世界の命運のかかった交渉の前であっても、下手に取り乱すような者はいなかった。いつも通りに、和やかだと言えた。

 皆がそれぞれ、ある程度の修羅場をくぐってきた猛者だからこそ、これだけ自然体で臨むことができるのだろう。


 しかし――交渉前の何気ないひと時が、このメンバー全員が揃う最後の瞬間となるのだった。


 その可能性に思い至る者など、ここには誰一人いなかったのだった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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