114 王の視点⑤ 待ちに待った戦場
ついに戦乱の渦に飲まれたハイデュテッドで、私は武神のごとき活躍を続けた。
あらゆる戦役において最前線へと赴き、あらゆる者を屠り無傷で帰還する。
常に鎧を赤く染めるのは、決まって敵の返り血――そんな私をハイデュテッドの人間たちは崇め、畏怖した。
私にとっても戦場は、自らの再生と活性のために打ってつけの場所と言えた。
敵を斬れば斬るほどに、私は若返り生物として最も充溢した時間を生き続けることができる。そして当然、私が斬れば斬るほどに、ハイデュテッドは勝利へと近づいていった。
何度目かの戦場で私は、停止した時の中で馬を引く手を止め、ふと周囲を見回した。
敵軍の者は皆、鬼の形相でこちらに向かって来る。それはまさに鬼気迫る、という言葉が具現したかのような光景だった。
振り向くと、私が進んできた道の兵たちは、すでに皆首と胴体が分離し、絶命している。土が血を吸い黒く変色し、私の歩みとしての道標のようになっていた。
止まった時の中では、敵の攻撃も、声も、呼吸も届かない。
私はすでに武勲によってある程度の公的な地位を得て、今回のように馬も与えられてはいたが、常にこうして最前線へと出ることは、自分の使命であると心得ていた。
ハイデュテッド軍は私がいなければ、所詮は烏合の衆だった。
私という勝敗を決する存在がいなければ、醜く知性の欠片もなく、命の輝きや美しさも一切ない、血で血を洗う闘争となるのは火を見るよりも明らかだった。
人類は野蛮で、粗野で、醜い生き物なのだ。
そんな生物が幾千という数で対峙し殺し合えば、それは見るに堪えないの屠殺場の掃溜めのような様相を呈する。
私は人類の上位にある存在として、そんな惨状をこの世に生み出してはいけないのだと、つくづく自らを律し、変革を与えるべく行動するようになった。
私は決意を新たに、馬で戦場を駆け巡りながら、魂装の剣で敵兵の身体を斬りつけていった。
「この程度で十分だろう」
戦馬を跨った足が、鐙に届かなくなってきたタイミングで、私は呟いた。若返りによって、肉体自体のサイズが縮んだ証左だった。毎回私はこの感覚を“終戦”の適時としていた。
止まった時の中で、どれほどの間、私は駆けていたのか。
見れば辺り一面、赤黒く染まっていた。自陣の兵はおらず、またも単騎で戦場を駆け抜けた形だった。戦場で見る、いつも通りの光景だった。
「……我が剣だけが、世界を切り拓くのだ」
私の呟きは、誰に届くこともない。
当然だ。
神の思し召したる言葉を理解できるほど、人類は賢くもなければ、力もないのだから。
以後、こうした時を繰り返し、私はついに――王の側近と言える、近衛兵長となった。
王位簒奪の時が、目の前まで迫っていた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




