113 王の視点④ 時の生殺与奪
「はぁ……はぁ……」
私は声が枯れ、喉が渇き切るまでただ叫び続けた。
自分がどんなに力を得ようとも、もがこうとも、時により人間のままであることを突き付けられ、絶望した。
どんなに言葉を尽くしたところで、お前は矮小な人の一匹に過ぎない――そんな事実が、私を打ち砕こうとしていた。
「なんだぁ、うるせぇぞ」
容赦なく叫び散らしていた声を聞いた浮浪者が数名、私を取り囲むように姿を現した。その手にはそれぞれ得物が握られており、私から金品を奪おうという魂胆が見え透いていた。
この時の私はすでに、それ相応の身なりをしていたため、貧困にあえぐ彼らからすればそれは仕方のないことと言えるだろう。
人間は、かくも卑しい。
わかりきっている事実だ。
「死にたくなきゃ、身ぐるみ置いていきな」
集団の中の、一際身体の大きい者が凄む。
私は絶望に片足を突っ込んだ感覚のまま、魂装により短刀を出現させる。
「な、歯向かう気――」
それで視界の真ん中を横薙ぎすると、時が止まる。
浮浪者たちは各々の感情を顔を浮かべたまま、月明りの下で硬直している。
私は路傍の花を愛でるように、浮浪者たちの腹を裂く。
振り絞った果実から瑞々しい果汁が溢れ出すように、血がパッと咲き乱れる。
浮浪者全員の腹に赤い血の花を描いたあと、次は背骨の線に沿って、真っ直ぐに刃を突き立てていく。
すると、背中が中央から真っ二つに均等に別れていく。
血飛沫が水袋を破裂させた時のように、勢いよく飛び出す。
これは命が自らの新鮮さを誇示する際の、一つの表現だと私は思っている。
中には着衣をしていない者もおり、汁の噴出を遮るものがないそれは、一際美しく赤い飛沫を上げる。
あぁ、命の散り際の美しさを全身に感じる。
今宵はどうしてか、肉を切り裂く喜び、命に裁定を下す悦びが、格別に甘美な情動を伴って、私の全身を震わせる。
ひとしきり刃を振るった後、浮浪者の一人が持っていたガラス片に、自分の顔が映っていた。
「…………」
見ると――その顔は、若干だが肌艶が蘇り、若返っていた。
これはいったい、どういうことなのだ?
絶望から目を背けるように肉を切り刻んでいた私の心理に、一筋の光明が差し込んだような感覚があった。
もしかしたらこれは、新たな力への目覚めではないのか?
私は瞬時に、いくつかの仮説を立てる。
浮浪者を切り刻んだことで若返ったというのなら、寿命を吸収するといった能力か?
いや、これは――“時を奪う”と言ってもいいのかもしれない。
だとすれば……。
私はその仮説に従い、血濡れたまま硬直し続けている浮浪者の足を、明確な意図を持って切り裂く。
すると確かに、微細な変化ではあるが、浮浪者の薄汚い肌がさらに萎れていっていることに気がついた。その分、おそらくは私が若返っているのであろう。
他者の時を奪い、自らに与える能力。
これこそが今、私の中で発芽した力だと言えるだろう。
人間の無益で害悪な一生の時間を喰らい、永遠の時を謳歌できる。
やはり私は、人間などではない。
「はは……ハッハッハッハ…………ッ!!」
思わず笑いが漏れる。
選ばれし、上位の存在――神にも等しき者であることを、実感する。
さびれた街の片隅。
家々の屋根で切り取られた星空が、今日はやけに眩く見えた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




