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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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107 分断の壁


 視界を覆う、超巨大な壁。


 迫りくるような迫力を持つそれは、もはや天を突く連峰を間近で眺めているような気にすらなった。


 カズキたちは転移の魂装道具カルマ・サーダンを使用し、分断の壁までやってきていた。


 分断の壁――魔族が人間との決別を具現化した、国境線を表す壁。

 これまでに一度も破られたことのない、不可侵の象徴だった。


「すげぇ高さだ」


 見上げるようにしたカズキが、思わず零す。


 壁の高さはもはや遠近感を狂わせるほどであり、これまでにフェノンフェーンなどで見てきた城塞よりも、明らかに高かった。


 壁には等間隔に、内部へと入るための小さな入り口があった。それのおかげで、かろうじて人工物だと考えることができた。


「一度(やぐら)まで上がろう。戦況が把握しやすい」


 シャックが急かすように言い、最寄りの入り口へ向けて歩き出す。


「ああ」


 カズキ、ルタ、ルフィアの三人も、シャックの背に続いた。




    †    †    †    †    †




 壁の内部では、魔族たちが物々しいほどに行き交っていた。


 彼らの隙間を抜けて奥まで進むと、木枠で囲われた箱のようなものが置かれていた。

 カズキは、エレベーターのようなものだろうかと考えた。


「これに乗ってくれ。浮遊部屋フローフロアと呼ばれている魂装道具だ。これで上まで行く」


 先んじて乗り込んだシャックが、皆に説明する。


 すでに様々な魂装道具に触れているカズキらは、特に怖がることもなく浮遊部屋に乗り込む。

 フシンから魂装道具は魔族が造り出したという話も聞いていたので、それだけ生活に馴染み、使いこなしている理由にも納得がいった。


「はじめに少し揺れるから、手摺てすりを握ってくれ。さ、行くぞ」


 シャックが操作盤のようになっている箇所に手を触れると、乗り込んだ木枠が重さを物ともせず、ふっと浮く。その際、少しだけ左右に揺らされるような感覚があった。


 が、そこからは一切揺れることなく、スッと音もなく高く昇っていく。


「時間が惜しい。上に到着するまでに、簡単に現状の説明を済ませておきたい。いいかな?」


 操作盤から離れたシャックが、カズキらに向き直るようにして言った。


 カズキは黙って頷く。


「ハイデュテッドは現在、分断の壁の“向こう側”に軍を展開し、こちらに不平等な条約の締結を迫ってきている。条約の内容は、我々が到底受け入れられないものだった」


 シャックは苦虫を噛み潰したような顔で吐露する。


「ふむ。察するに、恐らくは魔族は人間の奴隷となれ、というような内容じゃろうな」


 ルタが腕を組んで言う。シャックは黙って頷いたあと、さらに表情を険しくする。


「奴隷という言葉は使われてはいなかったが、しかし要するにそういうことだ。端的に言えば『お前らに国家を運営する権利はない。人間の支配下に入れ』というような内容だった。……く、ハイディーンらしい物言いだ」


「ハイディーンというのは?」


「ハイデュテッドの王だ。ハイレザー・ハイディーン。人間の欲望を具現化したような独裁者だ」


 よほど腹に据えかねたのか、シャックが浮遊部屋の木枠を拳で叩く。


「そんなのに屈するわけにはいかないな。俺も全力で戦う」


 カズキはシャックら、魔族の憤怒が痛いほどわかる。


 無条件に虐げられ、理不尽な痛みを与えられ。


 不自由を強制し、自我を殺されていく。


 自らがこの世界に来たとき、痛いほどに感じたことだった。


「そんなの、俺は許せない。俺も、思いっきり戦わせてもらう」


 力強く、カズキは言う。


「……ありがとう、カズキくん。本当に」


 カズキの言葉にシャックは、表情を柔らかくして独り言ちるように、何度も何度もありがとうを零した。


 と。


 話が一段落したところで、浮遊部屋が無音のまま止まった。浮遊感が無くなり、足場が安定する。


 浮遊部屋から出るとすぐに、厳重な扉があった。


「よし、行こう。ここが『分断の壁』の最上部、やぐらだ。すぐ側に司令部も併設されている。入ってくれ」


 シャックの案内に従い、カズキたちは扉の前に立つ。

 するとシャックが立ち止まり、カズキらを振り返った。


「巻き込んでしまった側で言うのも恐縮だが、ここに入ったら、もう後戻りはできないと思ってくれ。我々の作戦や機密も共有しなければならないのでね」


「今更だよ、シャック。ここまで来て、引き返す気なんてないさ」


 真剣な表情で語ったシャックに、カズキは軽い口調で返す。


「な?」


 そして、両隣にいる“相棒”に声をかける。


「うむ」「はい」


 ルタとルフィアが同じように頷きを返し、カズキはニヤリと口角を上げた。


 三人の精悍な顔つきを見たシャックが小さく微笑み、司令部の扉に手をかけた。


 重厚な外への扉が、開かれる。


「――っ!?」


 入室した三人の目に飛び込んできた景色は――



貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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