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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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104 意地の張り合い


 引き続き、デーモニア城の中庭。


 もはや満身創痍まんしんそういと言っていいエルドラークが、口から多量の血反吐を吐き出して立ちすくむ。


 ルタの渾身の一撃が、クリーンヒットしたためだ。


 痛みからか、膝が笑い、全身が細かく震えている。


 これまでのエルドラークの余裕に満ちた態度とは、明らかに違ってきていた。


「はぁ……はぁ……」


 あらん限りの魂力チャクラを引き出し、全身全霊でラッシュを続けてきたルタも、体力が底をついたのか、膝に手をついて肩で息をしていた。


 戦況を耐え忍び見守っていたカズキ、ルフィア、アルアの三人は、ここで止めるべきだと同時に悟った。


「二人とも、もうよそう」


 立ち上がり、戦局に割って入るカズキ。

 魂力をみなぎらせることはせず、さざ波のように静かに、けれど確固たる意志を滲ませながら、ルタとエルドラークの間に歩み進む。


 ルタは鬼の形相で、戦いの闖入者ちんにゅうしゃであるカズキを睨む。


 その顔は、自らの戦意がまだたぎっているということを主張していた。


「よそう、ルタ」


「……そこをどけ、カズキ。まだ殴り足りぬ」


「ルタ」


 膝から手を上げ、再び攻撃を再開しようと目を血走らせるルタ。


 カズキはエルドラークへの動線どうせん上に移動し、ルタの眼前に立ちはだかるようにした。


 カズキなりの、エルドラークの元へは行かせないという意志表示だった。


「俺は俺の意志で、二人の喧嘩を止める。もう十分だ。二人はもう、殴り合うんじゃなく、話をしなきゃいけない。昔のこと、今のこと、これからのことを」


 ルタから決して目を逸らすことなく、カズキは言葉を紡いだ。


「いいから、そこをどけっ!」


 苦々しげにルタの顔が歪むが、カズキは一歩も引くことはない。


 エルドラークの覚悟を知ってしまったカズキにとっては、この程度のことで折れるわけにはいかなかった。


 ルタはちゃんと、エルドラークの真実を知るべきだ――カズキはほとばしるルタの闘気を全身で受け止めながら、一歩として後退ることはしなかった。


「……おい、カズキ」


「え――」


 咄嗟の声に振り向いたカズキは――殴られた。


 が。


「……全然痛くないぞ、エドワルド」


「うるせぇ、これはオレのけじめだ。邪魔すんな」


 カズキを殴ったのは、エルドラークだった。

 自らとルタの喧嘩に介入するなと、カズキを押しのけようとしての行動だった。


 しかしその拳には、もはや一切の攻撃力が備わっていなかった。


 カズキは拳をもらった左頬を撫でたあと、近くでふらついたエルドラークの身体を支えた。


「もうボロボロだろ。やめとけって」


「うるせぇ。あのわからず屋を受け止めてやれんのは、オレだけなんだ」


「……父親だって思ってるからか?」


「……っ!」


 カズキの言葉で、エルドラークの顔に明らかに恥辱の色が浮かぶ。


 顔色の変化が、図星であることをあからさま物語っていた。


「アルアのやつ……クソが」


「もういいだろ、充分だ。エドワルド、あんたも少しは素直になって、ちゃんとルタと話せよ」


 口元に血を滲ませながら悪態をつくエルドラークを、カズキは穏やかな調子のままなだめる。


 エルドラークは、もはや立っているのがやっとといった状態だった。


「カズキ、そいつをそのまま支えておれ。お見舞いしてやる」


 ルタは拳をバキバキと鳴らし、言う。


「カズキ、オレをこのまま支えてろよ。飛び掛かってきたところに、一発ぶち込んでやる」


 エルドラークは口角を上げて笑い、精一杯に言う。


 間に挟まれたカズキは、一つ大きな溜め息を吐くしかなかった。


「「おらああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 同時に同じ叫び声を上げ、拳に力を込めるルタとエルドラーク。


 カズキの肩を借りたまま、なんとか拳を振り上げたエルドラークと、そこへ猪突猛進ちょとつもうしんしてくるルタ。


 間に立ち、二人それぞれの攻撃を受け止めるため、カズキがエルドラークの眼前に身体を滑り込ませたタイミングで――



「緊急事態だっ!!」



 デーモニア城内へ続く扉が乱暴に開かれ、物々しい音が鳴る。




「ハイデュテッドが……デーモニアに、宣戦布告した」




 乾き切ったシャックの声が、停止した戦局へ零れ落ちた。


 その場にいた全員の背筋を、悪寒が駆け巡った。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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