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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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102 殴り合いの前に


 まだ宴の余韻が残る、デーモニア城中庭。


 酒瓶や酒樽が乱雑に転がる中、ルタとエルドラークが魂力チャクラみなぎらせて対峙していた。


 カズキは二人から離れた場所で、ルフィア、アルアと共に状況を見守っている。


 シャックは前日の酒宴にも参加せず、なにやら忙しく立ち働いている様子だった。


「本当に大丈夫なのか、あの二人をやりあわせて」


 カズキは胸の内にある不安を言葉にし、隣のアルアにぶつけた。


「知らないわよ。本人がやるって言ってるんだから、やらせるしかないでしょ。アタシらの言う事なんて、アイツほとんど聞かないんだから」


 アルアは呆れたように溜め息をつき、知ったこっちゃないと言わんばかりに両手を広げた。

 そしてもう問答は終わり、と態度で示し、自慢の赤髪の毛先をいじり出した。


「カズキさん、もうルタさんとエルドラークさんを信じるしかありません。大丈夫、二人とも短絡的に見えて、心の芯はしっかりしている方々ですから」


 アルアと逆側、カズキを挟むように座っていたルフィアが、さらりと流れる銀髪を耳にかけながら言う。


 翡翠ひすい色の瞳は言葉とは裏腹に、少し不安に揺れているようにカズキには思えた。


 ルフィアも二人を信じようと、言葉で自らに暗示をかけようとしているのかもしれない。


「……だな。見守ろう」


「はい」


 カズキは静かに頷いた。


 ルフィアもなんとかしたい気持ちを抑え込み、こうしてルタとエルドラークの行く末を見守り抜くと決めている。


 それなのに、自分が揺らいでいるわけにはいかない。


 カズキは拳にぐっと力を込め、腹を据えた。


「ただし、どちらかが本当に危ない状況になったら、俺は俺の意志で、二人を止める。いいよな?」


「ええ、そのときはわたしも一緒に」


「好きにしなさい。アンタもどうせ、こうと決めたら梃子でも動かないでしょう」


「……ありがとう、アルア」


 カズキを振り向くこともなく、同じ調子で毛先をまんでいるアルア。

 それはある種の、カズキへの信頼と言えた。


「ふん」


 と。


 カズキの心が決まったタイミングで、ルタが鼻を鳴らしたのがわかった。


 ルフィア、アルアと共にカズキも、中庭の中央へと視線を向ける。


「はじまるみたいだな」


 見ると、中庭中央でルタが魂力により“変身”していた。


 いつもの幼女姿ではなく、成長した十代後半の少女の姿。


 今は動きやすいようにと、袖のない麻の服と、膝下丈のズボンを穿いている。


 一方のエルドラークは相変わらず、鍛え抜かれ、所々に文様の走った上半身を惜しげもなく晒している。

 今回はマントを外している。


「そうやって、魂装カルマできない中でも戦えるように工夫したってわけか……。さすが、ドラゴン族だな」


「貴様がわしに封印なぞ施さなければ、こんなことをする必要もなかったのじゃ」


 カズキらが見守る中、言葉を交わすルタとエルドラーク。


 会話からは、ルタをオブリビオンに縛り付けたうえ、魂装すら使用不能とした封印……ルタにとっては、呪いとも言えるそれを施したのが、エルドラークなのだという事実が語られていた。


「……あんときのお前は、まったくもって未熟だった。感謝してほしいぐらいだぜ、オレにな」


 エルドラークは応えながら、首を回し、肩を回し、肉体を研ぎ澄ましていく。


「でもま、そんなにオレが気に食わねぇってんなら、受けて立ってやるさ。オレはなにせ、最強だからな」



 言うと、エルドラークは自らの魂力を――完全に止めた。



 状況を見守っていたカズキらの間に、動揺が広がる。


 しかし、当のエルドラークは意に介さず、肘を伸ばして泰然たいぜんとしている。


「ルタ、お前とやり合うってんなら、最強なオレとしては、対等な条件でやり合わねぇとな。オレは魂力も魂装も、一切使わねぇ」


 挑発するように、エルドラークは言い切る。


 ルタの額に、青筋が浮かぶ。


「……ふざけた真似を」


「ふざけてねーよ。ほら、さっさとかかってこいよ?」


 ビキ、とルタの血管がブチ切れる。


 こうして。


 ルタ対エルドラークの殴り合いが、はじまった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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