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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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101 ルタの心情


「ちょ、ルタ。待てよ。今エルドラークは――」


「問答無用じゃ、カズキ。そいつを殺す」


 ひどく険悪なムードをまとって現れたルタを止めようと、カズキは言葉を紡ごうとした。


 しかし、ルタのさらなる怒りのオーラに遮られる。


「そいつは、わしを……わしを『足手まといだ』と、一族と運命を共にすることを阻んだ男だ。あのとき、そいつさえいなければ――」


 ルタの小さな両拳が、震える。


「――家族と共に、死ねたのだ」


「……ルタ」


 怒りに歪んだ顔は、カズキの目にはなぜか、泣いているように見えた。


「わしの感情が勝手なのはわかっておる。しかし、そいつを目の前にして、わしは利口ぶって冷静でいることなどできぬ。知性のない獣と同じと罵られようと、この怒りを無視することなどできないのだ。頼む、わしの願いを聞いてくれ、カズキよ」


 たかぶっているのか、それとも消沈しているのか、ルタの魂力チャクラが不安定に波打つ。


 カズキは酒気による影響があるのか、魂装カルマの義眼が映し出す“魂力の光線”が、いつもより歪んで見えるような気がした。


「……せめて、俺を交えて三人で、一度話をしないか? 俺はルタの弟子として、対等な同盟を結んだ者として、ルタがエドを殺すことを、簡単に許容したくない」


「そんなもの必要ないッ!」


 カズキの提案に対して、ルタは強硬な姿勢を取る。


 叫び声が酒宴の席に響き渡り、魔族の数名が視線をよこす。


「わしにとって、そいつは親の仇も同然なのじゃ! この世界に来て、愚弄され、生き方すら選べず、怒りを糧とし、虐げた者へと復讐を果たしたおぬしなら、わかってくれるじゃろうカズキよ!?」


 ルタはこれまでに見せたこともないような悲痛の表情で訴える。


 その姿を見たカズキは、自分の胸の奥が捻られたかのような、きゅっとした切なさを感じた。


 余計に、ルタの好きにはさせられない――そんな決意が立ち上がってくる。


「わかる、わかるよ、ルタ。でもだからこそ、話そう。そうしてからでも、絶対遅くない。ルタは俺みたいな頑固者でもなければ、馬鹿でもないだろう? 冷静で、理知的で、俺のことを鍛えてくれた。肯定もしてくれた」


「それならば、カズキもわしを肯定すればいい!」


「ああ。だから話したいんだ。心の底から肯定するために、俺はルタと話したい。俺にとってはエルドラークも、もう死んでほしくないヤツの一人なんだ。だから、三人で話そう。頼む。な?」


 カズキは丹念に、丁寧に、ルタへと言葉を紡いでいった。


「頼む」


 そして、深く頭を下げた。


「……カズキよぉ」


 聞こえたのは、ルタの声ではなく――エルドラークの声だった。


「お前ってヤツは、まだ出会って大して時間も経ってねえオレに、そこまで言ってくれるのか」


 むくり、とエルドラークは身を預けていたベンチから身体を起こした。


「起きてたのか」


「そりゃな。酒の席で、こんな笑えねぇ空気出されちゃよ。場がしらけるぜ」


 欠伸あくびを噛み殺しながら、エルドラークはカズキのところへ歩み寄ってくる。


 カズキはルタの心の揺れを注視しながら、エルドラークから続く言葉を待った。


「おーおー、ルタ。オレをぶっ飛ばしてぇか?」


 挑発するように、エルドラークが語りかける。


「当たり前じゃ! 貴様のせいで、わしがどれだけ惨めな思いで今日まで生きてきたか!!」


 ルタとエルドラークの間で、やり取りが交わされる。


 二人の位置の中間に立っていたカズキは、声に乗った感情に切り裂かれるような、そんな心地がしていた。


 いたたまれず、カズキが少し俯いたとき。



「わかった――どちらかが死ぬまで、やろうじゃねーか」



 エルドラークが、ぽつりと言った。


「お、おい」


 慌ててカズキが、声をかける。


「いい、言うな。もうやるしかねーんだ。オレとあいつは」


「ようやくじゃ。ようやく……この心の奥底の“うみ”を、吐き出せる」


 カズキの想いとは裏腹に、ルタとエルドラークはどこか胸のつかえが取れたような、そんな表情を浮かべていた。


 こうして。


 ルタとエルドラークの戦いが、行われることとなった。


 宴はそれすら祝うかのように、朝まで続けられた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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