099 決闘、ガルカザン・カザスタヌフ④
「カズキさんっ!!」
ルフィアの痛々しい叫びが、微かに霧の舞う崖に広がる。
「……だ、大丈夫……まだ、戦える」
立ち上がったカズキの身体は、所々が打撲により内出血を起こしていた。
拳によって切れたのか、いくつか生々しい裂傷も見られる。
「……っ」
今にも助けに入りたい気持ちを必死に堪えながら、ルフィアは唇が切れてしまうほどに、口元を引き結んだ。
「さすがに、連戦の中でガルカザンにはきつかったかしら」
ルフィアの隣では少しだけ悔やむような表情で、アルアが戦況を見守っていた。
「はん、中々にタフだな。褒めてやる」
「……はは、どうも」
余裕たっぷりに笑うガルカザン・カザスタヌフに対して、カズキは膝を震わせながら立っているのがやっとだった。
魂装手術での回復も、もはや追い付いていない。
どこからどう見ても、決闘はカズキの劣勢だった。
「おっと、このまま終わらせてやるぜ!」
カズキが回復を試みる暇も与えることなく、カザスタヌフはトドメを刺さそうと動き出す。
「魂装、燃!」
再び魂装防具であるタワーシールドを出現させ、カズキを叩き潰そうと振り上げる。
彼にとっての盾は、防御を主としたものではない。
「く……っ」
カズキはその場から動こうと踏ん張るが、多大なダメージを受けた肉体が言うことを聞かない。
震える膝頭が、身体を限界を物語っていた。
「こいつで、終ぇだよ!!」
力一杯、カザスタヌフの剛腕により、巨大な盾がカズキの頭上から振り落とされる。
「俺の勝ちだ! あの世で待ってりゃ、すぐにエルドラークを送ってやるよぉぉぉ!!」
カザスタヌフが、意気揚々と勝鬨をあげた――
が。
「……ようやく、コツを掴んだよ」
盾の重量とカザスタヌフの膂力によって圧殺されたかに見えたカズキは――
両手でタワーシールドを受け止めていた。
いや、正確にはすでにタワーシールドはタワーシールドではなくなっていた。
カズキの魂力操作によって、乾いた砂を固めただけのような板切れに変わり果てていた。
霧を吹き飛ばす突風が一陣走ったあと、カザスタヌフのシールドは塵芥となってかき消えていった。
「な、なん、だと…………っ!?」
驚愕に目を見開いたカザスタヌフが、声にならない声を吐き出す。
「く、くそがぁぁ! 魂装、燃――」
「無駄だ」
叫ぶカザスタヌフの眼前に、掲げるように掌を向けるカズキ。
呼吸を整えながら、シールドを再び展開しようとする“魂力の動き”を制する。
「な……魂装が、で、できねぇ!?」
自身に起こっていることが理解できない様子で、カザスタヌフは巨大な自分の掌を、交互に見やる。
その手から魂装防具であるタワーシールドが出現することはなかった。
「魔族の魂力は独特で、かなり“調和”させるのに手間取ったけど……形勢、逆転だ」
血濡れた唇を、カズキがニヤリと歪ませる。
「う、うおあぁぁぁぁぁ!!」
不敵な表情を見せつけられたカザスタヌフは歯向かうように叫び、力任せに両腕を振り上げた。
カズキはすっと腰を低くし、右手を腰だめに構える。
魂力が、収斂していく。
「魂装――」
カザスタヌフが脳天から合わせた両拳を振り落とす。
豪速で撃ち込まれる拳へ、タイミングを合わせて――右腕を爆裂させる。
「――爆破拳」
瞬間、場にいる全員の視界を、真っ白な閃光が埋め尽くした。
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