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やけど  作者: 佐藤そら
8/10

ジョーンの正体

 瑠璃の足は図書館へと向かっていた。

 到着すると、深呼吸をし、覚悟を決め入っていった。

 

 瑠璃は、新聞コーナーへ向かうと、『2004年3月16日』の新聞を探す。

 新聞を見つけ手に取ると、あの日の火事の記事を探す。

 そこには、消火された後の工藤家の写真が載っていた。

 

「わたしの家……!」

 

 瑠璃は動揺した。ここまで夢の通りだったからだ。

 瑠璃は火事の記事に目を通す。

 記事には『庭から出火したものと思われ、放火の疑いがある』とある。

 

「放火……。夢じゃなかったんだ……」

 

 ジョーンが蛍光ペンで引いた一文は、実在していた。

 

 

 瑠璃は、地図を見ながら、ある場所へと向かっていた。

 そして、児童養護施設『ローズマリー』の前で足を止めた。

 

「本当にあった……」

 

 母のいた施設は、火事の記事と同様に実在していた。

 施設では、子供達が遊んでいる。

 渡辺友子が、瑠璃を案内してくれた。

 

「母は、ここで……育ったんですね」

 

「そう、雰囲気は変わっちゃってると思うけど……あ、アルバム持って来るね」

 

 友子はアルバムを持って来ると、瑠璃に差し出した。

 

「これが、その当時の」

 

 瑠璃は、渡されたアルバムを開く。子供達の写真に一人ずつ目を通していく。

 そして、7歳の美希の姿を見つけた。

 

「お母さん……」

 

 瑠璃は、子供達の集合写真に目を移す。

 するとそこには、ジョーンと同じ服装のピエロのぬいぐるみを手に持つ美希の姿があった。

 

「ピエロ……! これって!」

 

「あぁ、このぬいぐるみ、ここへ来た時から持ってたみたいなの。彼女が一番大切にしてたものみたいね」

 

「……!」

 

「ご両親が亡くなる前に、サーカスに家族で行ったみたいで。いつも持ち歩いていたそうよ」

 

「……」

 

「ちょっと待ってて、ひょっとしたらまだあるかもしれない」

 

 友子は奥へとピエロのぬいぐるみを探しに行った。

 そして戻ると、友子の手にはピエロのぬいぐるみがあった。

 瑠璃は受け取ると動揺した。

 そのぬいぐるみの胸には布切れが縫い付けられていた。

 そこには、『ジョーン』とあった。

 

「ジョーン……。あなたはお母さんのピエロだったの?」

 

 

 奥から『キラキラ星』が聴こえてくる。

 瑠璃はその様子を覗き込んだ。

 窓の近くにピアノがあり、施設の人が弾いていた。

 

「彼女はピアノも好きだったみたいよ」

 

「ピアノ……」

 

「当時ね、ピアノがすごいうまい、君野さんって方が時折この施設に遊びに来てくれてね、よく弾いてくれてたみたいなの。よく弾いてもらってた曲が……」

 

「『愛の夢』……」

 

「まぁ、よく知ってるわね」

 

「……」

 

 

 全ては、母からの愛の夢だった……。

 ジョーン、あなたはわたしに真実を伝えようとしてくれているの?

 でもね、ジョーン。わたしやっぱり信じられないの……

『ローズマリー』で、ジョーンのぬいぐるみを貰ってきた。

 でも、ぬいぐるみのジョーンは、わたしに何も言ってくれなかった。

 

 

 夕方、瑠璃はジョーンのぬいぐるみを手に、明美がいる花屋『DESTINY』を訪れた。

 

「あら瑠璃ちゃん! どうしたの?」

 

「まぁ、ピエロ!」

 

「わたしの夢の中に現れるピエロは、母が大切にしていたものだったんです」

 

「そうだったの。素敵ね。いつでも瑠璃ちゃんのことを助けてくれてるのね」

 

 わたしのことを助けてくれている?

 そうだ、はじめてわたしの夢にジョーンが現れた時、わたしは何者かに追われていた。

 そして、ジョーンはわたしを助けてくれたんだ。

 あの日から、ジョーンはわたしのもとへ現れるようになった。

 

「ここに居たら宮内さん心配しない? 大丈夫?」

 

「あっ……はい。もう帰ります」

 

 瑠璃は帰り際、明美に尋ねた。

 

「もし、凶悪犯がいて、その人が自分の好きな人だった……明美さんならどうしますか?」

 

「……? えっ?」

 

「たとえばの、話です」

 

「うーん。好きになってから罪を知ってしまったら……本当に好きだったら……嫌いになることは難しいのかもね」

 

「……」

 

「凶悪犯じゃなくても、人を嫌いになるには、その人を嫌いになるまで、その人のイヤなところを見続けるしかない……」

 

「……」

 

「好きになることと同じくらい、難しい気がする。もうすぐわたしも彼と別れるわ」

 

 

 夢が全て真実とは限らない。

 けれど、ジョーンがわたしに伝えてくれたことは、もしかしたら全て真実かもしれない。

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