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やけど  作者: 佐藤そら
5/10

愛の夢

 リビングで宮内が煙草を吸っている。

 

「明日の休み、どこか行こうか」

 

「え、本当?」

 

「久々にピアノコンサートはどう? ちょうど友人がコンサートを開くんだよ。よかったらってチケットを貰ったんだ」

 

 宮内は瑠璃にチケットを二枚見せた。

 

「嬉しい! 行く行く!」

 

 ×  ×  ×

 

 瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間。

 リストの『愛の夢 第3番』が流れている。

 

「この曲って……」

 

 瑠璃は、何もない空間を歩いた。

 やがて、曲に合わせて踊っているジョーンの姿を見つける。

 瑠璃を見つけ、ジョーンは駆け寄った。

 瑠璃をその場に座らせると、指を鳴らした。

 

 気付くとそこは小さな劇場だった。

 瑠璃は、いつの間にか劇場の座席に座っていた。

 そして、ジョーンがフリップを持って舞台に登場した。

 

「……?」

 

 フリップをめくると『わたしの夢ランキング』とある。

 ジョーンは拍手を誘う。

 瑠璃は、つられるように拍手をする。

 ジョーンは、フリップを一枚ずつめくっていく。

 

『ステキな服を着たい』

 

『おいしいものが食べたい』

 

『イルカショーが見たい』

 

『空を飛びたい』

 

 ジョーンは瑠璃を指差す。

 瑠璃は困惑した。

 そして、次のフリップをめくる。

 

『でも、そんなことより!』

 

 そして、次のフリップをめくる。

 

『幸せになりたい』

 

 続けて、ジョーンは激しくフリップをめくっていく。

 

『しがらみから解放されたい』

 

『知りたい』

 

『傷付きたくない』

 

『忘れたい』

 

『でも、忘れたくない』

 

 フリップを叩くジョーン。

 

「えっ……」

 

 瑠璃は動揺していた。

 

 そして、次のフリップをめくる。

 

『第3位 サーカスに行きたい』

 

『第2位 ピアノを聴きたい』

 

『第1位 お母さんに会いたい』

 

「お母さんに会いたい……」

 

 ジョーンは小刻みに頷く。

 

「えっ? 会わせてくれるの!?」

 

 ジョーンは、嬉しそうに小刻みに頷く。

 

『こちらへ』と言うように、ジョーンは瑠璃を案内した。

 

 

 人の姿がない、知らない街を、瑠璃とジョーンが歩いている。

 リストの『愛の夢 第3番』が流れている。

 やがて、とある施設の前でジョーンは足を止める。

 そこは、児童養護施設『ローズマリー』とある。

 施設の前まで来ると、ピアノの音が近かった。

 

「ローズマリー?」

 

 疑問に思う瑠璃を、ジョーンは窓のある方へと手招きする。

 瑠璃とジョーンは、窓から中を覗いた。

 そこには、若い頃の美希の姿があった。

 美希は『愛の夢 第3番』を弾いていた。

 

「お母さん!」

 

 ジョーンは、瑠璃に『静かに』というジェスチャーをする。

 二人は笑顔で、窓の外から演奏を聴いていた。

 

「この曲はお母さんが弾いてたんだ」

 

 ×  ×  ×

 

 瑠璃は、タンカーで病院へと運ばれていた。

 

「瑠璃! 瑠璃!」

 

 顔面蒼白の宮内が、瑠璃に必死に声をかけている。

 しかし、瑠璃にその声は届かなかった。

 瑠璃は深い眠りについたかのように、意識を失ったままだった。

 

 病室で瑠璃が眠っている。

 宮内は、その横でうなだれていた。

 

 ×  ×  ×

 

 美希が演奏する『愛の夢 第3番』を聴き、夢の中の瑠璃は幸せそのものだった。

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