孤独
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間。
今日もジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
「ジョーン!」
ジョーンはいつもと変わらず、嬉しそうだった。
「わたしの職場の人が、ジョーンのこと良いピエロだねって褒めてたよ」
ジョーンは首をかしげる。
「ジョーン、空って飛べる?」
ジョーンは、瑠璃の手を握る。
すると、ジョーンと瑠璃の体は宙に浮いた。
「わっ! すごい!」
瑠璃とジョーンは、空を飛びながら街を見渡す。
「わー! 地図みたい!」
ジョーンは何かを指差した。
指差す方向には、宮内と暮らす家がある。
「あっ、わたしの家だ!」
しばらく飛んでいると、とある施設が見えてくる。
「あれは、わたしが育った施設……」
見晴らしのいい屋上に瑠璃とジョーンは降り立った。
屋上からは、『希望の子守唄』という看板が見える。
「あそこが、わたしのふるさとなの」
ジョーンは静かに瑠璃を見つめていた。
「いつか、お父さんとお母さんが、来てくれるって信じてたんだ……」
ジョーンは首をかしげる。
「ねぇ、お父さんとお母さんには会える?」
ジョーンは驚いた様子だった。
「これは夢の中なんだよね。だったら、会えるよね?」
ジョーンは悲しい顔で瑠璃を見つめる。
「ねぇ、わたしのお父さんとお母さんに会わせて!」
頭を抱え、ジョーンは困り果て、その場にしゃがみ込んでしまった。
「どうして? だってこれは夢なんだよ? わたしの見ている夢なんだよ?」
ジョーンは両耳をふさいだ。
「ジョーン……」
× × ×
目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
そして、わたしは泣いている。
夜はまだ、長いようだ。
わたしの腕には、“やけど”の跡が残っている。
今も、あの日の火事を忘れたくないというように。
花屋『DESTINY』で瑠璃は花の手入れをしていた。
明美が瑠璃に愚痴をこぼした。
「あーあ。絶対浮気されてるー」
「えっ?」
「幸せな瑠璃ちゃんにこんな話ごめんね」
「いや……」
「他の人にするならするで、付き合う前に別れろって話。わたしをキープしつつ他の女にもって、男ってずるいと思わない?」
「彼氏さんには、聞いたんですか?」
明美は首を横に振る。
「怖くて聞けないよ。もうわたしも30だっていうのに……。結局、惚れた方の負けってことね」
「……」
「そうだ、瑠璃ちゃんは、空飛べたの?」
「えっ……あぁ、はい」
「そっか。わたしも明晰夢でも見て、カッコイイ彼氏と付き合いたいわ」
あれが明晰夢なら、思い通りになるのではないだろうか。
どうして……
良いピエロなら叶えてくれたっていいのに。
夢なら自由なはずなのに。
× × ×
瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間。
ジョーンが膝を抱えてしょんぼりしている。
瑠璃はジョーンの姿を見つけた。
「ジョーン……」
瑠璃はジョーンのもとへ駆け寄った。
「ごめんね、ジョーン。困らせちゃったよね?」
ジョーンは、困り顔で瑠璃を見つめた。
「夢ってさ、現実世界じゃ、ないじゃない? だから、お父さんやお母さんに会えるのかなって思ったの」
ジョーンは真下を『ここ』と言うように指差した。
「ジョーンにとっては、ここが生きている世界ってこと?」
ジョーンは小刻みに頷く。
「そっか。……ジョーンは孤独? ひとりぼっちなの?」
ジョーンは瑠璃を指差す。
「瑠璃がいる?」
ジョーンは嬉しそうに瑠璃の周りをスキップした。