表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やけど  作者: 佐藤そら
3/10

明晰夢

 瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間だった。

 ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。

 

「ジョーン!」

 

 ジョーンは瑠璃にお辞儀をすると、手招きをする。

 

「えっ? どこかへ行くの?」

 

 ジョーンは瑠璃の手を引き、走り出した。

 

 

 気付くとそこはサーカス会場だった。

 

「サーカス?」

 

 ジョーンは、会場を指差し、首をかしげる。

 瑠璃はサーカスに行ったことがこれまでなかった。

 

「行ったことない」

 

 瑠璃は首を横に振った。

 

 いつの間にか、瑠璃は会場の座席に座っていた。ジョーンの姿はそこになかった。

 そして、サーカスが始まる。

 瑠璃は初めて見る光景に驚きの連続だった。

 すると、玉乗りをしながらジョーンが登場する。

 

「ジョーン! そっか、ジョーンはサーカスのピエロってことだよね」

 

 火の輪が用意され、メラメラと燃え始める。

 ジョーンは、玉から降りると客席に丁寧にお辞儀をした。

 そして、恐れることなく、今度は火の輪へと近づいて行く。

 

「えっ?」

 

 ジョーンは、指で火に触れようとして熱がる。

 

「あれって、ライオンとかがくぐるやつじゃ……」

 

 突然助走をつけ、火に向かってジョーンは走り始めた。

 

「ジョーン!」

 

 ×  ×  ×

 

 目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。

 隣では宮内が眠っていた。

 夜はまだ、長いようだ。

 

 どうして、どうしてこんなにジョーンが夢に出て来るの!?

 あのピエロは……

 

 

 花屋『DESTINY』で仕事をしながら瑠璃はずっと考えていた。

 

 火事の夢を見なくなったとはいえ、ピエロのジョーンが夢に出て来ることは、それはそれで気になった。

 “夢”が示すものは何か?

 “ピエロの夢”が示すものを調べることにした。

 スマートフォンで検索すると、夢占いのページに辿り着いた。

『心の奥にある孤独を表しています』とある。

 孤独……

 わたしはもう、孤独ではなくなったはずなのに……

 

 ×  ×  ×

 

 瑠璃が目を覚ますと、何もない真っ白な空間が広がっていた。

 ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。

 

「ジョーン……」

 

 ジョーンは嬉しそうに小刻みに頷く。

 

「体は大丈夫なの? やけどっ……」

 

 瑠璃は言葉を詰まらせた。

 ジョーンは平気な様子で、瑠璃にクルっと回転して見せる。

 

「あなたは誰なの?」

 

 ジョーンは胸に縫い付けられた『ジョーン』と書かれた布切れをアピールする。

 

「そういうことじゃなくて……。どうして、どうしてわたしの夢の中に現れるの? どこかで会ったことある?」

 

 ジョーンは首をかしげる。

 そして、突然瑠璃の手を引っ張り走り出す。

 

「え? ちょっと!」

 

 気付くとそこは街中になっていた。

 通りにはオシャレな洋服店が立ち並ぶ。

 ジョーンは手招きで瑠璃を洋服店に誘導する。

 瑠璃は服を手に取った。

 

「わー素敵!」

 

 ジョーンはご機嫌な様子だった。

 

「あれ? みんな値札がない」

 

 瑠璃の言葉に、ジョーンが笑いをこらえている。

 ジョーンは指を鳴らす。

 すると、瑠璃の服が一瞬で変わった。

 それは、先ほどまで瑠璃が手に持っていたはずの服だった。

 

「わっ! すごい! ジョーンって魔法が使えるの?」

 

 ジョーンは声を出すこともなく、床でバタバタ笑い転げている。

 

「ジョーン?」

 

 瑠璃はジョーンの様子に首をかしげた。

 ジョーンは手招きで試着室へ瑠璃を誘導する。

 

「え? 何?」

 

 試着室のカーテンを開くと、ジョーンは瑠璃の背中を突然押した。

 

「うわっ!」

 

 瑠璃は、試着室の中へ転ぶように入り、反対側からカーテンを押して転ぶように出てきた。

 すると、瑠璃はウエディングドレス姿に変わっていた。

 

「あれ?」

 

 ジョーンは、声を出すこともなく笑い転げている。

 

「ウエディングドレス?」

 

 ジョーンは、手を叩いて喜んでいた。

 

「ジョーンもお祝いしてくれるんだ」

 

 瑠璃は嬉しくなって、微笑んだ。

 ジョーンはカメラを取り出し瑠璃に向ける。

 瑠璃のウエディングドレス姿にシャッターを押した。

 

 ×  ×  ×

 

 目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。

 着ている服を確認したが、寝巻きを着ていた。

 そして、隣では宮内が眠っていた。

 夜はまだ、長いようだ。

 

「そっか……夢は持って来れないもんね」

 

 瑠璃は一人微笑んだ。

 

 

 朝、支度を済ませた宮内を瑠璃は見送る。

 

「いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 瑠璃は、手を振り宮内を見送った。

 

 

 

 ピエロのジョーンは、毎晩わたしの夢の中に現れた。

 そして、わたしの食べたいもの、行きたいとこ、どんなことでも叶えてくれた。

 ジョーンに豪華な食事を出され、沢山食べた。

 ジョーンは手を叩いて喜んでくれた。

 水族館に行くと、イルカショーがやっていた。

 乱入したジョーンが、イルカ以上の芸を見せて楽しませてくれた。

 

 

 瑠璃は、花屋『DESTINY』で、明美に夢の話を語っていた。

 

「それって明晰夢ってやつじゃない?」

 

「メイセキム?」

 

「そう、自分自身が夢だと自覚しながら見ている夢の事。明晰夢が見れるようになると、夢を思いのままに操れるようになるんだってさ!」

 

「へぇー」

 

「ねぇ、空とか飛べるんじゃない? 今度飛んできてよ!」

 

「えっ? そんなこと言われても」

 

「だって毎晩現れるんでしょ?」

 

 瑠璃は頷いた。

 

「良いピエロだね」

 

「えっ?」

 

「瑠璃ちゃん、前より嬉しそうだから」

 

 明美さんの言葉に、自分でも驚いた。

 いつの間にか、眠ると必ず火事の夢を見るという、あの恐怖の夜からわたしは解放されていたかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ