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やけど  作者: 佐藤そら
2/10

あなたは誰?

 その日、花屋『DESTINY』で働いていた瑠璃は、険しい表情をしていた。

 異変に気がついた明美が声をかける。


「どうしたの? 怖い顔しちゃって」


「えっ……」


「プロポーズまで受けた幸せ者とは思えない。108本の薔薇だったんでしょ? それって、結婚してくださいって意味じゃない!」


「はい……」


「ちょっとー。何? まさかマリッジブルー?」


「いや……夢がいつもと違ったんです」


「ん? 夢?」


「はい。わたし、毎晩同じ夢を見るんです。自分の家が燃えていく夢」


「……」


「でも、今日は違った……」


「でもそれって、ひょっとしたら良いことなんじゃない?」


「えっ……」


「瑠璃ちゃんが、あの日から解放されたっていう、そういうことなんじゃない?」


「……」


「結婚が新たな転機になったのかな」


 確かに大きな変化と言えば、間違いなくプロポーズだった。

 拓にプロポーズされたわたしは、火事の夢を見なかった。

 でもそれは、たまたまかもしれない。しかしこれまで、火事の夢を見ない日はなかった。

 そして、あの夢に出てきたピエロは一体……


 ×  ×  ×


 瑠璃は、何もない真っ白な空間を歩いていた。

 辺りをきょろきょろしていると、ピエロのジョーンが現れる。


「あなたは……助けてくれたピエロ」


 思わず瑠璃がそう口にすると、ジョーンは丁寧にお辞儀をして見せた。

 ステッキのようにダリアの花を取り出し、瑠璃に差し出す。


「ダリア……?」


 ジョーンは小刻みに頷く。


「ありがとう。ねぇ、ピエロさんは……」


 ジョーンは胸に縫い付けられた布切れを瑠璃にアピールした。

 布切れには『ジョーン』と書かれている。


「ジョーン? あなたジョーンっていうの?」


 ジョーンは嬉しそうに小刻みに頷いた。


「わたしは工藤瑠璃。よろしくね」


 ジョーンは嬉しそうに瑠璃の周りをスキップした。


 ×  ×  ×


 その日、瑠璃は宮内の車で、とある場所に向かっていた。


「もうすぐ見えてくるよ」


「楽しみ」


 瑠璃は微笑み、窓の外を見つめていた。

 ある一軒家の前で、宮内の車は止まった。


「ここが、この前言ってた家?」


「そう。今すぐにでも生活できるようになってるから」


 瑠璃は室内を嬉しそうに散策する。

 宮内はそれを見守っていた。

 キッチンには食器やグラスが、既に二人分揃えられている。

 お揃いのマグカップを見つけ、瑠璃は微笑んだ。


「気にってくれた?」


「うん。なんか、すごい不思議なんだよね。自分の家があるってこと。帰る場所があるってこと」


「これからは、ここが僕らの家。瑠璃は一人なんかじゃないよ」


「うん」


 あの火事の日以来、わたしには帰る場所がなかった。

 帰る場所をつくってくれたのは、間違いなく拓だった。




「本当にお世話になりました」


 瑠璃は明美にアパートの鍵を渡す。


「これからは二人暮らしか……」


「こういうのを運命って呼ぶのかしらね」


「えっ?」


「玉の輿って羨む人もいるだろうけど、まぁでも、瑠璃ちゃんにとっては命の恩人だもんね」


「はい」


「でも羨ましいわ。なんてね」


 ダリアには素敵な花言葉がある。

 華麗、優雅、感謝……

 わたしにも、素敵な未来が待っている気がする。

 夢に現れたピエロのジョーンは、何者かに追われているわたしを助けてくれた。

 きっとこれからはじまる新しい生活が、幸せに溢れていることを伝えてくれているのだろう。

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