絶望の前兆
理事長は起きた出来事を先生達に話に行った。
俺達は寮に帰る途中でジン達に会った。
「あっアーク。」
カイトが俺の名を呼ぶと同時に俺たちの元に走ってきた。
「アーク、キラ、どうしたんだその傷は?!」
ジンは俺たちのボロボロの姿を見て、慌ててこったに来た。
それについて行くようにロイドとローズベルトも慌てて俺らの元に来た。
「ひでえ傷だ...お前ら、保健室に運ぶぞ。 ったく、こんな姿で何普通に寮に帰ろうとしてんだよ。まず、怪我の手当てをしろ!」
ロイドとカイトはキラの肩を背負った。ジンとローズベルトはアークの肩を背負った。
「ジン、俺は大して怪我をしてない、俺よりレミさんとキラを...」
「アーク、あなた、バカ? どう見ても私は無傷でしょ。」
「レミの言う通りだ。今のお前の方が重症だ。自分が一番分かっているだろ、バカかお前は!大人しく運ばれろ!」
レミとガラードの容赦ない言い方にアークは丸くなった。
「この二人、怖ぇ...」
アークとキラは保健室に運んでもらった。レミとガラードはそれに付き添った。
◇◇◇
「うん、キラくんとアークくんは今日の19時までここでゆっくり治療するから、安静にね。」
俺とキラはかなりの重症だったため、今日の19時まで保健室で治療を受けることになった。
「じゃあ、アーク明日、ゆっくりと話を聞くからなぁ。」
ジンはそう言って、みんなと立ち去ろうとした。
「おいこら待てやァ!」
立ち去ろうとしたジンを止めたのはガラードだ。それと何故か、ローズベルトも止められている。
「おめぇらも休め...組手はこのバカ二匹とやる。」
「いや、俺は...」
「いいから、休めェ!」
ガラードは怒鳴り声でジンの言葉を遮った。
「それと金髪野郎、お前もだ。お前も魔力がかなり減ってる。 それに体もボロボロだ。 カッコつけて、我慢してるんじゃねぇ!」
ガラードはジンとローズベルトもかなり体力を消耗していることに気づいていた。
「ガラードくんの言う通りだね...君達も治療するわ。
ジンくんは体力の回復、ローズベルトくんはその右腕の怪我を治してあげるわ。」
ローズベルトはサナ先生の発言に反応し、咄嗟に右腕を背中の後ろに隠した。 まるで、何かを隠すように。
「ガラードくんは気づいていたのね。ローズベルトくんが怪我を我慢していることに...優しいね。」
「うるせぇ! というか、普通気づくわァ。
こいつ、右利きのくせにさっきから左手ばっか使って、怪しかったんだよ。 それに血なまぐさい匂いもしてたからなァ!」
匂いで分かるのか...すごいな。それに周りをよく見てる。
「じゃあ、ジンくんとローズベルトくんも一緒にベットに寝てもらうね。」
そう言ってサナ先生は二人もベットに寝かせた。
「じゃあ、四人ともちゃんと休めよ。」
「それと今日の夜、食堂に集合な。そのあとは風呂に行くぞ!」
カイトとロイドはそう言って先に立ち去った。
ガラードは何も言わず、二人と一緒に立ち去った。
「アーク。」
レミが俺の名を呼んだ。
「また今度、話があるわ。」
レミはそう言って、踵を返し部屋から立ち去った。
俺は「わかった」と一言だけ言った。
「アーク、お前何してたんだ?」
ジンは俺に今日、何をしていたか訊いてきた。
俺は少し言うのを躊躇い、考えた。
理事長から訊いた全てを話すべきなのかどうかを。
そして、言うことにした。
「今日、俺は実験室にいるラース先生と戦った。
いや、殺し合いをした。」
ジンはアークの発言に顔色一つ変えなかった。
冷静にアークの話を訊こうとした。
「ラースは神魔会という神を信仰し、神の復活を企んでいる、組織の一員だった。神魔会はこの前のモンスター襲撃事件を企んでいた黒幕だ。
多分、理事長がそのことについて発表すると思う。」
俺はジンにある程度のことを話した。ジンは少し、険しい顔をしている。
「そうか、これからその神魔会と戦うかもしれないのか。」
「あぁ、神魔会にどんな奴がいるかは分からない。
ただ、おそらくどいつもこいつも強者だろう。」
困った顔をするジン。
「ほんと、めんどくさい連中がいたもんだな。
みんな、神を敵だと考えているものだと思っていた。」
「俺もそう思っていた...だが、中には世の中とは違う考えを持つ者もいる。」
何のために神を復活させようとしているのか全く分からない。 まあ、こればかりは神魔会の人間から訊く必要があるな。
「おそらく、これからは軍の人達が神魔会と戦うだろう。 俺たちもまた、襲われる可能性もある。 だから、学園の警備も強まるだろう。」
軍にはSSランク戦士、Sランク戦士もいる。
勢力的にはこっちの方が上だろう。
それに...
「失礼します。」
「トウヤ先生。」
保健室に入ってきたのはトウヤ先生だった。
「お前ら、無事か。」
「俺は全然、大丈夫ですよ。」
「俺も大丈夫です。」
「そうか、ならよかった。」
心の中で少し安心するトウヤ先生。
「本当はマキが行くつもりだったんだが、運ばれたのがお前らと訊いて、俺が行くことにした。」
トウヤ先生は理事長からある程度のことを訊いたらしい。
神魔会のこと。
そして、ラースがその仲間でこの学園の内通者だったということも。
「まず、アーク! お前に言うことがある。」
トウヤ先生は鋭い目付きで俺を睨みつけた。
これは怒ってる目だわぁ...
「何故、俺に言わなかった。
ラースが内通者だと分かって行ったんだろ。」
「すいません...俺は内通者がラース以外にもいるかもしれないと思っていたので安易にいろんな人に情報を渡すのは良くないと考えていました。」
「そうか...それでも、俺だけには一言伝えて欲しかった。
俺はお前たちを危険な目に合わせたくないからよ。」
「本当にすみませんでした。」
今は、頭が下げれないけど俺は心からトウヤ先生に謝った。
「次から俺に一言報告してくれ。 それとこれから学園の警備を強めていく。 前回や今回みたいなことは絶対にさせない。 だから、早く体を治して安心して月曜日から学園に来い。」
「はい!」
「そして、ジン...お前達も何があったか月曜日に説明してもらう。」
「分かりました。」
「それじゃあ、俺はここら辺で戻る。 月曜日、学園で会おう。」
「「はい!」」
俺とジンは声を合わせて返事をした。
◇◇◇
東の町の地下。
ここは神魔会のアジトだ。
「お久しぶりです。」
大広間。
ここは神魔会の幹部だけが集まり会議をする場所だ。
そこにある男がたった今、帰ってきた。
「おっ久しぶりだな。」
「どうですか、学園生活は?」
「いや、普通ですね...まあ、今日は学園生活の話では無く、報告をしに来ました。」
男は席に座った。
「なんだ? くだらない話だったらぶっ飛ばすぞ。」
「シンジくんにとってはつまらない話かも。
まあ、でも一応訊いてくれないか。」
幹部全員が男に目線を向ける。
「ゴッホン。それでは報告します。」
数秒、沈黙の空間が続いた。
「ラースが死にました。」
「なんだと!」
「あいつが死んだだと。」
「私は別に死んでくれても構わなかったけどね。
大して強いわけでもないのに幹部に居るし。
まあ、弱者は死んで当たり前って感じ。」
「おいおい、アメリア、そんな言い方をするでない。
バラムが悲しむだろ。」
「構いませんよ、ラバルトさん。ラース様は自分を創った者。 ただ、それだけです。
確かに主として仕えてはいましたがそれ以外の感情は持ち合わせていません。」
「アハハ、結構酷いこと言うねバラム〜まあ、幹部の一人ぐらい死んでも問題ないよ。」
「いや、問題はありますよ。 人工的にモンスターを創れなくなったんですよ。 これは戦力が大幅に減少したと言っていいでしょう。」
「別に雑魚モンスターがいたところで何も変わらないで
しょ...まだ、人間の方が使えるわ。」
「ラミリア姉さんの言う通りだぜ。雑魚モンスターなんか、要らねぇよ!あんなの戦力にもならないわ。
タキヤ、お前は考えすぎなんだよ。 そんなんだから、幹部最弱なんだよ!」
「アメリア、落ち着きなさい。 そんな、酷いこと言っちゃダメよ。」
「すいません、姉さん。」
アメリアとラミリアは姉妹だ。ラミリアが姉、アメリアが妹だ。
「あの...皆さん、続きを話していいですか?」
幹部たちの会話は止まらない。
男の声は幹部たちの会話にかき消された。
「困ったなぁ...」
頭を書きながら、困った顔をする男。
その瞬間、パンッという手を叩く音が響いた。
幹部たちの会話が止まった。
「まだ報告は終わってないぞ...皆、落ち着きたまえ。」
会話を止めたのは一番前の真ん中の席に座っているカリヤだ。
「続きを話してくれ。」
「はい。 ラースを内通者だと気づいて戦ったのはアークとレミです。」
二人の名前を聞いた瞬間、全員が顔色を変えた。
「また、あのクソガキ二匹かよ。」
「神殺しの剣の持ち主ぃ...また、あいつか!」
「これは彼も僕達の存在に気づいていると考えていいってことだよね。」
ギリアは男に訊いた。
「はい、彼らはもう、私たちの存在に気づくでしょう。
どうやら、ラースとアーク達が戦っている時、理事長が参戦したらしいです。」
「理事長だと?!」
「あの男が動き出したのか...」
「これは厄介なことになりましたね。」
「我々、全戦力を持っても理事長に勝てるかどうか...」
幹部達は困った顔をする。
「まあ、理事長は前から我々のことを薄々気づいていたでしょう。 それが今回は明らかになったという話です。
おそらく、明日中には私たちのことが発表されるでしょう。」
「じゃあ、戦いが始まるということか! ワクワクしてきたなぁ!」
シンジは立ち上がり、テーブルの上に足を強く踏みつけた。
「強い者とたくさん戦える。 SSランク戦士と戦えますね。
興奮してきましたよォ!」
バラムとシンジは軍と全面戦争が出来ることに喜び、今すぐ戦いたいと体が疼いている。
「まあ、戦っても勝ち目はないでしょう。」
「ナニィ...俺たちが負けると言いたいのか?」
「それは負けるでしょう。 英雄学園には人類最強の理事長シュレギオン。
それに元SSランク戦士、最強のトウヤ。
そして、今のSSランク戦士よりも強いと言われている学園トップの生徒会長リベリオ。
軍と全面戦争する場合、この3人も軍に要請されるでしょう。 だから、今はまだ攻めれ...」
「攻めれる。」
男が攻めれないと言う前に誰かが攻めれると言った。
幹部が一斉に攻めれると言った奴に視線を向ける。
「カリヤさん、本気ですか?」
「あぁ、攻めれるとも。」
「理由は何ですか?」
「まず、一つ...ラースの研究体がまだここにはたくさんある。だいたい、300といったところだろう。
そして、この300匹を理事長にぶつける。」
「それでも、理事長は300匹ぐらい一瞬で片付けませんか?」
ラバルトはカリヤのその作戦でも不可能だと言っている。
理事長の強さは頭一つ飛び抜けてる。
そこらの雑魚モンスター300匹なら数分で片付けれるだろう。
「それはどうかな? ラースの研究体は全てAランク以上。
それに我々が攻めるのは軍ではない。
学園だ!」
「ナッ?!」
「本気ですか?!」
「アハハ、カリヤったら面白い。
学園に敵の最大戦力が居るのにそこを攻めるなんて。」
「それに、今、学園の警備は強まっているだろ。
そんな中に突っ込んでも返り討ちに合うのが見えてるわ。」
幹部のほとんどがカリヤの作戦に反対している。
「確かにあそこには最大戦力が居ます。
でも、最弱の戦力もいます。」
「最弱の戦力...なんだそれ?」
「生徒のことですね。」
「そうです。 モンスター300匹を学園にぶち込む。
何人の生徒が巻き込まれますかね...」
「生徒は授業をしてるんだろ...つまり、各クラスに教員が1人は居るってことだろ。
それなら、やっぱり不可能だろ。」
「えぇ、不可能ですね...そこで2つ目です。」
全員が静まり返った。
「じゃあ、〇〇〇〇くん頼むよ。」
「はい。 6月20日、英雄学園では学園祭をやります。」
「ほほぉ...」
「なるほど、カリヤの言いたいことはそういうことか。」
「学園祭では生徒達は自由に動き回る。教員と生徒が必ず一緒にいるとは限らない。」
「でも、それは学園内に侵入出来た場合の話でしょ。 警備は強まっているのだから、学園にバリアが張られるでしょう。 それこそ、トウヤとかリベリオとかシュレギオンが待ち構えている可能性だってある。」
「誰が正面から入ると言った?」
「ん?」
「ラミリアくん、君が言っていることはバカ正直に正面から入る場合だ。 我々は300匹のモンスターと一緒に空から学園に突っ込む!」
「だから、それはバリアがあるから無理だって姉さんが今...」
「アメリアさん、カリヤ様の固有スキルを忘れましたか?」
アメリアに少し考える時間を与えるかのように沈黙の空間が続いた。
「あぁ、わかった...確かにそれなら学園に侵入出来るし、必ず成功するだろう。」
「アメリアの言う通りだな。」
「アハハ、僕もそれなら成功する気しかしないから賛成だね。」
「俺は強い奴と戦えるなら大賛成だ!」
「右に同じく。」
「シンジくんには暴れてもらう。
バラムくんはあのガラードという男と決着をつけたいのだろ? 好きなようにしろ。」
「なんと! よろしいのですか?!」
「あぁ...構わない。」
「ありがとうございます...必ず勝利を取ってきます。」
「それと...〇〇〇〇くんは学園祭の予定とか時間帯のことを色々、調べといてくれ。
今回、君にはかなり働いてもらうよ。」
「分かりました。」
「さて、会議はここまでだ! 6月20日、我々は英雄学園に恐怖を与える! 始めようか...殺し合いを。」
神魔会は6月20日、英雄学園を攻める。
そして、これがアーク達に大きな絶望を与えることになるだろう...
天音です。
最近、書く気力がなかったからめっちゃ投稿遅れました。
次、投稿するの日は未定です。
しばらく、休むかもしれません。