静かな殺意
「禍々しいオーラを感じるわ。」
これがラースのモンスターを取り込むスキルか。
虎型と熊型を同時に取り込んだことで有り得ないまでに強くなっている。
「キラ、ラースの魔力量は?」
俺は恐る恐る訊いた。
俺の予想では...
「単純に虎型と熊型の二匹の魔力がプラスされただけなら、ラースの魔力4120と虎型のモンスターの魔力2万1200と熊型のモンスターの魔力4万200で合計魔力6万5520になるはずだ。
だけど、奴の今の魔力は...」
ごくりと息を呑みキラは言った。
「8万9760だ。」
やはり、多いか。
アークは剣の柄を握り戦闘態勢に入る。
アークにつられキラとレミも戦闘態勢に入った。
「アーク、レミ、あいつが使う魔法は熊型のモンスターとほぼ変わらない...俺があいつの動きを出来るだけ読むから...」
キラが最後に何か言おうとした刹那、俺とレミの視界からラースが消えた。
俺は咄嗟にキラの方に向いて叫んだ。
「避けろキ...」
俺が言おうとした時にはもう遅かった。
ドーンという爆発のような轟音が響き、そして、俺の視界からキラが消えていた。
磐に叩きつけられるキラ。
「グハッ!」
キラは赤黒い血を吐いて倒れた。
「君の真眼の弱点は相手の武力を見れないことだ。
だから、こんな風に物理攻撃であっさりやられるのさ。」
「貴様ぁぁぁぁ!」
怒声で吼えるレミ。
氷の剣を創り、地面を蹴ってラースに飛びかかる。
俺はレミの服を掴んで引っ張ると同時につま先で地面を蹴り後ろに下がった。
「今は距離を取れ、ラースのスピードとレミのスピードではラースの方が上だ。」
「いい判断だ、アーク。」
今のラースの強さは魔法じゃない、あのとてつもないパワーとスピードだ。
「ごめん、アーク取り乱してしまったわ。」
「いや、仕方ないよ...俺も一瞬冷静さを失った。」
俺も本当はキラが殴られた瞬間ブチ切れて、ラースを斬り殺そうとした。
でも、レミが先に飛び込んでくれたおかげで何とか冷静さを取り戻した。
「さて、アーク君は殴り殺し、レミ君は死なない程度に痛めつけてあげるよ。
モンスターらしく魔法ではなく力のままに。」
俺は魔力でなく力のままにという言葉を聞いてあることが頭の中に流れてきた。
そういえば、魔法を使えるモンスターって特殊変異したモンスターとドラゴンだけでは?
「ラース、あの熊のモンスターはなぜ、魔法が使えた。
普通、魔法が使えるのは特殊変異したモンスターとドラゴンだけだぞ。」
「その通りだよアーク君。
でもね、私はモンスターの実験を続けたことで新たに魔法を使えるモンスターを生み出したのだ。」
「それが熊型のモンスターだと。」
「その通り、私は魔法が使えるモンスターをもう一匹創り出したのだ。 それが熊型のモンスターだ。
他の動物にも同じ実験を繰り返したけど魔法が使えるようになることはなかった。 使えたのは熊だけだった。」
なんていうことだ。熊型のモンスターも魔法が使えたのか。
熊型のモンスターの強さを改めて考え直す必要がありそうだな。
「あなた、どうやって熊型のモンスターが魔法を使えることを知ったの? 一体どんな実験をしたと言うの。」
レミは鋭い目付きでラースに訊いた。
「簡単さ...魔法を使える者をモンスターに食わせた。」
ラースの発言を訊いた瞬間、アークとレミは寒気を感じた。
そして、想像したくもない考えがよぎった。
「あなた、まさか。」
「モンスターに人を食わせたな!」
アークは怒りのこもった声でラースを睨みつけた。
その表情を見て、クックックッと笑い声を洩らしながら狂気じみた笑顔をするラース。
「その通りだよ!私はモンスター達に強い戦士を食わせた。
そして、様々なモンスターに食わせた結果、熊型のモンスターだけが魔法に目覚めたのだ!」
ラースはその時の光景を思い浮かべながらハッハッハッハーと喜びの声を上げた。
なんて野郎だ。
実験用の人間を捕まえて、モンスター達に食わせ、人殺しをしていたのだ。
俺らが想像していた以上にこいつはとんでもねぇクズ野郎だ。
「あなた、何人の命を奪ったの。」
気分が悪そうな顔でレミはラースに問いかけた。
「そうだね...詳しい数は覚えてないけど、だいたい400人ぐらいかな。 子供は100人以上は実験体に使ったかな。」
平気な顔でラースは淡々と話した。
「なんだと。」
「なんて事を。」
アークとレミは凄まじい怒りが込み上がってきた。
それと同時にアークはラースの発言に違和感を感じた。
「お前は普通の人間より戦闘が出来ないはずだ。
子供ならまだしも、魔法が使える大人を捕まえるのはお前では不可能なはずだ。」
「魔法を使える大人や軍の戦士はバラムに捕まえてもらったさ。 彼はすごいよ.Sランク戦士にも勝つ程だからね。」
なるほど、バラムか。
確かにあいつなら魔法を使える大人にも戦士にも勝てるだろう。
「もう一つ訊かせろ。」
「何かね。」
「お前はどうやってそんなに大量の人間を集めた。
400人の人間を毎日一人、二人捕まえ実験をするのはかなりの時間がかかる。
それに400人の人が消えれば何かしら異変に気づく人がいるはずだ。
だけど、毎日何人かの人が死んだ、行方不明等の事件は聞いたことがない...お前はどうやって大量の人間を捕まえた。」
「アーク君の予想している通り、私は一気に人間を捕まえたよ...君達も知っているだろ。モンスター戦争の事件を。」
「っな!」
「まさか。」
「そうだよ、私があの戦争の黒幕さ。」
モンスター戦争、それはSSランクモンスターと370体のAランクモンスターが町を巻き込んで争った事件だ。
町は半壊、多くの人間が死亡し、SSランクモンスターとAランクモンスター370体も死亡した。
最悪の事件である。
そして、その黒幕の正体がラースだと、たった今、判明した。
「私は特殊変異型のSSランクモンスターを創り出した。
それの実力確認をする為に私のモンスターを呼び寄せるスキルでAランクモンスターを大量に呼び出した。」
なるほど、あの大量のAランクモンスターを集めたのはラースの固有スキルか。
確かにラースの固有スキルなら370体のAランクモンスター集めるのは容易なことだ。
「そして、その時から私は魔法が使えるモンスターを見つける為の実験をしていた。
だから、SSランクモンスターと大量のAランクモンスターを町に解き放った。
この実験はSSランクモンスターが死亡して私もかなり痛い思いをした。だがしかし、大量の実験体を手に入れることには成功した。」
「モンスター戦争で大量の人間を巻き込んで殺し、そしてその死体を使ったのだな。」
「半分は正解だ。 死体だと、魔力は弱まるんだ。
だから、なるべく生きた状態で捕らえた。
そして、生きた状態でモンスター達に食わせた。」
ラースは笑っている。 ラースは人の命を道具としてしか見てない。 だから、こんなに平気な顔で笑っていられるのだ。
「だが、手に入れた実験体はどれも大人だった。
私は子供の実験データも欲しかったのだよ。
そこで私は子供の実験体を手に入れる為に大量の子供を誘拐した。」
「待って、大量の子供を誘拐した。それってまさか。
子供100名が行方不明になった事件の。」
「その通り...あの事件の黒幕も私さ!」
「嘘...そんな。」
レミは口を手で押さえ、苦しそうに震えた。
子供の命でも容赦なく奪うラースの残酷非道なまでの行為。
死んでいた子供たちのことを思うとレミは気が狂いそうになった。
「そして、私は子供と大人、約400の実験体を使って実験を始めた。 あの時の実験は素晴らしかったよ。いろんなことが知れたからね。」
嬉しそうに話すラース。
「あなた、捕らえた子供達に何をしたの?!」
レミはかつてないほどの怒りの声で言った。
「それを聞く必要はあるかね?
おおよそレミ君の予想通りだと思うよ。」
「あなた、命をなんだと思ってるんだ!」
レミは怒りの声でラースに向かって吼えた。
この野郎、400人の人達の命を弄び、殺しやがったな。
「命? 命は大切だよ...自分の命はね。」
「他人の命はどうでもいいと思っているの?!」
レミは覇気のこもった声でラースを威圧した。
「当たり前だ。他人の命?
私からすれば他人の命等、実験用の物に過ぎない!
私はやりたいことの為にいろんな物を使うのさ!
人は自分のやりたい事、人生の為に自分勝手なことをするものだ。 私も他人もお前達も自分が一番大切だ。
自分が満足をする為に、自分の為になることをするだろ?
それの何がいけない?それこそが人間だ!
人間は自分の快楽を満たすために生きているのだ。
快楽を得られない人間など死んでいるのと同じだ!」
「だからといって他人の人生を奪ってまで自分のやりたいことをするのはおかしいわ!
自分の快楽のために人を殺すなんて間違っている!」
あぁ、全くもって同意見だ。
「はぁ〜君達はそれでも人間か?自分のやりたいことを我慢するのはつまらないだろ。
それに私以外の人間がやりたいことをやっているのになぜ、私が我慢しなければならないのだ。
他人の人生、そんな物、私には関係ない。
私はやりたいことをやる!
その為にアーク君は死ね!そして、レミ君は私の可愛い実験体となれ!
私のためだけに!」
「狂ってるわ。」
「ちょっと無駄話をしすぎた。
それじゃあ、アーク君を殺して、レミ君はたっぷり実験をさせてもらおう。
あのクソみたいなガキ共のように体の隅まで犯してや...」
「黙れ。」
アークの覇気のこもった声がラースの最後の一言をかき消した。
「お前の腐った話はもう聞き飽きた。
その腐った脳みそごと叩き斬ってやる。」
殺意のこもった眼差しでラースを睨みつけるアーク。
「私もアーク君を殺して早く実験がしたいのだ。
大人しく死ぬがいい。」
ラースはそう言い切ると同時に地面を蹴りアークの方に飛びかかった。
「アーク、下がって私が凍らせ...」
レミが下がれと言う前に俺は手を出すなと言うかのように下がれと手で合図した。
「死ね!」
ラースはおぞましく、アークの身長よりも倍以上の大きさがある腕を大きく振り上げ、手を握り拳を創った。
そして、アークの頭蓋を殴り潰さんと真上から腕を振り下ろした。
「アーク!」
「終わりだ。」
ボーンという爆発のような音が響いた。
おそらく拳がアークを潰し地面を割った音だろう。
ラースとレミはそう思った。
だが、それは僅かの一瞬だった。
「なんだ、これは?」
ラースの体から右腕は切り離されていた。
そして、紫色の血が勢いよく吹き出た。
煙幕が晴れ、アークの姿があらわになる。
アークは無傷であり、剣に付着した血を払うように剣を振った。
(煙幕のせいで何をしたのか見えなかったけど、おそらくあの一瞬でラースの腕を斬ったのね。)
(最初、斬られたことに気づかなかった。
私は完全にアーク君を殴り潰したと思った。
斬られたことにすら気づかなかった?
いや、私がモンスターと合体したことで感覚が無くなっただけか。おそらく、アークは避けた後、斬ったのだろう。
なら、次は避けられない速さで殴る。)
ラースの斬られた腕が再生した。
「再生スピードが早い!」
レミはドラゴンや虎や熊よりも早い再生能力を持つラース先生に驚いた。
「今度こそ、死にたまえ、アーク君。」
ラースは地面を蹴り、再びアークに襲いかかった。
そして、腕を振り上げた。
その刹那...
「はぁ?」
ラースは驚き、何が起こったか分からないような声を出した。
そして、ラースの視界は一気に反転した。
ラースの視界には森の木のてっぺん、空が見えていた。
そして、目を空ではなくアークの方に向けようと起き上がろうとした。
その瞬間。
(体が上がらない。)
そして、ラースは気づいた。
(下半身が無い。)
ラースはすぐに下半身を再生させて、起き上がった。
そして、ラースの視界には斬られた自分の下半身だけが映っていた。
ラースの斬られた下半身は灰となって消えていった。
「貴様、何をした!」
焦りと苛立ちを感じながら怒鳴り声で吼えるラース。
そんなラースにアークは禍々しくも恐ろしいほどに静かな殺意を向けた。
そして、覇気のこもった声で告げた。
「うるせぇな...黙ってろ、今すぐ斬り殺してやるからよ。」
アークは黒い瘴気を纏い殺意のオーラをラースに向けた。
こんにちは天音です。
最近、風邪が流行っているらしいですね。
天音は見事に風邪をひきました( ̄−ω− ̄)
喉痛いです。
そのせいか、書く気力もありませんでした
決してサボっていた訳ではありません。
まあ、風邪の話はここら辺にして次回は
アークとモンスターを取り込んだラースの本気の勝負が始まります。
果たして、アークは勝つことが出来るのだろうか?
それでは次回の話で。
元気な時に出します。