共闘
お菓子の甘くて上品な香りが鼻の中を漂う。
俺は今レミさんの部屋に居る。
人生初の女の子部屋に俺は今すごく緊張している。
そして何よりも。
「コーヒーは好きかな?」
レミさんのパジャマ姿が可愛いすぎる!
俺はレミさんの顔を見ることが出来ず、目を合わせないよう顔を入ってきた扉に向けた。
というか本当にレミさん?
学園ではあんなにクールで凛々しく美しくて周りから氷の女王とか言われてるあのレミさんがこんなに可愛いなんて!
いや、確かに最初から可愛いとは思ってたけど、どっちかと言うとクールで美しく、冷酷な美人系のイメージの方が強い。
「ちょっとこっち向いてよ。」
レミさんは俺の肩を叩き、自分の方に向いてよと言うかのようにした。
とりあえず落ち着け俺、 まずはレミさんの話を聞こう。
よし、いつも通りの表情にして。
「クッキーとコーヒーありがとう。いただきます。」
俺はそう言って丸いクッキーを手に取り食べた。
俺の口の中にクッキーの甘みと旨みが広がった。
「美味しい。」
咄嗟に出てきたのは美味しいという言葉だった。
俺はあまりの美味しさに言葉を失いかけた。
俺は次にコーヒーを飲んだ。
「美味しい。」
俺の口の中に絶妙な苦味とコーヒーの独特の美味しさが口の中に広がった。クッキーの甘みとコーヒーの苦味がマッチしている。相性が最高である。本当に美味しい。
「ありがとう。」
「レミさんは料理が得意なんですか?」
「小さい頃お母さんに作り方を教えてもらったんだ。
ミラにはよく実験台になってもらってたわ。」
「言い方が酷いですね。」
俺は苦笑いをしながら再びクッキーをほおばった。
俺、母さんのお菓子好きだったな。 母さんのクッキーは最高に美味しかった。でも、レミさんのも美味しい。
母さんとレミさんのクッキーはそれぞれ違う美味しさがあるな。
って。
「そうじゃない!」
「どうしたの?」
「失礼、なんでもない。」
クッキーの美味しさで本来の目的を忘れるところだった。
レミさんは俺に何か話すことがあって呼んだはずだ。その事について聞かないと。
「レミさん、話したい事って何ですか?」
俺は本来の目的の内容に入ろうとした。
「アーク、敬語を使わなくていいよ。気軽に話しましょう。
今は私とアークだけなのだから。」
レミさんはくつろいだ体制で俺に気軽にして欲しいと言った。
「分かりました。」
「ほら、敬語使わない!」
「すいません、つい癖で。」
「あなたが本当にあの時、私を助けてくれた人に思えないわ。 アークは戦闘になると人が変わるタイプなの?」
「自分はコミュ障なのでついつい敬語を使ってしまうんですよ。 でも、戦闘の時はなんと言うか、スイッチが切り替わる感じというか、二重人格的な?」
俺は一体何を言ってるんだ。二重人格なわけあるか!
「あの時は別の人格だったということ?」
「いや、あれは自分です。その二重人格ではなくて、そのぉ、そう!あれが僕の本性ってやつです。」
なんか滑ってる。 色々滑ってるぞ俺。
「ふふ、面白いわね。」
「あはは...」
俺は冷や汗を流しながら苦笑いをした。
やべぇ、くそ恥ずかしい。
「まあ、軽い話はここまでにして本題を話し合いましょ。」
ここで俺とレミさんは本題の話を始めようとした。
「私が今日アークを呼んだ理由は二週間前のモンスター襲撃について話したかったからよ。」
俺はその言葉を聞いてあるモンスターが頭に過ぎった。
「ドラゴン。」
「そう、私達が戦ったドラゴンについてよ。」
あのドラゴンの正体はイーストシティに現れたSSランクモンスターだった。ドラゴンが現れたのはモンスター襲撃事件があった朝の時間だった。
そして、俺達の学園に現れたのは訓練の時間帯、つまり昼過ぎだ。
「ドラゴンは朝の八時に出現した。
そして私達の学園に現れたのはだいたい十五時だわ。」
つまりドラゴンはだいたい七時間でイーストシティからセンターまで辿り着いたことになる。それもSランク戦士と戦いながら。
「アークはこれについてどう思う?」
おそらくレミさんの言いたいことはこういうことだろう。
約七時間でドラゴンがイーストシティからセンターまで来ることが出来るのか。
答えは一つだ。
「不可能だ。」
俺は断言した。
「そう言うと思ったわ。私も全く同じ意見だわ。」
俺達が身体強化を使ってイーストシティからセンターまで休まず走っていたとしよう。
間違いなく五日以上はかかるだろう。
「あのドラゴン私が戦った時スピードはかなり遅かったわ。
空を飛ぶにしてもあの風圧攻撃から考えて、そんなに長く飛べるとは考えにくいわ。」
「俺も全く同じ意見だ。」
「アーク、真剣に話してるところ悪いんだけど。」
なんだ急にかしこまって。
「なんか喋り方と雰囲気が変わってない?」
「そうかもな。」
多分俺はスイッチが切り替わっているのだと思う。
今の俺の状態は多分戦闘をしている時の状態と似たようなものだろう。
「それでレミさんはどう考えているの?」
俺は話の話題を戻した。レミさんはそれに反応するように答えた。
「おそらくだけど、何者かがあのドラゴンをイーストシティからセンターまで転移させたと思う。」
やはりそれしか無いよな。そしてそれが出来る人物が一人いる。
「「バラム」」
アークとレミさんの声が重なった。
バラムは大量のモンスターとドラゴンと一緒に現れたモンスターと人間、両方のオーラを放っていた謎の男だ。
ガラードが言うにはかなりの魔法使いだったらしい。
特にバリアを使った技が得意だと。
「バラムという男があのモンスターを転移させたと私は考えるわ。」
「俺もそうだと思う、と言いたいところだけど。」
俺の発言にレミさんは首を傾げる。
「トウヤ先生から聞いた事なんだが、あのバラムという男は最後転移魔法で逃げた。魔力がほぼ空の状態で。」
俺の発言にレミさんは険しい顔をする。
「あれはおそろくバラムが貼った転移魔法陣ではなく、誰か別の人物が貼った転移魔法陣だと。
転移魔法陣からはバラムと違う魔力のオーラを感じたらしいし。」
「つまりバラムは転移魔法陣が使えないと言いたいの?」
「そして、バラムという男以外に学園に何者かが侵入した。
あるいはバラムに加担した者がいる。」
「トウヤ先生の情報からもう一つ分かることがあるわ。」
レミさんと俺の意見は多分同じだろう。
そうバラムという男は。
「おそらく何らかの組織の一員。そして、その組織が学園を襲うよう命令した。」
「やはり、アークもそう思っているのね。」
バラムという男は何らかの組織に入っていて、その組織が学園を狙っている。もしこの仮説が正しいのならこの学園はかなりやばい事に巻き込まれている。
あの恐ろしいドラゴンを従えることができる組織だ。
そう考えるだけで恐ろしい。
「とりあえずアークと私の意見は転移魔法陣でドラゴンがイーストシティからセンターまで来たということでいいかしら?」
「あぁ、真相は分からないがそれしか考えられない。」
今はこの仮説が一番可能性が高いだろう。
「次の話は結界よ。」
結界? あ、ドラゴンの時のやつか。
「あの結界はバラムの貼ったものだと思う?」
「どうしてそう思うんだ?」
まあ、俺もバラムが貼ったと思うけどな。
最初は。
「まず一つ。あのドラゴンは戦って、分かったけど魔法が使えない。 唯一使えたのも魔力のエネルギー砲だけだわ。」
「あのドラゴンは炎を使ってたぞ。 炎魔法ぐらいなら色々使えると思うぞ。」
「いや、使えないわ。あのドラゴンの属性が火属性だから炎を纏っていただけで、魔法自体は使えないわ。
アークと戦っている時も爪に炎を纏わせているだけで魔法を使ってたわけじゃないわ。」
確かにそうだな。その意見なら辻褄が合うな。
あのドラゴンは元々炎を纏っていた火属性のドラゴンだ。
俺らみたいに魔法発動させ、纏わせるのとは違う。
「二つ目はバリアよ。」
バリア、おそらくバラムのことを指してるだろう。
「あの結界の正体はバリアだと言いたいのか?」
「そうよ。あれは結界ではなくバリアだと私は思うわ。」
バラムはバリアを得意としていた。あれは結界ではなくバリアだったとするならバラムが展開したと考えるのが妥当だろう。
「どう思う?」
「ドラゴンと俺達の場所に貼られたあれはバリアではない結界だ。」
俺はレミさんの意見を否定した。それには理由がある。
なぜならバリアは。
「バリアは内側の攻撃に弱い。」
俺の発言を訊いてレミさんはきょとんとした顔をする。
「どういうこと?」
「見せた方が早いかな。このコーヒーを使わせてもらうよ。」
レミさんは頷き許可を出した。
俺はコーヒーが入ってるコーヒーカップをバリアで囲むように張った。
「今からバリアの外側と内側に全く同じ衝撃を与える。
レミさんのコーヒーも使わせてもらうね。」
俺はレミさんが飲んでいたコーヒーを水魔法で棘の形に変えバリアの外側の面に攻撃した。
バリアは無傷で割れることはなかった。
「次に内側。」
俺は次にバリアに囲まれている俺の使っていたコーヒーカップの中のコーヒーを水魔法で棘の形に変えバリアの内側の面に攻撃した。
そして、攻撃を食らったバリアはパリンという音を立て割れた。
バリアが割れる光景を見てレミは驚いた顔をした。
「同じ威力にしたからな。」
「初めて知ったわ。バリアって内側の攻撃に弱いのね。」
「バリアは相手からの攻撃を守る魔法だ。外側の攻撃に強いが内側の攻撃には弱い。一瞬で割れる。」
レミさんもこれで俺の言いたいことも理解しただろう。
「じゃあ、あれはバリアではなく結界だということになるね。」
「結界はバリアの逆で内側に強く、外側に弱い。
大抵の人は結界とバリアの違いは大魔法か普通の魔法かの違いだと思ってるらしいけど、結界は特定の相手を閉じ込める為の魔法、バリアは相手からの攻撃を防ぐ魔法なのだ。
まあ、結界はバリアよりも大きな魔法だから結界の方が魔力を使うし、使える人も少ない。」
「詳しいのね。」
「まあな。」
小さい頃に親父に教えてもらったんだよな。親父は魔法に詳しかったしな。一回も魔法を使ってくれなかったけどな。
あの時だけ以外は。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
多分俺は険しい顔をしていたんだろう。昔のことを振り返る前に今は二週間前の話だ。
「じゃあ、あれは結界だとして一体誰がそれを貼ったのかだよね。」
「結界は大魔法だ。簡単に出来る魔法ではない。
バラムみたいなかなりの魔法使いじゃないと無理だろう。かと言ってバラムが貼ったとは思えないがな。」
「その理由は?」
「結界が貼れるほどの魔法使いで結界を貼った後でもトウヤ先生やガラードと互角に渡り合える程の魔力量があるなら全魔力を使ったエネルギー砲で学園を吹っ飛ばしたり一人で襲撃して生徒を皆殺しにする方がいいだろう。」
「良くはないけど、確かにそっちの方が効率がいい。」
「こんな面倒臭いやり方をするっていうことはバラムに結界を貼った後でも戦うことが出来る程の魔力量と強さはない。」
「じゃあ、やはり別の人物が貼ったということ?」
「そうなるかな。まあ、誰が張ったのかは分からないけどな。」
多分これ以上話しても誰が結界を貼ったのかは分からないだろう。
「結界を貼った人物を見つける為には情報が少ないわね。
流石に結界を貼った人物までは辿れないか。」
「二週間前の話はここまでと言ったところだろう。」
「そうだね。分かったことは何らかの組織が存在するかもしれないということぐらいか。」
「まあ、それだけでも十分な収穫だと思うけどね。」
俺は最後のクッキーを食べ、コーヒーを飲みきった。
「じゃあ、話は終わりだね。俺は自分の部屋に戻るよ。」
俺はそう言ってレミさんの部屋を立ち去ろうとした。
その瞬間。
「ちょっと待って。」
レミさんが俺を呼び止めた。
「まだ、時間はある?」
「まあ、先生には一時間話す許可をもらってるよ。」
「なら、もう少しだけ話しましょう。まだ、クッキーもコーヒーもあるから。」
本題は終わったはずだ。これ以上話すことは無いがせっかくのお誘いだしもう少しだけここに居ることにしよ。
本当はクッキーが食べたいだけなんだけどな。
「じゃあ、お言葉に甘えてもう少しだけ居させてもらうよ。」
俺は再び腰を下ろした。
「アークって英雄になりたいの?」
「え?」
急な質問に俺は驚いた。
「どうなの?」
レミさんが俺に近づいてきた。上目遣いで俺の顔を見つめている。
近い。顔と顔がぶつかりそうだ。そして甘い香りが鼻の中を漂った。これがレミさんの匂い、って俺は何を考えているんだ!
「どうしたの?顔が赤いよ?」
少し顔が熱いと思ったら赤くなってるのか。
それよりも。
「うん?」
僅かだが胸の谷間が見えそうになっている。
目のやり場に困る。
「レミさん少しだけ離れて。」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと近すぎたね。」
「でも、どうして急にそんなことを聞いてきたの?」
「ほらあ、アーク私を助けに来てくれた時言ったじゃない。」
俺、何か言ったけ?あの時は無我夢中だったし、ドラゴンを倒すこととレミさんを助けることしか考えてなかったから何を言ったかいまいち覚えてないな。
「私に向かって『君の英雄さ!』って。」
その一言で俺は二週間前の出来事が脳内でフラッシュバックされた。
「あ、あれか。」
そういえばそんなこと言ったな。じゃねえよ!
俺、あの時あんな恥ずかしいことを平然と言ってたのかよ。
やべぇ、なんかどんどん死にたくなってきた。
「あんなことを言ってたからアークは英雄になりたいのかなと思って。 それでどうなの?」
レミさんは興味津々な顔で俺を見つめている。
「まあ、英雄になりたいというか、英雄にならなければならないと言った方がいいかな。」
レミはきょとんとした顔をして首を傾げた?
「使命的な感じ?」
「使命とも言うし、なんなら呪いとも言うだろう。俺は親父と母さんに言われたんだ。かっこいい英雄になれって。
困っている人を助けろってな。」
俺の言ったことを訊いたレミさんは笑みを浮かべていた。
「いいお母さんとお父さんだね。」
「まあ、お母さんは尊敬していたけど親父はなんとも言えないな。」
レミはウフフと笑った。
「お父さんは尊敬してないんだね。」
「バカ親父はかっこいいことをいっちょまえに言ってたけどその後がダサすぎたから尊敬できそうで出来なかった。」
「でも、良い教えだと思うよ。困っている人を助けろか、私はすごくかっこいいと思うよ。」
「まあ、俺も唯一その言葉だけはかっこいいと思ってるよ。」
お互い苦笑いをした後、クッキーを食べた。
「アークはやっぱり英雄伝を読んで英雄を知った感じ?」
「英雄伝か。最近読んでなかったな。レミさんは確かフェインに憧れてたんだっけ?」
「そうだよ。私はいつかフェインみたいにみんなを守れる英雄になりたいの。だから、私は強くなりたい。
アーク、あなたよりも強くなりたい。」
レミさんは強い眼差しで俺を見た。
決意の目だ。あの敗北から彼女はまた一つ成長したのだろう。
すごい志だ。俺の使命的な何かとはまた違う決意が感じられる。彼女はこれからもっと強くなれるだろう。
「アークは十英雄の中で誰が好きなの?」
レミさんは俺の好きな英雄が誰なのか聞いてきた。
答えは一つ。
「僕は十英雄を信じていない。」
俺の発言にレミさんはきょとんとした顔をした。
だがその直後、俺を睨みつけた。
「それはどういうこと。」
「僕は英雄伝の話が偽りの話だと思うんだよ。」
俺の発言に対してレミはちょっと怒った顔をして反発した。
「英雄伝が架空の物語だと言いたいの?なら何故、英雄学園があるの?それにそれはみんなの考えを否定することになるのよ。そして、私の英雄に対しての憧れも否定することになるのよ。」
確かにそうなるな。だが、俺は思う。この英雄伝という話は違和感が多すぎる。そして、不審な点がいっぱいある。
「まずは誤解しないで欲しい。僕は神と十英雄は存在したと思っている。 だが、十英雄の事だけはどうにも信じられない不審な点がある。」
「アークは何が言いたいの?」
「レミさんの憧れを否定するつもりは無いよ。 だけど、俺はこの物語をどうしても信じられない。」
レミさんは俺の顔を見つめた。 俺は間を開けてから英雄伝の不審な所を話した。
「英雄は神と戦って勝利したと言われている。だが、神と英雄が戦ったという証拠がない。 スマホという物があったのにも関わらず。」
レミはスマホという単語を聞いてきょとんとした顔をした。
「アーク、スマホって何?」
「これは親父に聞いた話なんだが。二百年前の世界にはスマホという時間を切り取ることが出来る物があったらしい。
つまり、その時の出来事を映像を記録することが出来たらしい。」
俺の説明を訊いたレミはある一つの考えに辿りついた。
「待って、じゃあその時の出来事を映像で残すことが出来たのにあえてそれをせずに本で記録したということ?」
「そうだ。あえて二百年前の人達は映像を残さなかった。
さらに今、この世界ではスマホという物は存在しない。
知っている大人もいない。」
レミは驚いた顔をした。
「じゃあ、まさか。」
レミさんの考えをこうだろう。
「何者かがスマホという存在、概念そのものを消した。
それはおそらく世界の真実を知られることを防ぐために。
そして、英雄伝という存在するかも分からない不確かな物語を書いて。」
レミはアークの意見に少し納得した。
「でも、スマホという物が二百年前にあったかも分からないのよね。」
「確かに分からない...だが、あの時の親父はいつもと違い真剣な顔していた。いつもはふざけたうざい顔をしている親父が。」
「結構酷いことを言うわねアーク。」
レミは苦笑いをした。
「まあ、親父のことは今はどうでもいい。話を英雄伝のことに戻すけど、俺はこの英雄伝に様々な不審な点を感じている。」
「例えばどんなところ?」
「まず、どうして英雄達は百年も戦い続けることが出来たのだ? 魔力を手に入れても不老不死になる訳ではないだろう。」
「確かに私たちはこうしてちゃんと歳を取っている。
だいたいみんな八十歳から百歳ぐらいで死んでいる。」
「この物語を読んでわかるのは十英雄達は確実に百歳以上である事だ。 それがどうにも信じられない。」
レミはアークの考えを訊いて少し不審に思い始めてきた。
「まあ、その他にも英雄伝には不審な点がある。
それを全部話したいところだがそんな余裕は無さそうだ。」
俺がレミさんの部屋に来てから四十分以上経っている。
残りの時間で不審な点を話していればお互い疑問を抱えたまま終わりそうだから英雄伝の話はこんぐらいにしといた方がいいだろう。
「そうね、これ以上話してもお互いモヤモヤした状態が続きそうだし英雄伝の話はこのくらいにしときましょう。」
レミさんはそう言って別の話題に切り替えようとした。
「じゃあ、時間も無いし私がアークに聞きたかったもう一つを聞くことにするわ。」
もう一つ聞きたいこと? 出来れば答えられる内容だと助かるな。
「アーク、あなたはどうして学園初日から何人かの先生を尾行したり、学園のあちこちを調べ回ってたの?」
「なっ!」
まさか、バレていたのか。
そう俺は入学式からずっとこの学園を調べ回っていた。
「どうしてなの?」
「この事だけは隠しておきたかったのだけど仕方ないか。」
俺は話す覚悟を決めた。俺が入学式の時から感じていたこの学園の不気味な空気のことについて。
「僕は入学式の時からこの学園に違和感を感じていた。」
「違和感?」
「何だろうな、この学園は気色悪いんだよ。不気味な空気が感じるんだ。 嫌な空気だ。」
「どんな空気かもっと分かりやすく説明できる?」
「血なまぐさい空気だ。 吐き気を感じるほどのな。」
俺の衝撃的な発言にレミは驚いた。
「アークも感じてたのね。」
「え?」
レミの一言に俺は驚いた。
「いや、アークとはまた違う感じなんだけどね、私もこの学園に変な空気を感じてたの。
こうなんか胸が締め付けられるような空気で。」
レミは辛そうな顔で言った。
レミさんも感じていたのか。
というかもしかしたら何人かの生徒も気づいてるのかもしれないな。レミさんも感じているのなら言うべきなのか?
よし、レミさんを信用して言うか。
「レミさん、本当は黙っているつもりだったんだけど、レミさんには言っといた方がいいと思うから言うよ。」
「何を?」
レミは不思議そうに首を傾げる。
「これはドラゴンの話にもなるんだけど、おそらく結界を貼ったのはこの学園の中に居る人だ。」
レミは俺の発言を訊き険しい表情をした。
「どうしてそう思うの?」
「僕は普通の人よりも五感が優れているんだ。
そして、あのドラゴンの匂いがこの学園内でもした。それもドラゴンが現れる一日前にだ。」
俺の言ったことに驚いた顔をするレミ。
「じゃあ、アークはこの学園の中にバラムの仲間が居ると言いたいの!」
少し大きめの声でレミは叫んでしまった。
「レミさん声のボリュームを落として。内通者はどこに居るか分からない。 先生かもしれないし、生徒かもしれない。」
「嘘でしょう... そんなことって。」
レミはあまりの衝撃に驚きを隠すことができない。
「だから、内通者を早く見つけ出さないといけない。
また、いつ攻めるか分からない。攻められる前に見つけ出す必要がある。」
ほんとは隠したかった。
誰が内通者か分からない以上下手に話すことはできない。
それとレミさんには言いたくなかった。
レミさんは正義感が強いから絶対に内通者を探そうとする。
危険すぎるからレミさんを巻き込みたくない。
だから、言わないと。
「レミさん決して内通者を探そうとしな...」
「私と手を組みましょう。」
俺が探そうとしないでと言い切る前にレミさんは言った。
「え?」
俺はレミさんの発言に困惑した。
「だから、私と手を組みましょう。 共闘よ!」
「それって一緒に手を組んで内通者を探そうということ?」
「そうだよ...まあ、内通者以外にもこの学園の違和感や二百年前の謎を解き明かそう!」
レミさんは俺に手を差し伸べ、強く言った。
「パートナーになって!」
俺はその言葉がとても嬉しかった。
だけど。
「ごめん、レミさんを巻き込むことはできない。
レミさんにもしものことがあったら。」
俺はレミさんに危険なことをさせる訳にはいかない。
「なら、私を守って。 私の英雄さん。」
レミはニヤついて言った。
「そして、アークが危険な目にあったら私が守ってあげる。」
俺はその笑顔に惚れそうになった。
「すごく危険なことだけどいいの?」
「私はみんなを守れる英雄になりたいの! だから、やろう!」
俺はその言葉を聞いてようやくレミさんの手を握った。
「よろしく頼むよ!」
「こちらこそ!」
レミさんは笑顔で俺の手を握り返した。
レミさんの顔は美しくもあり、可愛かった。
「アーク君、一時間経ったよ。
もうそろそろ退出してもらってもいいかな?」
丁度話が終わったベストタイミングでマキ先生が迎えに来た。
「じゃあ、僕はこれで行くよ。」
俺はそう言って部屋から立ち去ろうとした。
「アーク!」
俺が部屋から立ち去ろうとする前にレミさんが俺を呼び止めた。
「私を助けてくれてありがとう。」
おそらくドラゴンとの戦いの時のことだろう。
こうやって感謝されるととても嬉しい。
助けて良かったと思った。
そして、俺は彼女の表情を見た。
レミさんは普段クールで滅多に見せない笑顔を見せた。
それが美しくもあり、とても可愛かった。
その時からだろう。
俺はレミという一人の女性に惚れていたのだろう。
皆さんこんにちは鬼龍院天音です。
皆さんとうとう第一章終わりました。
これで第一章が終わり、次回からは第二章と言いたいところなのですが
第二章に入る前に先に番外編を書きたいと思います。
てことで次回は番外編です。
アークやレミ、その他のキャラ達の裏話を楽しみにしていてください。