神殺しの剣
「クソっ!キリがない。」
トウヤ先生はレミ達のところに向かっていた。
早くレミ達のもとに駆けつけたいが道中、大量のモンスターに襲われていた。本来ならもう辿り着いている頃だ。
「チッ!」
あまりの数の多さに舌打ちをする。
「邪魔だァ!」
モンスターを威嚇し、広範囲の爆撃魔法を使うとする。
その瞬間。
SSランクモンスターのドラゴンが放った破壊光線が上空の雲を貫いた。
あの、魔力のエネルギー砲は?
まさか!
トウヤ先生は空間魔法を使い、レミ達が居た場所の状況を確認出来るか確かめた。
結界が壊れている。あのモンスターが自分で壊したのか。
ラッキーだ。これであいつらの状況が把握出来る。
トウヤ先生はレミ達の状況を見ることに成功した。
よかった。全員生きている。だが、ドラゴンも生きている。
というかさっきとは異なる姿をしてやがる。
さっきまでは見た目が普通のドラゴンだったのに今は全身に炎を纏い、禍々しさが増していた。
最悪な状況は変わらないか。だが、これであいつらの援護ができ...
援護することが出来ると思った瞬間...
「おいおい、ふざけるなよ。」
絶望に近い声を漏らすトウヤ先生。
「なんで、またあいつらの場所だけ消えてんだよ!」
トウヤ先生は悔しさが滲んだ怒声で嘆いた。
再び結界が貼られてしまったのだ。
だが、
レミ以外の生徒達は把握出来る。
結界に入らなかったのか。
だけどレミだけが把握出来ないということは...
最悪な考えが頭を過ぎった。
クソ、レミだけが結界の中に残ったのか。
レミだけが結界の中に居て、それ以外の生徒は結界から脱出することが出来た。
とりあえず脱出することが出来た生徒だけでも助けに行かねぇと。
再び広範囲の爆撃魔法の構築を始めるトウヤ先生。
「俺はその先に用があるんだ。だから、消えろ!」
広範囲の爆撃魔法をモンスターの群れに放った。
ボーンという轟音が響き、巨大な爆発がモンスターの群れと周りの木々を吹き飛ばした。
トウヤ先生の周りのモンスターは全て消えた。
モンスターの反応が全て消えると同時にトウヤ先生は再び走り出した。
結界の距離まで残り四百メートルだ。
もう少しで着く、待ってろお前ら!
ある程度の距離を走った。後、二百メートルぐらいだろう。
「トウヤ先生!」
結界がある方から誰かが走ってきた。
「お前ら!」
結界の方向から来たのはミラ、ユイと女子生徒四人組だった。
「トウヤ先生大変です。レミさんが、レミさんが!」
トウヤ先生の腕にしがみつき涙目になりながら慌てた口調で嗚咽をするユイ。
「あぁ、分かっている。お前らだけでも無事で良かった。」
ユイの頭を優しく撫でるトウヤ先生。
「今すぐレミを助けに行きたいところだが、負傷者の手当てが先だ!他の先生達も直に駆けつける。
俺はお前らを森の外に連れていったらレミを助けに行く。」
トウヤ先生は冷静に振舞っているがこの判断は苦渋の決断だった。
レミを早く助けたいが、負傷者した生徒達をそのまま帰らせる訳にもいかなかった。
今、この森は大量のBランク以上のモンスターで埋め尽くされているのだからな。
「トウヤ先生、その必要はありませんよ!」
結界の方向とは真反対の学校側の方向からポニーテールの髪を揺らしながら走てくるクールな表情したマキ先生が来た。
「マキ来たか。生徒達を...」
「分かってますよ。私が全員連れて行きますよ。」
トウヤ先生の言いたいことを瞬時に察し、トウヤ先生が言い切る前にマキ先生が言った。
いつもとは違う雰囲気だ。
マキ先生も真剣だと女子生徒達は気づいた。
「助かる。じゃあ、俺は結界の方に行ってくる。」
トウヤ先生はレミを助けに行く為に結界の方に向かう。
そしてトウヤ先生が走り出そうとした。
その瞬間。
再びボーンという巨大な爆発音が別の方向から聞こえてきた。
「あの方向は確か、ガラードが居た場所じゃないか。」
すぐさま、空間魔法でガラードの状況を確認した。
そしてトウヤ先生はまたも最悪な光景を見た。
「おいおい、冗談だろ...」
「どうしたのですか?トウヤ先生!」
マキ先生は若干早口でトウヤ先生に何があったのか聞いた。
「ガラードがやられた。」
トウヤ先生が放った衝撃の事実に生徒全員とマキ先生は驚きが隠せなかった。
「そんなガラード君が!」
ユイは悲痛な声を上げ、
倒れ込むように膝を地面につき、瞼の下を手で押え、零れ落ちそうな涙を隠すようにした。
「ガラード君を助けに行かないと!」
マキ先生はトウヤ先生にそう言った。
トウヤ先生は怒声を上げた。
「そんなこと、言われなくても分かる!
だけど、レミも助けに行かないといけない。
それにお前はそいつらを連れて行かないといけない。」
マキ先生はトウヤ先生の言いたいことを理解していた。
どれか一つは見捨てないといけないということに。
クソ、誰か一人は見捨てないといけないのか!
他の先生達はモンスターと戦闘中だ。
俺とマキが二手に別れて、ガラードとレミを助けに行くか?
ダメだ!こいつらだけで帰らせるのは危険だ。
Bランク以上のモンスターが大量に居るんだ。
そんな中、負傷者した生徒達だけで逃げさせることなんて出来ない。
自殺行為だ。
「どうすれば...」
万事休すだ。
そう思った瞬間。
マキ先生が来た方向からものすごいスピードで森の中を駆け抜ける者がいた。
一瞬でトウヤ先生達が居る場所を駆け抜けた。
(今のは?)
全員が今、駆け抜けていった者が何か分からなかった。
トウヤ先生は今、駆け抜けていった者を空間魔法で確認した。
「あいつは...アーク?!」
トウヤ先生は驚いた声でそう言った。
駆け抜けていった者の正体はアークだった。
「アーク君?」
ユイがボソッと呟いた。
あの感じ、明らかにドラゴンの方に向かっているな。
まさか!戦いに行くつもりか!
危険すぎる!
「俺はアーク呼び止めに行く!」
トウヤ先生が走り出そうとした瞬間。
「トウヤ先生待ってください!」
止めたのはマキ先生だった。
トウヤ先生はマキ先生の方に顔を向けた。
「ここはアーク君に任せましょう。」
マキ先生の発言にこの場の全員が驚いた。
「血迷ったか?マキ!アークも生徒だぞ!助けれるかもしれない、いや、確実に助けれる生徒を見捨てるつもりか?」
怒声でマキ先生に吼えるトウヤ先生。
それに反発するようにマキ先生はトウヤ先生の目を見た。
「私だって、生徒に任せることが危険だと分かってます!
でも今は彼に託すしかありません。
それに彼だってこの状況に気づいているはずです。
それなのに彼は学校の反対方向に行ったんですよ。」
アークがこの状況で避難しないことは不自然だ。
まさか!あいつ、レミが居ることが分かているのか?
そしてドラゴンが居ることも分かった上で走っていたのか。
なら、ここはあいつに任せるべきなのか?
「トウヤ先生!生徒全員の命を守る為にはもう彼に任せるしか無いのです!」
マキの言う通りかもしれない。
「あぁー!こうなったらアークに任せる!
俺はガラードの方に向かう。
マキお前は生徒達を連れて行け!」
苦渋の決断をしトウヤ先生は覚悟を決めた。
アーク、レミ...お前ら絶対に無事でいろよ。
「先生私達もついて行きます!」
一人の小柄な少女が覇気のこもった大きな声で上げた。
「ユイちゃん...」
「何のつもりだ!お前、今の話を聞いていたのか?
俺はマキと一緒に森を抜けろと言ったはずだ。」
ユイを睨みつけるトウヤ先生。口に出さなくても分かる。
お前はマキについて行けと顔で言っている。
「ガラードさんがさっきのあの爆発を食らってるというのなら、怪我をしているはずです。
私は回復魔法が得意です。だから役に立てるはずです。
だから連れて行ってください!」
さっきまで泣きじゃくっていた少女とは違う。
涙を拭い、戦う覚悟を決めた目をしている。
「それに私、あの場で何にも役に立たなかった。レミさんとミラさんに助けられただけだった。
それにレミさんは今だって戦っている。
レミさんだけじゃない他のみんなもモンスター達と戦ってるはずです。
そんな中、私だけ何もせずに帰るのは嫌です。
せめて戦っている人達を支えるぐらいはしたいです。」
ユイはトウヤ先生に覚悟の目を向け自分の思いを伝えた。
「なら、私はユイちゃんの護衛をしてあげるね。」
ミラは両手でユイの肩を優しく包み込むように掴み、笑顔でユイと顔を合わせた。
「トウヤ先生、私も連れて行ってください。」
ミラもトウヤ先生について行き、ガラードの方に行くようお願いをした。
「お願いします。」
ミラとユイは頭を下げた。
「チッ、分かった。お前ら二人は俺について来い。それに俺は回復魔法が苦手だ。ユイ、来るからにはお前に回復を全て任せるぞ。」
トウヤ先生からのお願い。
「はい!」
ユイは気合いの入った声で答えた。
「マキ、そいつらは任せたぞ。」
「はい、任せてください!」
マキ先生は両腕を使い、左腕に二人、右腕に二人と
四人の生徒を担ぎ上げた。
「それでは先に行きます!運び終わり次第また、戻ってきます。」
そう言って、マキ先生は学校に向かって走って行った。
「マキ先生、はっや!」
ミラはマキ先生のスピードに驚き、右手を口元に持っていき、驚いた表情した。
「あいつは教員の中でも一番スピードが速い。」
「すごい、マキ先生。」
目を輝かせ、マキ先生を褒めた。
「じゃあ、俺らも行くぞ!ちゃんとついてこいよ!」
「はい!」
トウヤ先生と女子生徒二人は爆発がした場所に向かって急いで走った。
◇◇◇
トウヤ先生達がガラードの方に向かう同時刻、ジン達はAランクモンスターの群れと決着がつきそうになっていた。
「これで終わりだ!ライトニングアロウ!」
雷魔法と光魔法によって創られた大量の矢が
光の速さでモンスター達に襲いかかった。
モンスター達は頭蓋を貫かれ倒れていくモンスター達。
「ラスト一匹!」
ロイドは地面を蹴り、残り一匹のモンスターに飛びかかった。
それに合わせるようにカイトも同時にモンスターに飛びかかった。
「オラァ!」
「ホッィ!」
ラスト一匹のモンスターはロイドの炎を纏った下突きにより腹部を貫かれ、カイトの風魔法によって回転速度を上げた飛び回転回し蹴りを頭蓋に食らわせ、モンスターの頭蓋を吹き飛ばした。
「よし、これで終わりっと!」
「ジンの方は?」
カイトはジンの方を見て、ジンの戦闘状況を確認した。
「何だ、終わってるじゃん。」
ジンの周りには大型のAランクモンスター三体の死体が転がっていた。
「俺もさっき終わった。中々手強かった。」
「嘘つけ。」
ロイドは苦笑いする。
ジンは汗一つ流さず、疲れた顔もしてない。
三体の大型モンスターと戦ってもジンは疲れることもなかった。
底知れない強さだ。
「すごいね。ジンくん!一人で倒しちゃうなんて。」
「お前のさっきの光の矢も凄かったぞ。
弓で放った時のスピードに光属性の魔法でさらに加速させるとは。
もしかして、スピードを調節して好きなタイミングで当てることも可能なのか?」
「いや、そこまでは出来ないよ。でもスピードは変えられるよ。さっきのスピードより速くすることだって出来るよ。」
ジンは右手の親指を顎の下に添え、人差し指を顎にのせ、理解したような顔をした。
「なるほど。
雑魚処理に便利な技だな。
まあ、雑魚処理以外にも使い所はいっぱい有りそうだな。」
「おーい、お前ら行くぞ!」
カイトが話し合っていた二人を呼んだ。
「行くって何処にだよ?」
ジンはカイトに行先を聞いた。
それにロイドが応えた
「そんなの決まっているだろ。
アークのところだよ。」
アークが向かった先にロイドとカイトは歩き出した。
「そうだね、アーク君の援護に向かおう。」
「あいつらにしては行動が速いな。
まあ、いいか。
あの禍々しいオーラを放ってたやつと相手をしているとしたら、援護は絶対に必要だろうな。」
「おーい、独り言を言っている暇あるならとっとと向かうぞ。」
「あぁ。」
ジン、ローズベルト、カイト、ロイドは仲間を助けに行く為に走り出した。
◇◇◇
「はぁ〜殺してしまったか...」
この男は悲しんでいるのか、はたまた失望したのか、分からない。
「気に入っていたんだがな、ちょっと強くし過ぎたかな?
名前を聞き忘れたな。強き者よ、君のことは忘れない。
この戦いを私の体の中に刻み込もう。」
地面に倒れ込んでいるガラード。
バラムはガラードの開いた目を優しく閉じた。
美しき戦いをしてくれた戦士に敬意を示すようにバラムは一礼をし、その場を立ち去ろうとした。
その瞬間、西の方角から三人の者が走ってきた。
「おや、増援かな?」
バラムは踵を返し見た。乱れていた服を整えるバラム。
やって来たのはトウヤ先生、ミラ、ユイの三人だった。
トウヤ先生は地面に倒れ込んでいるガラードを見て悲鳴に近い声で叫んだ。
「ガラード!」
「そんな。」
「一足遅かったか。」
悲しさと悔しさが湧き上がってきた。
「はじめまして、私はバラムと申します。
どうぞお見知りおきを。」
紳士の振る舞いで挨拶をするバラム。
「さて、挨拶も済ませたので、私はここで退散させていただきます。」
バラムは再び踵を返し、立ち去ろうした。
その刹那。
「おい、待て。」
バラムの周りを囲むように紅蓮の炎が燃え上がった。
紅蓮の炎の剣を突き立て、問いかける
「うちの生徒に手を出したのはお前か?」
それに答えるバラム。
「いかにも、私が殺した。いや、殺してしまったと言った方が正しいか。実に素晴らしい戦士だった。」
その声は寂しくも悲しい声だった。
ガラードが死んだことに酷く悲しんでいる。
それもそうだ。
バラムはガラードのことを気に入っていた。
それは恋する乙女のように。
「そうか、なら、俺のすることは一つだな。」
バラムの周りを囲むように燃え上がってた紅蓮の炎が五本の牙となった。
「ほぉ、炎をここまで操ることが出来るとは。」
「ガラードの仇だ。喰らえ。」
五本の紅蓮の炎の牙がバラムに襲いかかる。
その刹那、バラムは自分の体を包み込むようにシールド貼った。
バラムは紅蓮の炎の牙の攻撃を防ぐことに成功した。
だが、シールドは一瞬で砕け散った。
「なんという威力!私のシールドをこうも簡単に破壊するとは!」
「チッ!防いだか。」
「さぁ、次は何を見せてくれるのかな?その剣で斬るか?」
声を昂らせるバラム。興奮が抑えきれない。
ガラードだけでなく、トウヤ先生にも興味を持ち始めた。
「まあ、楽しむのはここまでにしよう。
私はもうそろそろ帰らないといけないのでね。」
バラムは少し、寂しそうな声だった。
せっかく、楽しい戦いがまた、始まろうとしていたのに時間がそれを許してくれなかった。
「待て!」
「さらばだ。また、いつか戦おう。」
バラムは立ち去ろうとしたその刹那。バラムは背後から首を掴まれた。とんでもない握力で。
「何者だ!」
後ろに振り返ろとするバラム。
だが、振り返れない。
首を掴んでいる者の力が強すぎるため、首を回すことすら出来ない。
「おいおい、もう忘れたって言うのか?」
その声は笑っていた。だが、覇気のある声だった。そして、とてつもない威圧だった。
喜ぶバラム。彼は生きていたのだ。
「素晴らしい!あれを食らって生きていたのかね。ガラードくん!」
バラムは昂る声で歓喜した。興奮が抑えきれない。それもそうだ。フルパワーに近い魔力のエネルギー砲を至近距離で食らって、耐えたのだから。
「はぁっ、お前はあの程度の魔力で俺を殺せるとでも思ったのか?バカか?あぁ!」
ガラードは笑みを浮かべていた。
それはバラムからしたら狂気の笑みに見えた。
トウヤ先生は安心した顔をした。
「ガラード無事か?」
トウヤ先生はガラードに話しかけたが、ガラードは無視した。
今のガラードの眼中にはバラムしかいないようだ。
「でも、さすがの君もあれを食らって無傷ではないでしょう?ここからどうやって私を倒すかね?」
ガラードの残りの魔力はほんの僅かだ。
身体強化魔法も出来ない。
「俺もお前と同じエネルギー砲を食らわせてやるよ。」
それを聞いたバラムは興味津々な顔した。
自分が今、首を絞められていることも忘れ。
「お前、闘気って知ってるか?」
その場の者達は闘気という言葉を初めて聞いた。
ガラードともう一人を除いて。
「闘気だと、ガラードお前まさか闘気術を使えるのか?」
驚いた表情をするトウヤ先生。
「先生、闘気って何ですか?」
ミラとユイは闘気という言葉を初めて聞いた。
闘気が何なのか分からない。
「闘気ていうの武術の技の一つでな、武の真髄だ。
魔力の派生とも言われてるけどな。」
「俺も敵に使うのは初めてだ。てことでバラムお前には実験体になってもらうぜ!」
ガラードの胸に闘気が凝縮していく。
「これが闘気か!魔力とはまた、違うオーラを感じるぞ。
これは食らったらまずいな。」
バラムは逃げようとした。ガラードの腕を掴み、炎魔法で燃やそうとする。
だが、
「お前、そんな程度の炎で俺の腕を解けるとでも思ってんのか?」
「何故だ?身体強化はとっくに切れているはずだ。
何故効かない。」
ガラードは身体強化を使っていない。
生身の体だ。それでもバラムの炎を食らって無傷だ。
「俺は今、全身に闘気を纏わせてる。
その程度の炎じゃあ、俺は焼き殺せないぜ。」
闘気が炎を防ぎ、かき消している。バラムは炎魔法で攻撃を繰り返す。先程よりも火力をさらに上げて。
それでも効かない。
「じゃあ、これで終わりにしてやるよ。」
凝縮された闘気のエネルギーが輝いている。
「美しい輝きだ。」
バラムは闘気の輝きに惚れ惚れしていた。
「じゃあ、死ね!」
闘気のエネルギー砲を至近距離でバラムに放った。
エネルギーの大爆発。
「うわぁぁ!」
風圧がバラムとガラード以外に襲いかかる。
「ユイちゃん掴まって!」
ミラはユイが吹き飛ばされないように力一杯手を握った。
足に力を入れ、踏ん張った。
風圧が抑まった。
「ユイちゃん大丈夫?」
「私は大丈夫よ。それよりもガラード君は?」
爆発の現地に目を剥けるユイとミラ。
「ガラードは無事だ。俺の空間魔法で確認した。そして、あのバラムという男も生きている。」
煙幕が消え、二人の姿が現れようとした。
「チッ!耐えたか。」
「いや〜危なかったよ。後一手遅れていたら私は消滅していたかもね。」
バラムは全魔力を使い、シールドを展開した。
シールドは破損したが、命をつなぎとめた。
このシールドが無かったらバラムは間違えなく消滅していただろう。
「少々ダメージを受け過ぎた。今度こそ退散させて貰うよ。」
どこかに向かって走り出すバラム。
「俺から逃げられると思っているのか?」
背を向けたバラムの懐に一瞬で入り容赦なく襲いかかるトウヤ先生。
紅蓮の炎の剣で斬りかかる。
バラムは咄嗟に振り返り、トウヤ先生の攻撃に合わせるように素手で防御した。
斬り落とされるバラムの両腕。
「怖いね。全く恐ろしいよ。」
「ここで死ね。」
トウヤ先生は横にもう一振し、バラムにトドメを指す。
その刹那、バラムは斬り落とされた自分の腕を蹴り上げトウヤ先生の炎の剣に当て防いだ。
「危ないね。」
「運の良い奴だ。」
バラムはトウヤ先生の顔を見た。そして、ある人物の顔が頭に過ぎった。
「君の魔力はカリヤに似ているね。それに顔も。」
バラムの一言を聞いたトウヤ先生は攻撃の構えをやめた。
「おい、待て。何でお前がその名前を知っている?」
バラムが言ったカリヤというおそらく人の名前だと思われる言葉を聞いたトウヤ先生は驚き、間の抜けた表情をした。
「なるほど、さては君がトウヤくんか!」
バラムが自分の名前を言った。
さらに驚くトウヤ先生。
「お前が何故、俺の名前を。」
唖然とするトウヤ先生。
立ち止まってしまった。その隙に。
「では、さらばだ。」
バラムは後ろにステップをしながら、下がっていく。
「しまった!」
慌てて追いかけるトウヤ先生。トウヤ先生が走り出すと同時にガラードは地面を強く蹴り、バラムに飛び込んだ。
「てめぇ、言ったはずだよな?ここでぶっ殺すと!」
バラムの左頬に向けて、上段回し蹴りを放った。
それを間一髪で残った腕の部分でガードするバラム。
「ガラード君、今の君では私を倒せないよ。君は闘気を使い切っている。もう君に私を倒すすべはない。それに君、闘気術はまだ未完成だね。完成していれば、私を確実に殺せただろうに。」
痛いところを突いてくるバラム。
「チッ!」
ガラードは咄嗟に舌打ちをした。
「完全に極めたらまた、戦おう。それではさらば!」
一歩後ろに下がった瞬間、地面が光りだした。
そしてバラムは消えた。
「消えた?」
「何が起きたの?」
少女二人は何故消えたか理解出来なかった。
「あれは転移魔法。いつでも逃げれる準備が出来ていたのか。」
多分、バラムはもう森の外に出ただろう。
「おい、ガラード大丈夫か?」
トウヤ先生はガラードの安否を確認する。
「あぁ!無事に決まってんだろう。」
ガラードは怒鳴り口調で応える。
「なら、良かった。
まあ、でも結構ボロボロだし、お前を学校まで運んでいくぞ。」
トウヤ先生がガラードに手を差し伸べた瞬間、バチンという手を叩く音がした。
ガラードはトウヤ先生の手を振り払った。
「てめぇ、状況分かって言ってんのか?だとしたら、てめぇ、かなりのバカだぞ?」
ガラードは鋭い目でトウヤ先生を睨みつける。
「てめぇ、この森にはあのバラムよりも恐ろしいモンスターが居るんだぞ。しかもそいつは誰かと暴れている。
てめぇが向かうべきなのはそっちの方だろうが!
あぁん!」
教師であるトウヤ先生に無礼極まりない態度で叱るガラード。
「ガラード君、それは言い過ぎじゃ...」
「いや、別にいいんだミラ。ガラードの言っていることが正しい。一応聞いとくが、お前は一人で戻れるのか?」
トウヤ先生は教師だ。
生徒の安全が一番大事だからこそ、こんなにも心配しているのだ。
「てめぇは俺の母ちゃんか!俺がそんな弱い奴に見えるのか?! あぁん!」
怒り出すガラード。
「心配の必要は無いな。じゃあ、俺はドラゴンの場所に行く。ミラとユイはガラードと一緒に学校に戻ってくれ。」
この時、ユイはトウヤ先生の言っていることを完全に理解していた。
「分かりました。」
ユイの返事と同時にトウヤ先生はドラゴンの場所に向かって全力で走り出した。
「さて、行くよ。ガラード君、ユイちゃん。」
二人を呼びかけ歩き出すミラ。
「待ってください!」
歩き出したミラを止めたのはユイだった。
「どうしたの?ユイちゃん。」
「ガラード君を治療してから行きましょう。」
ユイはガラードの治療を先にすることを提案した。
「はぁっ、てめぇ俺が怪我しているとでも言いたいのか?」
「実際にそうではありませんか!」
「こんなの怪我のうちにもなんねぇよ!」
「悪化してからでは遅いのです! 大人しくい言うことを聞いて下さい!」
強い口調でガラードを説得した。
ガラードは静まり返った。
「そこに座ってください。今、治療しますから。」
地面に座るガラード。
ミラは少し笑っていた。
あの暴君みたいなガラードが小さい少女の言いなりになっているのが、面白かったようだ。苦笑いが止まらない。
ツボに入ったようだ。
ユイは回復魔法でガラードの治療を始めた。
「余計なお世話だって言ったのによ。」
「貴方は我慢しすぎです。
こういう時ぐらいは体を休めてください。」
さっきまで険しかったユイの表情は笑顔になっていた。
(やべぇ、この子本当に天使だわ。)
ミラは改めてユイの可愛いさを知ったのであった。
◇◇◇
正直、俺は驚いた。結界をぶち破た時、レミさんが泣いていたことに。俺はレミさんのことを氷の女王だと思っていた。
一人の孤高の少女だと思っていた。気高く、美しい人だと思った。僕はそんな彼女に少し憧れていた。
レミという氷の女王に...
だが、違った。
彼女は氷の女王なんかじゃない!
彼女は俺達と同じだ。
みんなと同じだ。
氷の女王なんかじゃない、彼女は一人の可愛らしい女の子だ。
だからこそ、俺は泣いている彼女を守る。
助けを求める一人の女の子として。
「さて、倒すか!」
ドラゴンは本能的に後ろに下がった。アークの禍々しい殺気を感じ取ったのだ。先程までの余裕そうな雰囲気が消えている。
「気をつけて、そいつは戦いの中で成長していくわ。
私の攻撃も戦っているうちにどんどん対応されていったわ。」
レミは涙を流しながらも覇気のこもった声で目の前のドラゴンのことについて話してくれた。
体がボロボロなのに俺の為にアドバイスしてくれたのか。
そして、立ち上がるレミ。
「私が合図するからそれに..合わせて。正直、今の私ではあいつを倒すことは不可能よ。
だから、はぁ、はぁ、私に協力、し..て」
声が途切れ途切れだ。もう戦える状態じゃない。
それでも彼女はふらつきながらも立ち上がった。
しかし、立ち上がった瞬間、倒れそうになった。
「おっと。」
アークは倒れそうになったレミの背中を支えた。
「レミさん、その体じゃ戦えないよ。ゆっくり休んで。
僕があいつをやるから!」
「でも、あいつは...」
レミは苦しい表情をしていた。そして、戦おうとしている俺を心配した。
「大丈夫だよ!俺、戦闘には少し自信があるんだ!」
俺はそんな彼女に笑みを浮かべた。
◇◇◇
(いいか、お前!困って泣いてたら笑え!)
(いや、場合によってはただのやばい奴に見えると思うんだが。)
(いや、泣いている女の子には笑顔をするのが1番だ!
てことで、笑顔の練習だ!)
(それ、使い道あるの?)
(あるとも!
俺は母さんにプロポーズするために毎日笑顔の練習をしていた。そしたら、イチコロだったぜ!お父さんが!)
(いや、あんたがかよ!
今の流れ的に母さんが親父に惚れてイチコロかと思ったら、あんたがイチコロされてんのかよ。)
(だって、仕方ないじゃん。
母さんのウィンクめっちゃ可愛いかったもん。
あんないいウィンクと笑顔されたら、俺のプロポーズなんか埃カスだったよ。)
(俺はその埃カスのプロポーズを聞いてみたかったな。)
(とりあえず、笑顔だよ!笑顔!ほら、やるぞ!)
(おい、やめろ!頬を引っ張るな!)
◇◇◇
親父の言っていたことが少し分かった気がしたよ。
レミさんは俺の顔を見た。
「あなた一人で大丈夫なの?」
レミは一人で戦おうとするアークを心配した。
「あぁ!大丈夫だよ!だから、ゆっくり休んで。」
レミは少し、安心した顔をした。
「ありがとう。なら、お言葉に甘えて休ませてもらうわ。」
レミは笑みを浮かべていた。
俺はその表情が可愛いと思った。
耳の方が熱くなった。
俺はその美しく、可愛い表情にイチコロされそうだった。
チッ!やっぱ俺は親父の息子だ。
笑顔をしたはずの俺がイチコロされそうになってるじゃねぇか!やっぱ笑顔は自分を滅ぼすだけだ!
レミは結界の壁の方に向かい壁によしかかり座った。
「あんなボロボロなのに俺のことを心配してくれたのか?
優しいなレミさん。それに。」
レミの険しかった表情も今は可愛らしい表情になってた。
「なんだよ、ちゃんと笑えるじゃねぇか。それに、やっぱ可愛い女の子だな。」
俺はドラゴンの方に向かって歩いて行った。
「随分待たせたな!まあ、急いでるからすぐに決めさせてもらうぞ!」
俺は体のスイッチをオンにした。
戦闘体勢になるアーク。
アークは本来大人しく、自分から話すこともない、言わばコミュ障だ。だが、戦闘の時は違う。
普段のアークとは全く別人になる。
アークは小さい頃から体を鍛えていた。
親父からも武術を教えて貰っていた。
武術だけじゃない、剣術や魔術もだ。
アークの趣味は二つある。
一つは読書だ。
そして、もう一つは戦闘だ!
「本来ならじっくり楽しみたいけど、レミさんを運ばないといけないからね。
だから、一瞬で終わらせるぞ!」
戦闘狂が笑みを浮かべる。獲物を狩る目をする。
「ギュアアア!」
ドラゴンはアークに睨まれた瞬間、アークの方向に向かって全力で飛び込んだ。
野生の本能がアークを殺せと叫んでいたんだろう。
その刹那。
レミはアークの戦いを見ていた。
そして、あまりの衝撃的な光景に声を洩らした。
「えっ?」
飛び込んだドラゴンの頭は無くなっていた。
アークはドラゴンが飛び込んだ刹那に魔力で創った剣をムチのように飛ばし、ドラゴンの首を斬った。
遠隔斬撃と言ったところだろう。
「よし、これで終わり!とっと帰るか!」
「待ってまだ、終わってない!」
レミが叫んだ。
だが、もう遅い。
ドラゴンは既に頭の再生を終わらせ、攻撃体勢に入っていた。
ドラゴンはアークの背中を尻尾で叩きつけた。
「ガッハァ!」
アークは吹き飛ばされ、結界の壁に叩きつけられた。
「アーク!」
レミの悲鳴に近い叫び声が結界の中に響き渡った。
「痛てぇ、あのドラゴン容赦なく背中に攻撃してきたな。」
「気をつけてアーク!そのドラゴン再生能力があるわ。
それにさっきよりも再生速度が上がっている。
首を斬る程度だと死なないわ。」
やはり、ドラゴンは戦いの中で成長しているのだ。
首を斬ってから十秒も経たずに頭の再生を済ませ、攻撃してきた。
「厄介だな。じゃあ、これならどうだ?」
アークの両手に魔力が凝縮されていく。
これはトウヤ先生やバラムと同じ、魔力のエネルギー砲だ。
「喰らいやがれ!」
アークはドラゴンに向かって魔力のエネルギー砲を放った。
その刹那...
「ギュワワァァ!」
ドラゴンの口の中で魔力が凝縮されていく。
「おい、まじかよ。」
ドラゴンはアークが放った魔力のエネルギー砲に向かって一直線に破壊光線を放った。
アークの魔力のエネルギー砲とドラゴンの破壊光線が衝突し、大爆発を起こした。
響き渡たる轟音と煙幕。
「やるな、あのドラゴン。」
驚くアーク。
煙幕が消えると同時にドラゴンは翼をはためかせ、上空に飛んだ。
「あのドラゴンどこに行くつもりだ?」
ドラゴンは結界の壁に向かった。
そして、結界の壁に張り付いた。
「うん?」
首を傾げるアーク。その刹那、ドラゴンは結界の壁を勢いよく蹴り、アークに向かって突っ込んで行った。
「ちょちょちょちょ、待て待て待てぇ。」
慌てて、回避するアーク。
「あっぶねぇ...」
何とか回避することに成功した。
そう思った刹那、ドラゴンは次は地面を蹴り、結界の壁に再び向かった。
そして結界の壁を蹴り、再びアークに突っ込んだ。
「あっぶな!」
再び回避するアーク。
ドラゴンは結界の壁を蹴ることでどんどん加速していく。
そして、アークに襲いかかる。
「ちょっ、うわぁ、危な!」
四方八方から襲いかかるドラゴンの猛攻撃。
「あれは、私の攻撃スタイルと同じ。」
そう、ドラゴンはレミの攻撃スタイルを真似しているのだ。
「ドラゴンらしくない、戦い方だな!くそ、厄介だぜ。」
ドラゴンはアークの背後を取った。そして結界の壁を蹴り、アークに突っ込んでいく。
「でも、」
アークは突っ込んでくるドラゴンの方向に体を合わせる為、体を半回転させた。
「遅い!」
ドラゴンの頭を回転の力を利用して魔力を乗せた拳でぶん殴った。
地面に叩き付けられるドラゴン。
アークは再び手のひらに魔力を凝縮させた。
「この距離からなら、どうだ?」
アークは至近距離で魔力のエネルギー砲をドラゴンに放った。
魔力のエネルギー砲がドラゴンに直撃し、爆発した。
「よし、今度こそ終わりっと!」
そう思った刹那。
「ギュワァァ!」
ドラゴンの叫び声が結界の中で響いた。
「おいおい、まじかよ。」
ドラゴンは至近距離から食らったのにも関わらず無傷だった。
ドラゴンは再び戦いの中で成長したのだ。
防御力が上がり、皮膚も先程よりも何十倍も硬くなった。
これは進化とも言ってもいいだろう。
「あそこまでの至近距離から放ったのに無傷か。」
身体強化し、魔力を拳に乗せて殴るか?
いや、それじゃあ一撃で倒せないか?
うん〜じゃあ!
アークは炎魔法で攻撃した。もちろん無傷だった。
「ダメかぁ。なら、これは!」
氷魔法でドラゴンを氷漬けにした。
レミよりも威力はない。
だから、
パリン!
「ギュアアア!」
「ですよねぇ...」
うん〜何をしても一撃で倒せそうにないな。
アークが倒し方を考えている刹那、ドラゴンは魔力を口の中に集め始めた。
そして、再び破壊光線を放った。
「やべぇ!」
アークは何とか回避した。
「危ねぇなあのドラゴン。」
「アークもう無理よ!諦めて!もう打つ手がないんでしょ?
だから、アークだけでも逃げ...」
「それは嫌だ。」
レミが逃げてと言う前にアークはキッパリと断った。
「ここで逃げたら、レミさんが死んじゃうじゃん。
そんなの俺はごめんだね。」
まあ、でもレミさんの言ってることは正しいんだけどね。
「しょうがねぇ、使いたくなかったけど使うか!」
ここでレミさんが助けられないぐらいなら、使ってやるよ。
後から、大騒ぎになろうが知ったこっちゃねぇ!
「やってやるよ!」
少し怖い笑みを浮かべる戦闘狂。
「来い!龍剣!」
(パリン!)
結界の外から何かがやってきた。
その何かは意図も簡単に結界を貫いた。
きたのは十本の剣だ。アークのお気に入りの武器である。
「あの剣は何?」
剣を見て、不思議に思うレミ。だが、不思議に思ったのは剣だけじゃない。
「何で剣が浮いているの?」
十本の剣はアークを囲むように円型に並び、浮いていた。
アークの元にやってきた剣の樋には龍の印が刻まれていた。
それを見たレミは驚き、叫んだ。
「まさか、あれは龍剣!十英雄達の愛剣だわ。」
アークの元にやってきたのはかつて、神を殺したと言われる十英雄達の愛剣である。
龍剣またの名は神殺しの剣!
アークが持っている龍剣は九本だ。
残りの一本は龍剣ではなかった。
残りの一本はアークのお気に入りの剣だ。
アークは十本の剣を構える。
「さて、暴れてやるか!」
戦いも終盤になってきました。
次回で多分終わります。