リイナとジュンの街歩き
「……遅い」
野崎桜花の大きな家の一室にて。
リイナと言う名の死神の少女は、一人の少女の帰りをただ待っていた。
「桜花、あの人間に街案内を頼んだのは間違えだったかしら。
全然帰ってこないわ……この待遇には感謝してるけど」
リイナがそんな事を考えている時、突然、呼び鈴が鳴った。
人間界の知識を得ているリイナはそれを来客と判断し、玄関へと向かっていった。
「貴方がリイナさんですか?」
玄関を開けたリイナの目の前には1人の少年がいた。
背は180強で顔立ちは整っているが、どこか近寄りがたい雰囲気のある少年である。
「あなたは?」
「桜花から街案内を変わって欲しいと頼まれたので、代わりに来ました。村木です。
あだ名はジュンですけど、どっちでも」
「村木ってよばせてもらうわ。
にしても桜花は来れないの。まぁ街案内して欲しいだけだから構わないけど」
そう言いながらもリイナは少し不服そうであった。
突然、桜花に約束をすっぽかされたからである。
「ちゃんと案内するので大丈夫ですよ」
そういって、村木はリイナを街案内する事にした。
「この辺りは何があるの?」
「川と山、後、田んぼですね」
「つまり、何もないのね」
「そんな! こんなにたくさんあるじゃないですか!」
「案内してもらう程の事がないでしょう。案内してもらう必要はなかったかしら……」
思わず頭を抱えるリイナ。何もない田舎だとは覚悟していたが、予想を上回る程なにもなくて困惑している。
「冗談ですよ。もうちょっと行けばバス停がありますから、それに乗れば都会です」
「信じるわよ?」
そうして、バスを待つ事……40分。
「全然来なかったんだけど!?」
「もう慣れましたよ。ほら、待ってる間自販機で買ったコーラあげますから」
「貰うわ! ほ、本当にこの先は都会なんでしょうね?」
「はい(比較的)都会です」
貰ったコーラを飲みながら、村木に疑いを向けるリイナ。
そうして、2人は駅方面に到着した。
リイナがまず第一に感じた事は。
「どこが都会?」
「コンビニがある。商店街がある。どう見ても都会では?」
「おかしい。私の仕入れた人間界の都会のデータと違う。
ま、まぁ、良いわ。この辺り、案内して?」
村木は駅の近くをリイナに案内した。
今までよりはマシな内容にリイナは少し安心する一方で、でも、明らかに都会ではないと感じるのだった。
「こんな所ですかね」
「なるほど……」
「疲れましたか?」
「まぁ、色々と」
「じゃあ、さっき案内してる途中で買ったコーラを」
「どんだけコーラ買ってんのあんた!? 貰うけど!」
村木からコーラを奪い去り、ラッパ飲みするリイナ。
実はさっきがコーラ初体験であり、少し嵌っているのであった。
「ねぇ、村木は桜花の知り合いなんでしょ?」
「はい、そうです」
「じゃあ、なんで、桜花があんな田舎中の田舎に住んでるか知ってるの?
声優って、収録とか都会なんじゃないの?」
「それはそうだと思います。理由は色々あるんでしょう。
ただ、俺はそこまで詳しくは知りません」
「気になるわ……」
「この辺りはこんなもので良いですよね。駅から少し離れた所も案内しますね」
「分かったわ」
リイナは村木の先導で駅の近くから少し離れた場所も案内してもらう事になった。
「この辺りには何があるの?」
「公園とかですかね」
「使いそうないわね」
口ではそう言いながらも、リイナは心の中では公園の位置をはっきり記憶していた。
今回人間界に訪れたのは、街に潜むっていう死神界を脅かす危険因子を見つける為。
もし駅の近くで交戦する事となった場合。公園が最適と彼女は考えた。
(実物は初めてみたけど、遊具は魔力を込めれば武具になりそう。
監視カメラも魔法で機能停止させれば問題ないわね)
「じゃあ、行きましょうか」
「本当に使いそうにないんですか?」
「……え?」
「本当ですか?」
「何を言ってるの? 村木」
「――今、ここで戦闘になってもか?」
次の瞬間、リイナの体に激痛が走った。
村木は一歩も動いていない。
「なに――が――」
「何を苦しんでいる? たった今、公園のカメラを機能停止した。
これで、さらに人払いの魔術も使った。
さぁ、心置きなくできるぞ。お前の望んでいた戦闘を」
「まさか――お前が、死神界を脅かす危険因子――?」
「半分正解、半分不正解だ」
そういって、村木は公園にある鉄棒を引っこ抜いた。
「得物としては悪くない」
リイナは正直何が起きているか分からなかった。
だが、目の前の相手が敵という事は理解できた。
だから、戦闘態勢を取ろうとしたのだが……。
(力が……入らない!?)
「無駄だ。死神界の若手エースのお前と無策でやり合おうなんて、思っちゃいない。
さっきは助かったぞ?
俺の渡したコーラを2回も飲んでくれて?」
「……!? トラップ!」
「呪術の心得がないお前では分からなかっただろう。あれは、壺を使った呪術『巫蠱』の理論をペットボトルに転用した物だ」
殺される。終わった。
リイナは思わず、そう感じた。なぜなら、今の状態で対抗手段はもはやない。
「じゃあな。死神界の若手エース」
村木の両腕によって、鉄棒が振るわれる。
脳天を狙った一撃。普段なら、たとえ、脳天を勝ち割られても何の問題もない。
だが、呪毒のせいで今は魔力も特別な力も何も使えない。
ただの物理攻撃。それだけで死神が、神が人間と同じように呆気なく簡単に死ぬ。
全てはリイナの油断が招いた結果だ。
もはやあきらめるしかない。
「あ?」
だが……。
「諦められるわけ……ないでしょう!」
リイナは倒れながら、攻撃を肩で受けていた。
攻撃の衝撃で肩が体内にめり込み、見るも無残な状態になっている。
だが、それで村木の方をにらみ続ける。決して、泣き言を吐かずに。
「やるじゃねぇか。だが、これで終わりだ!」
リイナの必死の抵抗。それは、抵抗の意志を見せるだけの時間稼ぎ。
何かが変わるはずもない。無情にもリイナの頭部に鉄棒が振り下ろされる。
……しかし。
「家にいないと思ったら、こんな事になってるとは。
お前がリイナだな?」
その必死の抵抗で、今奇跡が起こった。
「て、テメ!?」
突如割って入ったその男は、村木が振り下ろした鉄棒をただの蹴りで受け止めた。
そう、死神すら一撃で沈める攻撃をただの蹴りで。
「お、おかしいだろぉ! なんで俺の一撃を人間風情が!」
「たまたま町の人間に化けたのか、それとも俺を狙って化けたのか……。
いいや、どっちでもいい。
とりあえず、落とし前は付けさせてもらう」
その男の名前……否、あだ名はジュン。
先ほど、桜花からリイナの街案内を頼まれた少年、その人であった。




