幼馴染と喫茶店で
さて、桜花との待ち合わせ場所とは駅のほうにある喫茶店である。
大抵あいつと話す時にはそこを使う。
しかし、駅といってもこの田舎の駅だ。
いや、待ち合わせる駅は学校から大分離れた都心部の方にあるのだが、
この田舎の都心部といっても高が知れてる。
何もないという程ではないのだが、娯楽施設に乏しいのは否定しようがないだろう。
そんな中、桜花との待ち合わせする喫茶店は個人経営ではあるものの、中々に良い雰囲気の店だ、コーヒーもうまい。
俺の行く時間に客が少ない事も好都合だ。
あまりに客が少ないので、マスターに採算が取れているのか聞いた事があるが、そもそも喫茶店自体が趣味らしく、採算度は度外視らしい。
学校を出てから一度家に戻って私服に着替え、それからバスに揺られること二十数分。
13時手前、俺は喫茶店に到着した。
桜花はまだついていないようだ。
「……いらっしゃい。」
そう言ったのは喫茶店のマスター。
渋く、少しひげの生えたいかにもなおじさんだ。
普段は寡黙だが、ちょっとしたところでさり気なく気遣いをしてくれる良い店主だ。
俺がここの常連である理由の一つでもある。
「今日は後から桜花も来ます。」
「桜花嬢もか、了解した。待っている間これでもどうか。」
そう言ってマスターはクッキーを差し出す。
こんな厳ついマスターではあるが、お菓子作りの腕も中々のものだ。
期待しても良いだろう。
「ありがとうございます」
「いつものでいいな?」
「はい」
俺がそう答えるとマスターはコーヒーを淹れに店の奥へと向かった。
しかし、桜花からの相談か。
まぁ内容は読めてる。どう考えても家に来た親戚のことだろう。
でも、メールじゃなくて直接相談したいということは多少なりとも変わったことがあるんだろうな。
そう思いながら備え付けのお絞りで手を拭いてからクッキーをかじる。
これは、程よい甘さだ。
コーヒーが無くとも丁度いい。だが、コーヒーがあればまた違った味わいになるだろう。
さすがに計算しつくされてる。
そんな事を考えながら優雅に昼下がりを過ごしていると、
なにやらけたたましい足音が近づいてくる。
…来たか。
「マスターあああああ! ジュンもう来てる!?」
「あぁ、奥の席だ。桜花嬢は相変わらず慌しいな。」
「あはは、ごめんごめん。」
そのままこちらに近づいてくる。何をそんなにあせる必要があるのか。
というか、まだぜんぜん待ってないんだが。
「やっ、ジュン。待った?」
そういいながら、桜花は席に着く。
こんなに慌しいのに座るのになぜか気品があるのは仮にもお嬢様だからか。
「これから待とうと思ってたところだ。」
「あっ、じゃあ問題ないね。そのクッキーは?」
「マスターが。お前も食え。」
「そだね。…うん、おいしい! じゃあ、本題に入ろう!」
「待て待て、慌て過ぎにも程があるだろ。一体何があった。」
「私この後、収録行かなきゃ行けないんだよ!後、30分以内に駅でなきゃ。」
じゃあなんでこんなにゆっくり落ち着ける喫茶店を待ち合わせ場所に選択したんだろう。
こいつは馬鹿なのか、いやこいつは馬鹿だった。頭の良い馬鹿だった。
「収録って、今度はなんだ? ラジオか、歌か?」
「今日は本業のアニメだよ! いや今日はっていうか今回の休日は。」
「相変わらず無駄に多忙だな。」
一応、こいつは声優と言うものをやっている。名義は野田桜。
とはいっても、最近の声優らしく声以外にも色々なことをやっている。ただ無駄にハイスペックだから、大抵こなせる。
ただこいつは元々アニメに興味は無かったし、声優になる気もなかった。
そんなこいつが声優になった理由は……まぁ今語るほどのことじゃないだろう。
というか、俺も詳しいことは知らん。
何でもこいつが仕事をするのに不便すぎるこんな所に、高校入学時にわざわざ引っ越してきた事と関係するみたいだが。
「ところで、昨日主演のやつがこの地域で放送だったよな?
確か、2本目だか3本目だかの主演作だよな?」
「3本目ね。相変わらず適当だな~。
でも、珍しく昨日放送だったことは知ってるんだ」
そりゃ、昨日、そのせいで自称妹にテレビまで案内させられたからな。
にしても、こいつのファンが目の前に現れた上に年下の中2女子とは。
まぁ、意外と女性人気があると聞くし、おかしくはない……のか?
「まぁ、見てはないけどな。やっぱ大変なのか?」
「大変と言えば大変かな~。主演作は日常系なんだけど、昨日放送された回はとにかく私のセリフが多い回で……」
それにしてもこいつ、やっぱり演技の話の時は目が輝いてるな。
普段から、明るいやつだがこういう時はよりいっそうな気がする。
「って、あれ? ジュン聞いてる?」
「あぁ、もちろん。あれだろ? 台詞多すぎて面倒だから途中から全部アドリブになったんだろ?」
「そんな事してないよ! ちょっとはアドリブ入れたけど!
もう、ジュン全然聞いてなかったでしょ?」
「いや、悪い悪い。でもちゃんとアニメの方は見とくよ。
で、時間も無いみたいだし、早速本題に入ってもらおうかな。」
あっ、それとマスター。もう持ってきて大丈夫ですよ。」
「そうか、ではどうぞ。」
マスターは俺の分のコーヒーと桜花の分の紅茶を置く。
そして、そのまま頭を下げてから静かに立ち去った。
……何も言わずに全てを察しているかのようなその振る舞いはさすがだ。
「あー、じゃあ本題はいるよ。
朝も言ったけど、親戚がうちに住むことになったの。」
やっぱりその事か、予想通りだったのでとりあえず安心する。
これでぜんぜん違うこととかだったらびっくりだ。
「銀髪で女性にしては長身の外国人か?」
「えっ、何で知ってるの?」
「学校で見かけてな、この田舎で見たことの無いやつがいたら大体察しが付く。」
なにせ、こんな場所だからな。
というか、こんなところじゃなくてもあの容姿は目立つと思うが。
「あー、まぁそれもそうか。
で、ここからなんだけど。彼女…あっ、リイナっていうんだけど。
この町を案内して欲しいんだって、でもほら私今から仕事じゃん?
で、帰ってくるの月曜の朝じゃん?
だから、私の代わりに案内してもらえないかなーって。大丈夫?」
まぁ、これも大方予想通りだ。
その程度なら何の問題も無い。
「なんだ、そんな事か。別にいいぞ。
安心して行って来い。」
「さすが、ジュン無駄に頼れる!」
「無駄には余計だ。用件はそれだけか、だとしたら早く行ったほうが良いんじゃないか?」
急かす訳ではないが、時間はなさそうなので一応早く行くよう促してみる。
だが、桜花は目線を右上に持って行った後、俺のほうに向き直りこう言った。
「あーそれと、変なこと聞いて良い?」
「なんだ?」
「私に外国人の親戚なんていたっけ?」
「本当に変なことだな。
一応他の国にもお前の家のグループあるし、いてもおかしくないだろ。」
「あー、うんそうだよねー。なんでおかしいと思ったんだろう?
ま、いいか。」
…これは…いやまさかな。
こいつの勘違いだろう、本質的にアホだし。
「まぁなにはともあれ任せたよ! 行ってくるね!」
そういうと、桜花は紅茶を一気に飲み干し…
「ゴホッゴホッ!」
「おい」
むせた、何だこの定番のボケは。
もちろん、こいつはボケのつもりでやってるんじゃないだろうが。
「ゴハァッ!!!」
何かもう既にお嬢様とか関係なく、
仮にも女子高生が人の前でしてはいけないような叫び声出してる。
「おーい、大丈夫か?」
一応、軽く背中をさすってみる。
というか、なんでこいつはむせただけで瀕死みたくなってるんだろうか。
朝の紗希を彷彿させる。やっぱりこいつら似てるな。
見た目は似てないけど、内面だけ見れば姉妹と言われても信じるかもしれない。
「あ、ありがとう。じゃあ私仕事行くから。」
「おう、じゃあまた学校でな。
あと、リイナさんはお前の家まで迎えに行けば良いんだよな。」
「そうだね、まぁ気楽にね。」
気楽に…か。まぁ特に気張ることもないしその通りかもな。
そして、桜花は店を出て行った。
…さて、もう少しゆっくりしていくかな。




