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人という素晴らしきもの

作者: 兎神遊

 人とは、儚き生き物である。

 例えば、事故にあえばすぐに死ぬ。

 例えば、核がなくなっただけですべてを失う。

 例えば、他者からの評価につぶされる。


 人とは、脆く壊れやすく愛しき生物である。


 故にこそ、人は理解しがたい。




 『神様、何を思いふけっていやがるのですか?』


背に白い翼を付けた人型の少女が問う。

我らの主は何をしているのかと。

神と呼ばれた彼はその少女にこたえる。


 『天使ちゃん、人とはなぜこんなにも尊き時間を無駄にするのかね』


 『無駄…と申しますと?』


 『ほら、この彼。どうして感情を得られる幸運を自ら捨てたのだろうか』


神様の指さすその先には無数の玉のようなものが浮かんでいる。

その中から一つだけこちらに近づいてきた。


 『彼の物語を聞かせてあげよう。』


そう告げると、この何もなかった空間に色が、時間が生まれた。



ーー・--・--・--・--・--


「どうしてお前はこんな点数しか取れないんだ!!」


 そういい、父は数枚の紙を投げ捨てグラスに入った酒をあおる。

 苛立ちからか、酔いからか顔が赤く染まっていて見ているだけで酔いそうだ。


「おいっ酒とつまみを持ってこい!」


「はいはい、わかりましたよ」


 母は、もう諦めるかのように台所に向かう。

 母の見ていたドラマは佳境を迎え、これから犯人が捕まろうとしているところだった。


「だいたいお前は、毎日ゲームやらやってるからこんな点数ばかり取るんだ」


 父の投げた紙。

 その一枚が立っている私の足元に来た。


 そこに書かれたのは物理のテスト。

 名前と点数。各問題の解答が目に入る。


 このテストでは回答用紙を配っているときに先生が意地悪をしてまだ教えてもらえていない問題を入れたといっており、実際の点数は本来記載されているものより高いのだという。


 クラスの中でも私を含めた数人…同じゲームで遊んでいる親しい人たちしか正解になっていなかったのだという。

 むしろ、正解者がいたことに驚いたとクラスみんなで笑いあっていたのは記憶に新しい。


「ごめん…なさい…」


 何を言おうと聞いてくれない父のことだ。

 素直に謝っておいたほうが身のためである。


「ごめんで済むなら親なんていらねんだこのボケが!!」


 酒の入ったグラス。

 つい先ほど母が注いでくれた酒が私と偶然近くに来ていた弟に降りかかる。


「なっ!?」


 弟は今年7歳になり、つい5日前に誕生日を迎えたばかりだ。


「ユウ?ねぇ、ユウ!!」


 瞬く間に倒れる弟。

 顔が徐々に赤く染まってくる。


「あんた何やってんの!!」


 弟に手を伸ばした手をはねのける母。

 母は、まるで親の仇でも見つけたかのように私と父を睨みつける。


「救急車…早く!!」


 母の声に急ぎスマホを手に取る。

 救急車…救急車…と頭がいっぱいになる中何とかコールをかけることができた。


 母はすぐにでも出られるように身支度を整える。

 私も身支度をしようと部屋に戻る。



あぁ、また選択を間違えてしまったのだろうか?


 そんな考えが頭から離れずにいた。


ーー・--・--・--・--・--


 あれから3年がたった。


 今日は弟の誕生日だ。


 家には多くの人が集まっており、多くの人が悲しみからか涙をこぼしている。

 


 そう。私がいつものようにと答えたあれで、父がやるとわかってたことを受け流したせいで。


 私が、弟を殺したのだ。

 直接の原因は父なのかもしれない。


 偶然弟の体調が悪く起きてきてしまったことも。

 偶然私に降りかかる酒を浴びてしまったことも。

 偶然救急車が渋滞に巻き込まれて家に着くのが数分遅れてしまったことも。


 すべては起きることが珍しい偶然。

 ただ一つ、私がいつもと違いう選択をしたら回避することができた現実だった。


「まだ、自分を責めているの?」


 この場に合わない、白い服を着た少女が私に問う。

 この少女は、弟がいなくなったとき、偶然私の懺悔を聞いていた。


「責めていただけじゃ、いい未来を掴むことはできないよ」


 また、何か意味深なことを言う。

 会うたびにこのような調子なのだ。


「私は…私は…」



 こんな未来だなんて思ってなかった。



『そう、だろうね。でも、これが現実という物語なんだ。人よ。』


 こんな、非常な未来を選んでいるなんて思いもしなかった。


「私は…こんな未来だなんて…

こんな未来に…つながる選択だなんて思わなかった」


「そう、それで。

立ち止まって他の可能性つぶして大切な未来を選ばずにあなたはどうしたいの?」


 過去に囚われててもいいじゃないか。

 だって、人って過去を糧に成長するんでしょ?


「そう、好きにするといいよ。

あなたの人生なんですから」


「あなたに…私の半分も生きていなさそうなあなたなんかに何がわかるっていうのよ」


 そういい、少女の視線から逃れるようにかけていく。

 少女の、「そう、人って悲しいのね」という言葉には気づかないようにしていた。


ーー・--・--・--・--・--


 『それで、神様はこの後この少女をどうしたのですか?』


 『どうもしていないよ』


神様…白い服の少女は何もしなかった。

少女が逃げるように去り、その先で不幸にも飲酒運転していた車両に引かれてなくなってしまった。


ただ、それだけの出来事だ。

そう。ただそれだけの未来への繋がっていた。


 『神様、それで、彼女はどうしてここに?』


普通の魂は神様のところには居続けられない。

強い思いがなければ目にもとどまらないことだろう。


 『単なる神様の気まぐれだよ』


少女がユウという弟にまた会いたいという思い。

それは神様の目にとどまてしまった。


過去は変えられない。

だが、未来を変えられたかもしれない。


 『人って、こんなに儚い生き物だ。

 人って、こんなに尊い命を持っている。

 人って、こんなにも他者に尽くすことができる』


故にその脆く儚い命に幸あれと見守り続ける。


そう、人とは儚い生き物なのだ。

そう、人とは脆い生き物なのだ。


人生とは選択の連続である。

人生とは間違いを繰り返して成長するのだ。


故に若人よ間違えろ。

故に老人よ未来を導け。


未来ある若人は過去ばかり見て未来を閉ざすな。

神様は見ている。尊きその人生を。


さぁ、ここに産声を上げよう。

過去にばかり目を向けて未来を閉ざすな。

死は解放ではない。今との決別だ。


人の命は儚きものである。

人とは儚き生き物である。

故にこそ。


儚きその人生に幸あれ。

死に恐れず、未来を生きろ。



過去に怯え未来を自ら閉ざす愚者にはなるべきではない。

自ら選択し、自ら未来を掴み取るのだ。



その掴み取った未来に祝福を。

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