七話『知りたいこと、知ったこと』
短い。
前.フェアリ視点
中.ウィリアム視点
後.フェアリ視点
『……ふむ。それでいいのか?』
「いい。アクアはもちろん俺も彼女のことを心配している」
真剣な顔で返すウィリアム様。アクア様は、願いがソレだとは思っていなかったらしく動揺している。
『一応、妹の名を聞いておこう』
「フェアリ…フェアリ・ヴルガータです」
『ふむ』
_ノア、よいのか?
サラマンダーが念話をとばしてくる。
わざわざ確認するのね。精霊たちはみんな心配性だ。オリジンもそう。そんなに心配そうにしなくても大丈夫なのに。
(今どこに居るのかを教えなければいいよ)
下手に居場所を教えれば、私が連れ戻される可能性が高くなる。だから、それさえ伏せればいいだろう。
『…聞いても取り乱すなよ』
そう前置きして、サラマンダーは続けた。
『ランの言う娘は王太子との婚約の破棄後に勘当、国外追放となったようだ』
「っ!……どこにいる?」
アクア様は青ざめ、ウィリアム様は悔しそうにする。
どうしてそこまで会ったことも無い妹を心配しているの。
『言えぬ。娘との約束だ』
「生きては…いるんだな?」
『ああ』
「そんなに大事なのk…ですか?」
ぎこちない敬語でクランは聞いた。
フェアリはお兄様とあったことは無いはずだ。なのに、どうして_
「…大切な妹なんだ。ずっと後悔してた。あの家に残してきたこと。一度も会いに行かなかったこと。それくらい、あの子のことが__」
「…少し席を外しますね」
もう、聞きたくなかった。これ以上は作り上げた全てが壊れてしまう気がして、私はアクア様たちから逃げるようにその場から離れた。
✣✣✣
「どうしたんだ?」
アクアの妹_フェアリの話題が出てからノアの顔色が悪くなったと思ったらどこかへ行ってしまった。俺もアクアもクランたち【焔】も困惑するばかりで黙って見送った。サラマンダーがオリーと呼んだ精霊はノアについて行った。
なんとなく気まずい空気が流れ黙っていると先ほどまで幼子のようだった精霊たちの表情が変わり、1人の精霊が口を開いた。
『愛しい子は傷ついた』
その言葉で次々と精霊たちが言葉を紡ぐ。
『愛しい子は裏切られた』
『愛しい子は笑えない』
『愛しい子は悲しめない』
『愛されていることを知らぬから』
『傷ついていることに気がつけぬから』
どことなく哀しそうな表情をする精霊たち。サラマンダーもどことなく哀し気だ。
「それは…ノアのことか?」
精霊たちは『愛しい子』と呼んだ。さっきはノア、ノアと精霊名を呼んでいたのに。ソレに違和感を覚えて聞くが精霊は無視して言葉を続ける。
『泣いている』
『助けてって苦しんでる』
『愛しい子を愛して』
『愛しい子を傷つけないで』
『愛しい子が偽らなくてもいいように』
『愛しい子が笑えるように』
誰のことを言っているのかわからなかった。アクアもクランも同様で、ただただ困惑するだけだ。
精霊は愛し子を『愛しい子』と言うと聞いた。それなら、精霊が言っているのはノアのこと。それなのに、精霊が言う愛しい子はノアではないように感じた。
まるで__
「まるで…フェアリのことを言っているように聞こえますね」
「そうだな…」
アクアの妹。一度だけアクアと共にあの愚国に行った時、遠目に見たことがある。遠目でもわかるほど美しい金糸の、毛先の方は淡い紫の髪をしていた幼い令嬢。娘のことなど気にもかけず歩く公爵を必死に追いかけていた。公爵は子供を愛していないのは有名だったらしく、周りも特に関心を示さなかった。婚約者もそう。
息苦しく、狭い価値観でしか生きれない世界。アクアはあの国で人間関係に疲れていた。
フェアリ嬢もそうだろう。ましてや彼女は婚約破棄に勘当、国外追放という目に遭っている。先ほど聞いた時は、知らなかったとはいえ俺もアクアも後悔した。あんな国にいつまでもいさせるべきではなかったと。
『いつか、意味が分かる時が来る』
サラマンダーはそう言う。
『ランも、ウォールも愛しい子の支えになる。今は自分すらも偽る子だがな』
そう笑ったサラマンダーは、少し苦しそうだった__
✣✣✣
『…大丈夫?』
オリジンは、逃げるように森に入った私の顔をのぞき込む。
「大丈夫。ただ、申し訳なくて…」
嘘だ。
精霊が上位になればなるほど精霊に嘘は通じない。契約が強くなればなるほど心の声は精霊に筒抜けになる。
それでも、嘘をついた。
私はもう貰えない愛なんて求めたくない。
期待して裏切られる痛みなら、吐き気がするほど味わったから_