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令嬢は名前を知らない【修正中】  作者: モノクロ猫
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五話裏✣ウィリアム視点



「殿下、そろそろ冒険者ギルドに着きますよ」



浅い眠りについていた俺はその声に瞼を開ける。揺れる馬車の向かいに座るのは学園での親友とも呼べる男_アクア・ヴルガータ。

フィルマリア王国からの短期留学生として帝国に来たが、留学期間がすぎた今でも帝国に留まっている。アクアは成績優秀な上に()()王国民でありながら性格も良い。その為むしろ帝国側としては残ってくれるのは有難いし、俺としても心を許せる友人をあんな国に戻すことはしたくない。ということで、短期留学だったはずが延びに延びて今に至る。あちらからは何の苦情もこない上に、こちらでは周りに『皇太子の側近』という印象が根付いている。だから俺と行動するのが当たり前になってしまい、今回も同行しているのだ。接待で相手をすることはあっても()()ならこれは有り得ない。



「あ、着きましたね」



そう言われ、馬車を降りる。俺たちが来たのは冒険者ギルド。

皇太子は必ず精霊と契約する、という決まりで俺は精霊と契約しなければならない。が、精霊というのは会おうと思って会える存在ではない。我が父_陛下も気まぐれな精霊が陛下の魔力を気に入ったために偶然出会い、契約することが出来た。つまり、精霊と契約するなら会いに行った方が手っ取り早いということだ。何故冒険者ギルドに来る必要があるのか?護衛を雇うためだ。本来であれば騎士が来るのだが精霊が住まうのは魔の森に囲まれた泉であり、魔物が多く出る。この場合、人の相手をすることの多い騎士よりも普段から依頼などで魔物を相手にすることが多い冒険者の方が断然有利なのである。



「ギルドマスターはいるだろうか」



ギルドの裏口から入り声をかける。ギルド職員は明らかに貴族であろう俺たちを見て少し驚いた様子だったがすぐに立ち直り、その中の一人がギルドマスターを呼びに走っていった。



「殿下お久しぶりです。今日はどうしました?」


「精霊との契約の為に泉に行く。魔の森を通るから冒険者の護衛を何人か雇いたい」


「あぁ、もうそんな時なんですか。そうですね、今いる冒険者ならAランクパーティの【焔】が良いかと」


「呼んでくれるか?」


「はい。おい【焔】依頼だ!」



ギルドマスターが【焔】を呼ぶと燃えるような赤髪の男がやってきた。おそらく【焔】のリーダーだろう。



「はいよ。なんの依頼だ?」


「殿下が精霊の泉に行く。護衛を頼む」


「精霊の泉?あぁ、契約に行くのか。なら、()()()も連れて行っていいか?」



少し考える様子を見せた男はギルドマスターに別の者の同行の許可を求めた。精霊の泉付近の魔物であればAランク冒険者なら余裕だと陛下から聞いていたのだが…。



「誰だ?」


「ノアだよ。ノア。『金色の精霊術師』なんて呼ばれてる奴だ」


「…いかがでしょうか、殿下」


「ふむ」



なるほど、精霊術師の同行か。

チラリとアクアに視線を送る。「お前はどう思う」という意味だ。俺の視線を受けたアクアは考える素振りなく答えた。



「精霊術師であるならば精霊との契約にも詳しいのでは?同行して頂いて損はありません」


「そうだな。では【焔】とノアという者への依頼としよう」


「畏まりました」


「俺はノアを探してくっか〜」


「リーダー丁度来ましたよ」



そう声がかかると赤髪の男は跳ねるような足取りで一人の冒険者の元へと向かっていく。



「ノア!」


「クラン。久しぶり」



クランと呼ばれた冒険者が声をかけたのは『金色の精霊術師』の名に相応しい美しい金糸の長い髪を束ねた冒険者だった。その服装から男であると思うが、容姿も声も女性的だ。



「依頼を受けるのか?」


「そうだけど?」



不思議そうに精霊術師がそう返すとクランという男はニヤリと笑って言った。



「【焔】と『金色の精霊術師』に共同依頼だぜ!」


「ちょっ!その名前は勘弁して…」



精霊術師はそう言ってから、共同依頼?と声をこぼしている。このままだといつまでも話していそうな感じなのでそこで声をかける。



「話しているところすまない」



クランは忘れてたと言わんばかりの顔で、精霊術師は俺が貴族だとわかってか口を噤む。



「俺は依頼主のウィリアムだ。精霊との契約のために精霊の泉に行く。同行してもらえないだろうか」



そう言うと納得した様だ。そして、すぐに美しい礼をする。貴族なのだろうか?しかし、帝国貴族で彼のような者を見かけた記憶はない。



「精霊術師のノアと申します。事情により精霊名で名乗ることをお許しください」


「いや、気にするな。あと堅苦しいのはなしだ。今回、このアクアも同行する」



その言葉で隣に来たアクアに目を向けたノアが固まる。アクアも同様に固まっている。



「アクア?」


「っ!アクアと申します」



狼狽えるアクアに訝しげな顔をしてしまったのは仕方ないと思う。気まずい雰囲気を壊したのはクランだった。



「ノアとアクア…様はそっくりだな」


「言われてみれば…アクアにはノアと同じくらいの妹がいるが」


「ノアは男だからなぁ…」



クランの言葉に含まれた意味を理解して、全員でノアに視線をやる。首を傾げるノアの頭をクランが乱暴に撫でている。



「ほんと、男なのがもったいねぇ」


「なんで?」



周りで話を聞いていた冒険者がクランの言葉に頷き同意する。俺もそう思う。



「ノアは…その、失礼だが…華奢だな」



失礼を承知でそう言うと苦笑で返される。

だが…ノアは美人だと思う。男でも美人と呼ばれることもあるが、ノアは女性的な美しさだ。着ているローブで体型はよくわからないが服から覗く腕は細くて男としては頼りない。それに、先程からコロコロ変化する表情はどれも可愛らしいのだ。



「では行きましょうか」



しばらく黙っていたノアはそう笑った。



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



「そろそろ着きます……って大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫だ」


「おま、え…どこに、そんな、体力…」


「……」



後ろを振り向いて聞いてくるノアに、息があがったまま言葉を返す。ゼェゼェとしながら必死に言葉を絞り出すクラン。アクアや【焔】のメンバーは言葉も返せないくらいに体力を消費している。

護衛として嬉々として魔物と戦っていたのはクランたち【焔】。アクアも俺も時々それに加わっていた(途中で止められたけど)。ノアは精霊術師であって激しく動く戦闘はしていないので息がさほどあがっていない。それに精霊の泉には何度か訪れているらしく、俺たちを気遣ってか比較的歩きやすいところを通ってくれているようだった。



「……あーもう、しょうがないですね。『ルス』」


『わかった!まかせてー』



ノアが何かを呼んだ。白い光に包まれて光が収まると目の前には美しい泉。その周りで精霊たちが元気に動き回っていた。



「こ、こは…」


「ようこそ、精霊の泉へ」



そう微笑むノアに見惚れてしまう。アクアも【焔】も同様で頬を染めている。



『ノア?』


『ノアだー』


『ノア〜』


『ノア〜げんきになった~?』



精霊たちはノアの側に寄ってくる。何故か契約していないのに精霊の声が聞こえることに唖然とする。



『僕この人と契約するー』



しばらくすると、一人の精霊が声を上げて、ある男を指した。

次回六話『契約』


2020/05/22 文の付け足し、多少の変更

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