五話『出会い』
目を覚ますと、ルイくんが顔を覗き込んでいた。しかし、目が合うとすぐにそらされてしまった。
寝かされているのは孤児院のベッドのようだ。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてきたのはルイくんではなくて神父様。恐らく運んでくれたのだと思う。
「すみません。少し体調が優れなかったみたいで…今日はこれで失礼しますね。運んでくださってありがとうございました」
そう言うと、何か言いたそうな顔をされる。ルイくんは私が起きてからずっと口を開かず、起きてそれきり目も合わせてくれない。 声をかけたかったけれど、神父様に外に出ることを止められる前に扉を開け部屋を出た。
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翌日、教会には行かずに冒険者ギルドに向かった。昨日のこともあって、しばらく教会には行かないことにした。勉強を教えると言っておいて申し訳ないが仕方ないだろう。とはいっても、依頼を受けるか教会に行くかしかなかったので依頼を受けようとギルドに行ったのだ。
「ノア!」
「クラン。久しぶり」
ギルドの中に入ると燃えるような赤髪の男性が私の名を呼んだ。
彼はAランクパーティ【焔】のリーダーをしているクラン。燃えるような赤髪と夕焼けの様な瞳の色をした面倒見のいい人だ。冒険者になったばかりの頃も良く声をかけてくれて、アドバイスをくれたりした。ただし、少々抜けているところがあり…そのことを他のメンバーから相談される。
「依頼を受けるのか?」
「そうだけど?」
そう返すとクランはニヤリと笑って言った。
「【焔】と『金色の精霊術師』に共同依頼だぜ!」
「ちょっ!その名前は勘弁して…」
そう言ってから、共同依頼?と声をこぼす。Aランクパーティ【焔】への依頼ならBランクの私は足でまといになると思うのだけど。
「話しているところすまない」
声のした方を見れば、綺麗な銀髪で赤い瞳をした青年がいた。着ている服から貴族であろうことがわかる。
「俺は依頼主のウィリアムだ。精霊との契約のために精霊の泉に行く。同行してもらえないだろうか」
なるほど。精霊と契約をするから精霊術師の私が呼ばれたのか。
「精霊術師のノアと申します。事情により精霊名で名乗ることをお許しください」
「堅苦しいのはなしだ。今回、このアクアも同行する」
そう言ったウィリアム様の隣に立った青年に目を向ける。息が止まったように感じた。
亡くなった母と同じ金髪。父と同じ深緑の瞳。会ったこともない兄と同じ名前。
アクア様も同様に私を見て固まっている。
「アクア?」
「っ!アクアと申します」
狼狽えるアクア様に訝しげな顔をするウィリアム様。気まずい雰囲気を壊したのはクランだった。
「ノアとアクア…様はそっくりだな」
「言われてみれば…アクアにはノアと同じくらいの妹がいるが」
「ノアは男だからなぁ…」
なんだろう。視線が痛い。
首を傾げるとクランが頭を乱暴に撫でてくる。本当になんなんだ。
「ほんと、男なのがもったいねぇ」
「なんで?」
本当に訳が分からない。いや、そもそも女だから女のように見られるのは構わないけれど。でもクラン…君は何度か私に触れているはずなんだけどなぁ…。
「ノアは…その、失礼だが…華奢だな」
まぁ女ですから。
とは返せないので苦笑で返す。気を使わせているのがとても申し訳ない。それでも言えないものは仕方ない。
_今から精霊の泉に行くね
(わかったーまってるねー)
(きをつけてきてねー)
精霊の泉は魔の森の中心部にある。魔素が特別高い森の中に精霊の泉がある理由は人が精霊たちと簡単に接触できないようにするためだ。精霊たちは気まぐれではあるけれど、助けを乞われて見捨てるような子たちではない。下位精霊は特にそうで、稀に悪意に気がつけず契約させられてしまうことがあるのだ。
だからこそ、人が近寄らない魔の森にあるのだとオリジンが言っていた。ついでに『愛し子は例外なのよ〜』とも。
「では行きましょうか」
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「そろそろ着きます……って大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」
「おま、え…どこに、そんな、体力…」
「……」
後ろを振り向くと息があがっているけど言葉を返してくれるウィリアム様とゼェゼェとしながら必死に言葉を絞り出すクラン。アクア様や【焔】のメンバーは言葉も返せないくらいに体力を消費している。
そもそも、護衛として嬉々として魔物と戦っていたのはクランたち【焔】だし、アクア様もウィリアム様も時々それに加わっていた(ウィリアム様は途中で止められたけど)。私は元々精霊術師であって激しく動く戦闘はしていないので息がさほどあがっていないのも当然。それに、ここ2年で精霊の泉には何度か訪れているしね。
「……あーもう、しょうがないですね。『ルス』」
『わかった!まかせてー』
あまりにも体力を消費しているので契約している光の精霊『ルス』を呼んだ。精霊の泉が近いこの場所ならこの人数でも転移させられる。
白い光に包まれて光が収まると目の前には美しい泉。その周りで精霊たちが元気に動き回っていた。
「こ、こは…」
「ようこそ、精霊の泉へ」
疲れ切った表情の彼らに微笑みかける。心なしか顔が赤くなった気がするけど気の所為。疲れているものね。うん、きっとそう。
『ノア?』
『ノアだー』
『ノア〜』
『ノア〜げんきになった~?』
私に気がついた可愛らしい精霊たちは私の側に寄ってくる。精霊の泉では精霊たちの力も普段より強くなるので契約していなくても声が聞こえる。その為か転移で連れてきた彼らは、転移させられた時の格好のまま唖然としている。
『僕この人と契約するー』
しばらくすると、一人の精霊が声を上げて、ある人を指した。
次回五話裏✣ウィリアム視点
2020/05/18 文の付け足し