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令嬢は名前を知らない【修正中】  作者: モノクロ猫
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十二話『火の精霊王』

前・フェアリ視点

後・サラマンダー視点


雨降る訓練場で水の精霊たちと触れ合う。私のことを呼びながら幼い子供のように無邪気に舞う精霊。気まぐれな彼らはたまにこうやって舞って見せてくれる。クルリクルリとまわるとヒラリヒラリと彼らの服が踊るように揺れる。とっても単純で、とっても優しい彼らの舞。



「もう少しだけ」


(いいよー!)


(わかったー!)



それだけで言葉の意図を理解したみたい。止めかけた舞を再び見せてくれる。



『ノア』



どうやらサラマンダーまで届いてしまったらしい。隣にいたウィリアム様は気がついていないようだし、いいか。



✣✣✣



「ありがとう」



精霊たちの舞も終わり降らせていた雨をとめてもらう。そうしてお礼の意味も込めて触れ合う時にいつもより多めの魔力をあげた。


ウィリアム様たちの方を向いて…見なかったことにする。なんというか、彼らの好奇心が私自身に向けられているのがわかったから。

このままでは質問攻めにあう。そう思ったので他の誰かが口を開く前に本題にはいることにした。



「えっと……今のは水の精霊術です。アクア様は水の精霊と契約していますし、魔力にもまだ余裕があるのでもう少し小規模なら同じように雨を降らせることが出来るかと。先生、魔力制御はどの属性も似たようなものなのでアクア様たちをお願い出来ますか?」


「殿下は…」



先生は目の届くところでやって欲しいらしい。

けどね?本当に危ないから無理ですよ?



「ウィリアム様が契約したのは火の精霊王。制御を間違えばこの場を火の海にすることも出来てしまいます。ですので、ウィリアム様は少し別の方法で」



そう言うと納得してくれた。よかった。


精霊王の力は強大だ。特に火の精霊王は火力、殺傷能力が強く暴発などすれば死人が出かねない。契約者や愛し子は精霊王が護ってくれるけれどとてもじゃないが他人を助けるほど精霊たちは周りを気にしない。



「サラマンダーも気をつけて力を使ってね?」



✣✣✣ ✣✣✣



「……サラマンダー」



ウィリアムは目の前の光景に恨みがましい声を俺に漏らした。周囲は黒焦げだ。俺が言うがままに呪文を唱えさせたがとんでもなく強力な精霊術だった。だからノアは呆れながらも黒焦げになった訓練場をどうにかするために人を呼びに行った。



『すまん……』



落ち込みながらもウィリアムに謝る。



『ノアにいいところを見せようと…』


(どうやら思考回路は思っていた以上に単純らしい。というか【いいところを見せる】=【強力な精霊術】という答えに至るのは別にいいが、何のためにノアが俺の訓練場とアクアたちの訓練場をわけたのかもう少し考えて欲しかった。)



ウィリアムは気がついていないが、俺には心の声が丸聞こえだ。そのためウィリアムの言葉が突き刺さる。



「…何を焦る必要があるんだ。ノアはどこにも行かないだろう」



ウィリアムの赤い瞳が向けられる。その瞳はきっと本心を見抜いてしまうのだ。今は気がついていないがノアの本心にもいずれ知らぬうちに踏み込んでいくのだろう。

焦る。確かにそうだろう。ノアは自分が思っている以上に不安定で頼りない。何よりも_



『俺たちじゃあ、救えないんだ』



救えない。癒せない。ノアの痛みは、苦しみは、精霊の俺には理解できない。

精霊には感情があるが人間の感情を理解できるかと言われれば答えは【否】。俺たちは時の進みがとても遅い。だから人の生涯は俺たちからすればたったの少しの時間。俺たちが生まれ、消滅するまで人間は何千世代目にまで至ってしまう。だからこそ、一時一時に対して関心がないし、大事にする必要性も感じない。

違うのはオリー_精霊の女神オリジンくらいだ。

それでもノアを大事にしたいと思うし、ノアを傷つけられれば憤る。



『俺たちは()()にはなれない。せいぜいしばらく留めることができるくらいだ』



ノアは歴代の愛し子の中で一番精霊に愛される。けれどノアが望むのはそれじゃない。ノアが望むのは同じ()()()愛なのだから。

ノアは今苦しんでいる。愛したものから突きつけられた言葉に抉られた傷を必死に見ないように、気が付かないように偽ろうとして、失敗して、ふとした顔には影がさしていく。それは、いつかノアが死を望むのではないかと俺たちを不安にさせる。俺たち精霊は簡単に切り捨てることが出来ても、ノアには出来ないのだから。



「サラマンダー、人は成長するんだ」



ウィリアムは当たり前のことを言う。けれど何故かウィリアムはノアに、ノアのことで戸惑う俺たちに道を示してくれるような気がして続く言葉を待つ。



「成長する速度は人それぞれだが…ノアは今、触れてこなかった人間の優しさに触れているはずだ。それは否が応でもノアに今まで目を背けてきた現実を見せることになる。だが」



銀が風に揺れて、赤がこちらに歩いてくるノアへと向けられる。



「現実を見ることで絶望しても、留まっているだけじゃ救われやしない。救いを待っていても救いは現れやしない。声に出して伝えなきゃ誰にも思いは届かない。あとはノアが声をあげるだけなんだ。もうノアには支えとなるサラマンダーたち精霊がいる。それに__」



___これからは俺たちもいるだろう?



その言葉に体の力が抜けたような気がした。

浮かべられた笑みは確かにノアの、彼女の救いとなり得るだろうと、俺を確信させる。

きっと、ウィリアムは彼女の唯一となる。

俺は目の前で笑顔で言葉を交わす二人を見て、ウィリアムとの契約を()()()()()__

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