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令嬢は名前を知らない【修正中】  作者: モノクロ猫
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九話『夢』


皇帝とフェアリが会ったその日の夜、フェアリは夢を見ていた。


フェアリ自身が夢だと気がついた理由はソレが絶対に有り得ないと彼女自身わかってしまっていたからだった。



「フェアリ、おはよう。お寝坊さんね」



フェアリの記憶に残る、フェアリを愛し育ててくれた母はフェアリが大好きだった微笑みを向けて座っていた。



「……おはよう、ございます。お母様、お兄様……お父様」



フェアリは大好きな母の隣に座る父を見つけた。フェアリが父を呼ぶことを躊躇してしまったのも仕方がなかった。何故なら公爵はフェアリが一度も見た事がない優しい笑みを…愛しくてたまらないと言わんばかりの笑みを浮かべていたからだ。


フェアリには公爵に愛された記憶はない。生まれてから一度だって、笑みを向けられたことすらなかった。フェアリを育ててくれたのは母で、母が亡くなってからは子持ちの使用人数人が世話をしてくれた。その使用人もフェアリがある程度大きくなってからは公爵に解雇されてしまったが。それ以来は精霊と、数少ない常識人だけが味方だった。

フェアリは公爵が嫌いだった訳では無い。家族として愛していたし、父の言うことであればできる範囲で聞くつもりだった。


たとえ、それが道具として扱われているのだとしても。



(けど、今になってこんな…こんな夢を…)



フェアリはもう捨てられた。公爵にとって【要らない娘】だと決められた。

何より望んでいたことを今になって見せられて、フェアリの心が揺らがないはずがなかった。

フェアリがあの日まで自分の境遇に何も言わなかったのはこの夢に縋っていたからだ。母を亡くし、実の父から愛して貰うどころか見向きもされない中で【夢】がフェアリを支えていた。『いつか』『きっと』に縋り努力してきた。彼らに向けたその愛が【見返りを求めた愛】だったとしてもフェアリ自身にその自覚はない。自覚できなくなるくらいにフェアリは色々と偽りすぎた。しかし、確かにそれは【愛】だった。



「フェアリ?どうしたんだい」


(けど………)



兄の声になにも返さず、フェアリは己の心配をする公爵(理想の父)の頬に手を振り下ろした。



「もう、要らないわ」



フェアリの頬を一つの雫が伝う。

困惑した表情をする両親と兄(望んでいた家族)にフェアリは()()()()笑った。



「もう、要らない。やっと、認められるように、なったの。これは、ただの願望でしかないんだって。だから、もういいの。絶対に帰ってこないお母様も、私なんか絶対に愛してくれることなんかないお父様も…私はもう求めない」



いつの間にかフェアリの前から公爵(優しい父)は消えていた。フェアリは残った母の抱擁を静かに受け入れる。嫌気がするほど現実的な温もりを、静かに。



「ごめんなさい、お母様。ありがとう…私を、育ててくれて…産んでくれて…愛してくれて…。だから…」



いつの間にかフェアリの前からは母が消えていた。フェアリは少し離れた所で待つ兄の所へ歩き出した。



「さよなら、私の幻想(お母様)



✣✣✣



フェアリは目を覚ました。視界に入ったのは天井の木目。



「……こんなにも温もりを求めてたなんて思ってなかった」



固めのベッドに残る自分の温もりにフェアリは苦笑する。夢での生々しいくらいの温もりはきっと…ソレだった_



✣✣✣



ウィリアムは夢を見ていた。

目の前で背を向けて泣く女性に何処と無く見覚えのある感覚がしていた。



「何故、泣いているんだ?」



ウィリアムの声が届いていないのか、女性は振り返らない。ウィリアムはまっすぐな金糸の先が淡く紫になっていることに気がつく。そこでやっとその髪を何処で見たのかを思い出した。

フィルマリア王国に訪れた時。その金糸の髪はある少女を見た時と、つい最近。金色の精霊術士と呼ばれる愛し子の少年も同様に金糸の先は淡い紫だった。



「……フェアリ、嬢?」



ウィリアムは覚えのあるあの少女の名を呼んだ。女性は振り返らなかったが、僅かにウィリアムの声に反応を示した。どうしたらいいのかわからぬままウィリアムは女性に1歩近づく。



「たすけて」



いきなり響いた女性の声にウィリアムは目を見開く。



「あの子たちを、たすけて」



ウィリアムには女性が何を言いたいのかわからなかった。けれど、救わなくてはいけない気がした。



「あの子を、フェアリを、知っているのでしょう?お願い、フェアリを、アクアを……私の子をたすけて」



ウィリアムは、女性がフェアリとアクアを私の子と言ったことでその女性の正体に気がついた。



「アクアの…母君?」


「私の子を、あの国から助けて。あの男から…解放してあげて」



女性はウィリアムの声にこたえない。ただただ次々と言葉を紡いでいる。



(もしかしたら、時間が無いのだろうか)


「私の…で……あの……を……ってし…た」



女性の声はだんだんと聞こえなくなっていく。ウィリアムはただ最後まで女性の話を黙って聞いていた。



✣✣✣



ウィリアムは目を覚ました。まだ外は薄暗い。



『私の子を、あの国から助けて。あの男から…解放してあげて』


(アクアはそのうち父上があらゆる手を使ってでも帝国に引き抜くだろうな。問題は…追放されたフェアリ嬢か)



ウィリアムは夢での声を思い出しながら、窓の外を眺めた。休暇も終わり明日からは学園へと通う。

休暇前と違うのはウィリアムとアクアの二人とノアが共に通うことになること。


ウィリアムはこの先大変で、それでも楽しくなると根拠のない確信に笑った_

文のつけたし

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