八話『謁見』
遅れました。申し訳ないです。
たぶん短いし淡々としてる。
しばらく森で頭を冷やして泉でウィリアム様たちと合流した。なんとなく気まずい雰囲気ではあったけれど何事もなくギルドまで帰った。【焔】の皆は『俺たちあんま必要なかったよな』なんて不満そうにしていたけれど気にする必要は無いと思う。依頼の実際の難度と冒険者の実力とは釣り合わないことが多い。依頼主の身分だったり場所だったり、全体的に見れば釣り合っているように見える依頼のランク付だ。
依頼達成して報酬を分けて【焔】とも別れて宿に戻ろうとしたけれどウィリアム様に声をかけられ止められた。
いわく『愛し子のノアに陛下が会いたいと言っている』と。
愛し子だと知らせてしまった以上断る理由も無い。今の私は身分のない平民なのだから皇帝陛下の言葉を断るわけにもいかない(万が一貴族令嬢であっても断ることはしないが)。なので、何時でも大丈夫ですと伝え宿を教えた。
翌日、遣いとしてきたウィリアム様から『今日会いたい』と伝言をもらい城へ向かった。
✣✣✣
「では陛下、私は席を外しますね」
「わかった。アクア殿が精霊術の指導を受けているはずだから、合流するといい」
「はい」
案内してくださったウィリアム様は優雅に礼をして退室した。
この部屋にいるのは私と陛下だけ。なんというか…この状況はいいのだろうか。近衛くらいは入れてもよかったのでは…?陛下はただイタズラっぽい笑みを浮かべて話し出す。
「さて、愛し子ノア殿…いや、フェアリ嬢と呼んだ方がいいかな?」
確信を持った問いに苦笑する。皇帝陛下には殿下の婚約者として何度か会ったことがあるからバレるだろうとは思っていた。
「ノアと名乗っているのでノアとお呼びください。やっぱり、普通はわかりますよね」
そう返すと陛下も苦笑した。私の言葉に含まれた意味を理解したのだろう。
普通は一度でもフェアリ・ヴルガータに会ったことがあるならわかるはずだ。少し服や髪型を変えただけで誤魔化せる王国がおかしいだけであって、本来なら私の今の姿は変装にすらならない。会ったことがないウィリアム様もアクア様も鈍いようだししばらくは男だと思い続けてくれるだろう。少し悲しい気もするけど。
「それにしてもウィリアムもアクア殿もフェアリ嬢とは気付かずとも女性であることすら見抜けぬとはまだまだのようだ!」
「冒険者はそこまで気にしませんし、教会の方では性別の話はしていませんが…あそこまで男性だと信じられるのもなんと言うか…」
心底面白そうに笑う陛下に少し苦笑して思っていることを言う。
あそこまで素直に信じられてしまうと自信をなくす。妖艶な体つきとまではいかなくともそれなりに女性的な体つきをしているとは思っていたのだが。ローブがいい感じに役に立っているのだろうか。
「ノア殿は愛し子だろう?だから完全に野放しにしておく訳にはいかん。しかし、縛り付けるのは本意ではない。というわけでどうだ?ウィリアムとアクア殿に精霊術を指導してはくれないだろうか」
「構いませんが…ウィリアム様とアクア様は学園に通っておられるのでは?」
帝国には多くの学園、学院がある。ウィリアム様もアクア様も通う年数の長い学園の生徒だったはずだ。学園生であるなら自由な時間もほとんどないと思うけれど。
「そうだ。だからノア殿も学園に行ってみないか?ギルドに依頼として出すし、従者として付き添っているだけでも良い。精霊術の授業もしているからその時に色々と教えて貰えると助かるのだが」
王国にいた時はマトモな学習など出来なかった。__違う。王国のマトモな学習というのが回りくどくてわかりにくくて面倒な学習だっただけだ。英雄が建国した国だった筈なのに…。
「…わかりました。年の違いもありますし、従者としてくださると助かります」
まっすぐに瞳を向けると優しい笑みを返された。その笑みを見て思う。
もし、もし私が、この王が治めるこの国に産まれていれば、なにか違っただろうか。
私は幸せでいられただろうか。
どれだけ考えたって答えはでない。どうせ考えたところで何も変わらない。結局は『もしもの話』なのだから。
そうして私は何もわからぬまま、その部屋をあとにした。
2020/5/30 文章のつけたし




