1.alone
作中に一部過激な表現があります。
//次は千葉副都心です。お出口は右側です。私鉄各線はお乗り換えです。//
無機質な自動放送だけが誰も乗っていない列車の中で響いていた。私はただ一人窓の外の景色を眺めているだけだった。
夕暮れのラッシュの時間だというのに人がいないこの状況は、小説やアニメでいう「終末」を迎えた世界とは似て違うものなのかもしれない。 別に人がいないだけで潤滑に回っている今の世界では、崩壊したり人が生きていけないような状況ではないからだ。ただ、水が蒸発するかのように消えただけなのだから。
<そう。今私以外の人間はいないはずだ>
***
「ねぇ凪葉?」
「何?」
教室での光景。放課後になり帰り支度をしているところにクラスのヒエラルキー上位の女子湯川愛華が話しかけてきた。いつも以上に高圧で威圧感のある様相に私はいやな予感しかしていなかった。
「この後、図書室に来て?絶対よ」
そういうと、自分の席へ戻ってそそくさと教室を出ていった。なんなんだ?そう思いつつも言われたとおりに私は図書室へ向かった。
この学校の図書室は5階建てのこの学校の最上階にあるというだけあって長い階段を上っていくことになる。ましてや初夏である今日、上に上がれば上がるほど温度が上がっていき汗ばんでゆく。だが、図書室に入るとオアシスと言うべく冷房が効いていた。
「湯川さん?」
中に入ってドアを閉めると図書室の奥の方から一瞬の悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたの?」
声のする方へ恐る恐る近づくと、赤い液体が床に流れていた。滑っとしているその液体の向こうには湯川が倒れていた。そして、その向かいには日本人離れした顔立ちのきれいな女性が立っていた。彼女は湯川を嬉しそうに眺めていたが、私に気付くとそのままの表情で私を見た。
「おっ?君が被検体か?」
冷めたその声色に恐怖を感じて急いで図書室の出口へ走っていこうとした時、右肩に トンッ と何かが置かれた。見るとそれは冷え切った腕...湯川の腕だった。
「...いやだ... いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ」
肩に乗っている腕を払い落として再度逃げようとすると足をつかまれた。転倒する私にゆっくりと近づくその女は笑みを浮かべてこう言った。
「私からにげるなんてつまらないじゃないか。それに この私が対象を逃がすとでも思うのか?」
おそらく湯川だと思う腕が私の足を異常な強さでつかんでいる。痛さに苦しみだしている私にその女は図書室の棚を傾けて私めがけて倒してきた。ギシッという音が刹那。 あと、無音の後に私に直撃した。
直撃
した。
いたい?
痛い?
わからない。
痛くない?
あれ?
冷たい。
暖かい?
やはり。
つめたい。
***
//...今日の関東地方 東京では大雨が降り 千葉では時々雨の曇り空でしょう 続いて今日の株価ですが//
目が覚めると、駅のベンチに座り込んでいた。見た感じ夕方だ。
見覚えがあるような気がしてあたりを見回すと駅名票には「千葉副都心」と書かれていた。家の最寄りであるこの駅だが、ここに至るまでの記憶がない。そして何よりも感じる違和感。
「あれ? なんで私しかいないの?」
そう。私以外の誰もいないのだ。それなのに電車はひっきりなしに来るし接近放送も流れている。人だけがいないのだ。
「売店のおばさんもいないし駅員も車掌もいない。なによ...」
理解ができないとはこういうことなのか...と思っているがやはり何も起こらないでいる。