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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【それでもぼくは君のために】

作者: 泥棒猫


僕は彼女とデートをしていた。

別に何てことは、ないのだけれど、平凡っていいな。

歩道橋の上で手を繋いで渡りまたいつもの所で「またね」ってする。

何処にでもあるそんな溢れた日常だ。


家に帰り、突然携帯が鳴り出した。

僕は、単調に話す。

「もしもし」

電話越しの男は、どこか悲しそうにしゃべりだした。

「やぁ、あんなことがあってから残念だが君の事は息子と同等だと思っている」

「えっなんのことですか?」


「何って......娘の......」


「娘さんまだ帰らないんですか?」


それまでの穏やかな口調とは、180度変わりかなり強い口調で叱咤された。


「もう娘は、5年も前に君と会ったあの日に亡くなったじゃないか!」

衝撃的だった、頑固な親父さんは、今まで嘘を付いたことがないのが自慢だって聞かされていたから。

「いやでも、いまさっき確かに娘さんと......」

僕は、自分を信じ伝えようとした。

だがそれに重なるように怒号が電話越しに響いていた。

「何を馬鹿なことを言っているんだ。いい加減君も前を見たまえ!!」

ぼくは、突然の激昂げきこうに開いた口が塞がらなかった。

数秒の沈黙が訪れ、電話越しの鳩時計だけが正確に時を報せる。

父親は、冷静さを取り戻したのか先程とは打って変わって、穏やかな口調......いや、それは、僕への哀れみだろうか。

「私たちもずいぶんと苦労したよ。それこそ、今の君のようにね......」

「いやっ、だから......」と弁解をしようとしたが、「もう娘のことを忘れてくれ」と吐き捨てられ「ツーツーツー」という音だけが耳に残っていた。

嫌な予感がし、走り出した。

何故だかわからないけど、「あそこ」にいる気がしたから。

そこには、いつもの彼女が立っていたんだ。

体は、濡れているが触れた手には、確かに体温があり吐息さえ感じられる。

タオルで体を拭き、もう一方の傘を持たせる。

帰路につく途中、本当に他愛もない会話の連続だった。

これが僕が望むしあわせ......そして彼女のしあわ......

訳もわからず倒れ込み顔が地面へと当たる。

目線の先には、僕を刺して逃げた犯人が、雨に紛れ見失ってしまった。


彼女は、降りしきる雨など微塵も感じず、膝から崩れ落ち、その綺麗な顔は、涙と共にくしゃくしゃになっていた。

濡れた地面を伝い流れ出る血は、ゆっくりと分岐された運命の様に何処かへ流れてゆく。


薄れゆく意識の中、雨と混じった涙が僕と彼女を繋いでゆくんだ。


もう、その「温もり」も「優しさ」も感じることが僕には、もう出来ない。

笑顔が似合う「君」を僕は「大好き」で「愛しくて」これから先の「表情」や「未来」を「君と僕」で迎えられないのは本当に残念だ。


投げ出された傘は、僕の死を安易に伝えるかのように彼女の手を離れ、荒れゆく川の激流へ呑まれていった。

でも僕は、「満足」だった。



雨に濡れ啜り泣く「君」は、少しだけ笑っている気がしたから......



【ほら、君は笑顔が何より素敵だ......】

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― 新着の感想 ―
[良い点] がっつり囚われている感。彼女に囚われているというより、主人公がある意味自ら望んで囚われているような。そして、滲む後悔に引き摺られてーー [気になる点] あとを引かれて、とうとう主人公は死ぬ…
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