鈴木 俊哉
「庭野のどこが好きなの?やっぱり顔か?」
「…………」
千春は考えるためか少しの間 黙りこんだ。
「皆がカッコいいって噂しててどんな人か気になって顔を見に行ったら……一目惚れだった」
一目惚れ……俺はまだそんな体験をしたことがない。俺の場合は最初は友だちから入って一緒に遊んだりしているうちに徐々に徐々にだったから一目惚れではない。
「一目惚れ?でもそれってどうなんだろう?」
「買い物でいったら衝動買いみたいなものだろ?衝動買いって買ったすぐの高揚感は凄いけどのちのち考えると冷めるからね」
心の中でその言葉が浮かび、口に出そうか悩んだがやめた。口に出したところでどう思ってもらえるかは分からないし、妬みっぽく聞こえるのもカッコ悪いから。
「顔かぁ……やっぱりな……」
変わりにしょうもない言葉を小さな声で呟いて下を向いた。この顔はどうしようもない。整形でもすれば別だけど俺にはそんなお金はない。
「ええっ……ダメなの?」
「別に。ダメではないけど……」
「ただ、羨ましいなって思って。あんなにカッコよく生まれてさ……悩みとかあるのかな」
顔か、ずっと人間味で勝負してきたつもりだった。自分の顔には自信がないから。ブサイクではないとは思うけどあくまで俺はフツメンだから顔で勝負はできないと思ってる。
「不公平だよな、努力すればどうにかなるっていう、スポーツも勉強もルックスも努力が必要っていうけどさ、限界はあるよな」
俺は努力って言葉がピーマンって言葉の次に嫌いだ。努力にも限界はある。俺がどんなに努力したところで俺が国民的美少女になれることは700%ないのだから。
「努力っていっても生まれ持ったものがあるじゃんか、才能っていうやつ……」
「初期能力が30のやつと初期能力が200のやつが同じときに生まれたとしよう、30のやつはどれだけ努力すれば200のやつに追い付けるんだ?」
「200のやつも同じように努力したらその差を埋めることはできないだろ……むしろ初期能力が高いやつは性能がすぐに上がりやすいと思う、そういうやつは器用だろうしな」
今 活躍しているようなスポーツ選手や有名大学卒の人たち全員を批判するつもりはない。その人たちもたくさんの努力はしてきたに違いないから。でもそんなことでも言ってないと自分を保てない気がする。
「それでも努力をさせるのか?無理だろう、悲しくなるだけだ。人の3倍頑張ったところで初期能力の差が開きすぎているやつには敵わない」
今 俺の目の前に俺の初期能力を決めたであろう神様ってやつが現れたら容赦なくその頬を殴るだろう。グーパンチでおもいっきり。
「千春、何してんの?帰るぞ~」
屋上に千春の友だちである坂本が、千春を誘いに来た。千春の友だちだからあまり悪くは言いたくないが、俺は彼女のことが好きではない。
彼女の自信に道溢れた言動が苦手だ。実際彼女はそう行動できるだけの美しい容姿をしている。彼女のことが好きな同級生の男を俺は何人も知っている。そう……嫌いな理由が嫉妬という醜いものではあるが。
「補習はさ、少し前に終わってたんだけど少し用があってさ」
補習……?
そうか、彼女は頭はよくないのか。良かった。
彼女が数学の補習を受けていることを知ってホッとした。神様は彼女1人を特別扱いしなかったようだ。
俺は、それでも神様に特別扱いをしてもらった男を知っている。容姿がいいというのに勉強も運動もそれなりにできる。女子から絶大な人気を得ている。何もかも神様からいただいた贅沢人間。
俺の皿の上にはさばの味噌煮とおしんこしか乗っていないのに、そいつの皿の上にはキャビアにシャトーブリアンにフォアグラ、伊勢エビ、ハンバーグが乗っている。
「あ、鈴木……いたんだ」
「邪魔したな ごめん」
坂本は俺の存在に気づくと左手を挙げた。俺は彼女に手を挙げられて挨拶をされるような関係性ではない。彼女の話は千春からたまに聞くが、直接話したことはほぼない。彼女はそんなことも気にをせず、誰にでもそんな対応を出来るのだろう。
「いいや別に大丈夫だよ。たわいもない話だったから じゃあ お疲れさま 気を付けて」
もう少し話したいことはあったが、ここで千春とは分かれることにした。坂本と千春と3人で屋上にいても気まずいしな。千春の方を見ようと思うのになんか恥ずかしくなって坂本の方ばかり見てしまう。改めてじっくり見ると坂本は女優のような整った容姿をしているが、総合的な可愛さでは千春には敵わない。
「じゃあね俊哉 また明日」
「お疲れ 鈴木」
大きく手を振る千春が可愛すぎた。
坂本と女同士2人で話して千春が少しでも元気になってくれればいいな。