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青木 千春

「庭野のどこが好きなの?やっぱり顔か?」

俊哉にそう尋ねられて考える。私って庭野君のどこが好きなんだっけ……


「…………」

好きになるきっかけ……となった具体的なエピソード。いわゆる 無くしたと思っていた消しゴムを見つけて笑顔で届けてくれたとか、大変な作業を手伝ってくれたとかそういうのは私には一切ない。


「皆がカッコいいって噂しててどんな人か気になって顔を見に行ったら……一目惚れだった」

少し長めの文章で語ってみたが、結局のところ

顔……である。


「顔かぁ……やっぱりな……」

俊哉は小さな声でそう言うと、下を向く。


「ええっ……ダメなの?」


「別に。ダメではないけど……」

「ただ、羨ましいなって思って。あんなにカッコよく生まれてさ……悩みとかあるのかな」

俊哉の顔をイケメンだとかブサイクだとか判断したことがない。兄弟の顔をそういう風に判断することがないのと同じようなものかもしれない。


「不公平だよな、努力すればどうにかなるっていう、スポーツも勉強もルックスも努力が必要っていうけどさ、限界はあるよな」

俊哉が語りだしたのは深そうな話をしてくる。俊哉の顔は切ない。自分の才能の無さに呆れた科学者とでもいおうかそんな顔をしている。完璧な庭野君と自分を比べて落ち込んだのだろうか。庭野君と比べるのは無理がありすぎる。俊哉が悪いわけではない。


例えるなら少年野球の試合に突如現れた助っ人のメジャーリーガー、野球少年がメジャーリーガーのプレイを見て落胆する……これと同じ事を俊哉はやっているようなもんだからだ。


「努力っていっても生まれ持ったものがあるじゃんか、才能っていうやつ……」

「初期能力が30のやつと初期能力が200のやつが同じときに生まれたとしよう、30のやつはどれだけ努力すれば200のやつに追い付けるんだ?」

「200のやつも同じように努力したらその差を埋めることはできないだろ……むしろ初期能力が高いやつは性能がすぐに上がりやすいと思う、そういうやつは器用だろうしな」


「それでも努力をさせるのか?無理だろう、悲しくなるだけだ。人の3倍頑張ったところで初期能力の差が開きすぎているやつには敵わない」


俊哉の話していることは何となく理解できた。私もそのようなことを考えたことはある。考えてみてはすぐに諦めた。可愛くなるために髪型や仕草の勉強をしたところで、元から可愛い麻由美のナチュラルにさえ勝てる気がしない。頑張る気になれない。誰も私に振り向いてくれないのならこんなことやる意味はないと思った。


「努力って報われないこともある。しないよりかした方がいいっていうことは知っているけど」


「そうだね」

私も胸を張って努力をしているとは言えないけれど努力って言葉はあんまり好きじゃない。


「千春、何してんの?帰るぞ~」

俊哉と話をしている途中だったけど、屋上に麻由美が私を呼びに来た。数学の補習が終わったんだろう。麻由美は美人だけど頭はよくない。特に数学と英語が苦手なようだ。麻由美の場合は多少頭が悪くても心配ないだろう。可愛いし……


可愛いければ勉強をしなくとも社会を生き抜く方法はいくつかあるだろう。容姿だけで採用を決める会社もあると先輩が噂しているのを聞いたことがある。


「補習はさ、少し前に終わってたんだけど少し用があってさ」



「あ、鈴木……いたんだ」

「邪魔したな ごめん」

麻由美は俊哉の存在に気づくと左手を挙げた。

麻由美は私と俊哉の話の邪魔をしたことを気にしたのか申し訳なさそうにしている。


「いいや別に大丈夫だよ。たわいもない話だったから じゃあ お疲れさま 気を付けて」

俊哉は私たちを見送る。俊哉は麻由美の方ばかり見ている。やっぱり俊哉は麻由美のことが好きなのかな?だとしたら邪魔だったとは俊哉じゃなくて私なんじゃ。


「じゃあね俊哉 また明日」

「お疲れ 鈴木」

私と麻由美は2人で帰ることに。

私も麻由美も帰宅部だから一緒に帰ることが多いけどそこまで仲良しというような関係性ではない



「聞いてくれよ千春~ 先週別れた彼氏なんだけど、やっぱりやり直したいって連絡がきてさ~」

麻由美は先週まで他校の生徒と付き合っていた。高スペックな彼氏だったらしいけどちょっとしたすれ違いで別れることになったらしい。


「悪いのはむこうだからな。私との約束をドタキャンしておきながら友だちとカラオケに行ってたんだからさ。一応 男5人だけだったらしいけど」

麻由美は自分の話をするのが好きな子で逆に他人の話にはあまり興味がない。


「少し問い詰めただけで別れるって泣きながら言ってきたから別れたのにさ今更だよ今更~」

「千春はどう思うさ?普通はやり直さないよな?」


「2人でもう一度ゆっくり話し合ってみたら?」

「やり直すっていう選択もあるんじゃない?」

そう言おうと思ったけど、俊哉の顔がふと 思い浮かんでやめた。


「俊哉は多分、麻由美のことが好きだ。これは俊哉にとってチャンスかもしれない 俊哉が麻由美と付き合えるかもしれない」

「このまま別れてもらったままの方がいい」

麻由美の元彼とは知り合いじゃないし、私は俊哉の味方をする。


「そうだね、麻由美の言うとおり やり直すって考えは私にも無理かな」

「麻由美は悪くないんだし、新しい人を見つけた方がいいと思うよ」

私は、嘘をついた。これでいいんだ。私は別に悪いことはしていない。私が本当だといえばこの嘘は本当になるし。


「さっすが千春……」

「千春ならそう言ってくれっと思ってた~千春に話してよかったわ~」


「う、うん……」

麻由美も喜んでくれたみたいだし よかった。

私の判断は間違っていなかった。


「サヨウナラって文章で送っとく~」

「口頭で伝えてもどーせ 喧嘩になるだけだろうしさ。こういうときは文章の方がいいな」

完全に元彼のことは忘れたのか、麻由美の目には涙はおろか悲しそうな表情すら一切ない。むしろ清々しいほどの笑顔だ。


「麻由美ならすぐ、新しい彼氏見つかるんじゃない?麻由美かわいいし」


「そ~か?まあ、次は同じ学校で同じ学年がいいな~他校は色々と面倒だ。監視できんし」

やった~ 麻由美の出した条件に、俊哉は当てはまっている。


「条件 当てはまるの、大事!」

30代男性求むといわれているアルバイトに私が参加することはできない。それは条件が当てはまっていないから。


「あ、あの角を曲がったところに新しいクレープ屋さんができてるらしいから寄ってく?」

女子高生の楽しみの1つといえば、学校帰りの寄り道。その日の気分で洋服屋さんにいったり、アイスクリームを食べたり、ファミレスで時間潰したり。


「あ、うん そうだね」

楽しいけれども結構きつい部分もある。女子高生の中でも親の仕事や月々の小遣いによって所持金に差が出る。麻由美がオセロットだとしたら私はピグミーマーモセットくらいか。だから、麻由美の買うクレープと私の買うクレープは重みが違う。


「麻由美は何でも持っているなぁ~」

麻由美は頭の悪さを引き換えに神様に整った容姿と裕福さをもらったんだ。ずるい…


私なんて飛び抜けた才能や武器になるような特技もなければ麻由美のような整った容姿でもない。声だけでも可愛ければもう少し違ったんだろうけど。



「天は二物を与えない」


イケメン科学者として一躍有名人となった男性研究者は、大嘘つきもののレッテルを貼られ世間から大バッシングを受けた。


人魚姫のアダ名で有名になった美人水泳選手は、世界選手権で金メダルを取った次の日に交通事故にあって24歳の若さで亡くなった。


頭もよくてカッコいい、可愛いのに水泳の才能もある。恵みを与えすぎた神様は容赦なくその人たちを処罰する。


「麻由美……あなたもいずれ処罰されるのかな?」

麻由美は天から二物もらっているよ。


平凡な人生だけど、80年生きることができるのと、何でも自分の思い描いたような人生を送ることができるが23歳を迎える前に死んでしまう。どちらの人生を選びますかと言われたら私は迷わず後者を選ぶ。今 私は17歳だからあと6年しか生きられないことになるけど……


「生きた年数と幸せは比例しない」

誰の名言かは知らないけど共感は持てた。

長く生きる分だけ楽しいことを経験できる可能性があるが増えるかもしれないが、辛い経験をする可能性も増える。

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