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小野 翔三朗

極度の人見知り。黒ぶち眼鏡をかけていて髪の毛はマッシュルームヘアー、おしゃれに興味はなく、Tシャツはズボンの中に入れてそのズボンは腰の上で履く。アニメが大好きでアニメのことなら誰にも負けるつもりはない。人見知りのくせに好きなことの話なるとつい饒舌になってしまう。


小野 翔三朗 17歳

僕のような人間のことを一般的に オタクと呼ぶ。

オタクと聞いただけで距離を置く女子は多い。その事に関しては僕は仕方がないことだと思う。気持ち悪いと感じるか感じないかは人それぞれだし。


僕はこの高校が好きだ。

てっちゃんとまっつんっていうオタク仲間も出来たし、昔みたいにオタクである僕のことをいじめるようなやつは一人もいない。相手にすらされないが。


高校生にもなるとみんなそれぞれ忙しいらしく

僕らのようなオタクをいじめてるような暇はないようだ。みんな 青春 というものを謳歌しているのか。羨ましいとは別に思わない。そんなことをするよりも僕はアニメを見ている方が幸せだ。



「フレッシュ 桃美は、名作だよぉ~~」

中学2年生から僕は特に ''フレッシュ桃美'' というアニメが大好きだ。学級委員長の桃美が、学校の風紀をよくするために奮闘する物語である。左手で桃のペンダントを握ることでフレッシュ戦隊 桃美というヒーローに変身することができる。


このアニメが好きだということが原因で中学生の頃はいじめられた。


「モモミって鶏肉かよ?」

「気持ち悪りぃんだよぉ小野 消えろ」

「フレッシュ小野 コーラ買ってきてよ」

馬鹿なのはお前たちだ。あの名作を見ないで大人になる方なんて僕には考えられない。今に見てろ、フレッシュ桃美の遠藤監督は5年以内に超がつくほどの有名人になっていることだろう。


「桃美も頑張るから、君も頑張ってね」

桃美の声が一番の励みになる。

彼女なんかいらない……僕には桃美がいれば十分だ!生身の人間なんていらない。生身の人間は、ほらぁ 劣化するでしょ?すぐにシミはできるわ、体型もまともに維持できないし。


「僕は、生身の人間に恋することはない」

そう思っていたのに、あの人が僕に恋というものをがこんなにも素敵なことだと教えてくれた。



青木 千春さん

色白で大きな目 笑うとえくぼが出来る。小柄なのに胸も大きい。最近ロングヘアーをバッサリ切ってショートカットになった。完璧な見た目の彼女ではあるが僕は、彼女の優しさに惚れた。


彼女に僕が恋をしたエピソードがある。

アニメになるような破天荒なものではないけれど。


「終わった……人生の終わりだ……」

移動教室の授業が終わり、教室に戻り 次の授業の準備をしていたとき人生最大の過ちを犯していたことに気付く。人生が終わった。死神に寿命を取られる覚悟までしていた。


「大切なものを無くしてしまった」

中学生の頃から大切に使っているフレッシュ桃美の特製定規の実用用を無くしてしまった。僕が毎日授業を頑張ってこれたのも桃美のお陰。桃美がいないなんて授業を頑張れそうにない。家に保存用の未開封のものがあるが、それを新たに実用用に回すわけにはいかない。


大切に飼っていた猫が亡くなってしまったとき、人は簡単には立ち直れないと思う。今まで一緒に生活していた時のことを思い出しては、自然に涙がこぼれ落ちる。猫を飼ったことのない僕にはどのような思い出があるのか検討もつかないが。猫が亡くなった。それと同じ思いが僕にもある。 桃美が無くなった。


授業が終わり、昼休みに入ると同時に僕は移動教室の行われていた場所に行って探した。机の上、床、隅々をくまなく探したが、落書きされた紙くずや消しゴムのカスは落ちているのに桃美の姿はなかった。


「どうした、探し物か?」

「やっといたでござるよ、どこで雲隠れしていると思えばこんなところに」

昼休憩の時間になって15分が経っていたようで、長糞にしては長すぎると思ったてっちゃんとまっつんが様子を見に来てくれた。


「大丈夫、桃美が翔三郎殿のことを見捨てるわけがないだろう。一時的に旅にでてるだけでござるよ すぐに帰ってくるさ」


「悲しい気持ちは同じオタクとして分かるけど諦めた方がいいよ 無くしたものは簡単には見つからないよ」


親友のてっちゃんとまっつんにわけを話すと、2人は対照的な方法で僕を励ました。てっちゃんに飴を貰い、まっつんにムチを打たれることでどうにかご飯を食べられるくらいには回復することが出来た。2人は、アニメ「トンキーズ」の回復戦士モロダ くらいの回復能力があるのではないだろうか。


3日……桃美がいなくなってから3日が経った昼休みに突然 女子に声を掛けられた。女子に声を掛けられたのは高校に入って何ヵ月ぶりだろう。隣の席の大島さんに、日本史のテスト範囲を聞かれた時以来のこと。


「小野君 だよね?」

声を描けてくれた女子の名前は青木 千春さん。

彼女と接点はない、話したこともないけれど名前は覚えていた。僕は人の名前を覚えるのは得意な方だと思う。複雑な名前が出てくるアニメやゲームのキャラクターに比べたら人の名前は簡単である。


「あ、は、はい」

ただでさえ人見知りの僕、相手が女子とあってはなおさら緊張してしまう。体のあらゆるところから汗が出て脱水症状になりそうなくらいだ。


しどろもどろで小さな声で返した僕の言葉を聞き返すことなく青木さんは、尋ねてきた。


「これ、君のじゃない?」

青木さんが左手に持っていたのは桃美。

少し汚れてはいたものの間違いなく桃美であることが確認できた。


「そ、あ、そうです。え、どどこに?」

僕の馬鹿馬鹿馬鹿……

どうしてまともに受け答えが出来ないんだよ。

これが就職面接だったら即、落とされているよ。

普段は強がっているけれど実際の僕はこんなものだ。まともに話すこともできない弱虫だ。


「廊下を掃除していたときに落ちてたから拾ったんだけど、誰のか分からなくて」

「3組の廊下だったから、遥香に聞いてみたんだ 誰のか知らないって?そしたら小野君じゃないかって言ってたから聞いてみたの」


て、天使だ…………

女子の顔を面と向かってじっくり見たことがなかったからか、青木さんの可愛らしい優しい顔立ちが僕には天使に見えた。


「あ、ありがとうご、ございます」

定規を受け取ったときにはもう僕は青木さんのトリコになっていた。青木さん以外の女子はモノクロに見え、青木さんだけが彩色されて見えた。


「よかった、持ち主が見つかってこの子も喜んでいるね 可愛いねこの子」

定規に書かれた桃美を指差して青木さんが言った。桃美……いつの間にか桃美のことを定規と呼んでいる自分がいたことにふと気付かされた。


「あ、ありがとうございます」


「それだけだから、じゃあね」

青木さんが僕のもとから去っていくのを黙ってみていた。去り際の手を振る仕草が可愛らしかった。僕のような女子耐性のない人間は簡単な仕草だけで胸がドキドキしてしまう。


こんな僕のことを馬鹿にせずに接してくれた。なんて優しい人なんだ青木さん。他の女子だったら定規を届けてくれるどころか気持ち悪がって拾ってもくれなかっただろう。



小野 翔三朗、 17年間生きていたなかで初めての生身の異性の人間のことを好きになった。

小野 翔三郎 17年目にしてこれが初恋である。

「翔三郎殿、それはよかったでござるな。やはり桃美は見捨ててなかったですな。一時的とはいえ、他の者の手に触れられてしまったの可能性があらば綺麗にしてあげなければならぬな桃美を」


「え、見つかった?どこにあったんだ?」

「案外簡単に見つかったんだな、よかった」

定規が見つかったことを話すと2人は自分のことのように喜んでくれた。


「ありがとう、これからはもっと大切にする」

定規は一生大切にする。あの定規は青木さんが触れてくれたものだから。僅かでもあの定規に青木さんの匂いが汗がついているかもしれない。


「僕は、青木さんのことが好きだ」

親友のてっちゃんとまっつんにさえも恋をしたことを打ち明けることが出来なかった。僕は、そんな勇気を持ち合わせていない。でも苦しい、この気持ちを自分1人で抱え込むのは、フルマラソン完走後と同じくらいの負担が心臓にきていると思う。胸の高鳴りが止まらない。2人に聞かれているのではと心配になるくらい僕の心は激しく踊っている。


告白……

好きな人に思いを伝えることによって次のステップに進むことが出来る可能性があるが、これを行うには大変な勇気がいる。告白ができる勇気があれば全裸で校舎を走り回ることができると思う。


「残念ながら僕にそんな勇気はない」

勇気のない僕は、可愛い青木さんを、指を加えてただ、眺めていることしかできない。


毎日就寝前に存在するか分からない恋愛の神様にこうお願いする。

「明日は、青木さんが僕に告白をしてくれますように」

1日たりとも欠かしたことないのに、20日以上お願いしているのに僕の願いを聞いてくれる様子はいっこうにない。


アニメ 『4人の武士』の登場人物である信繁もこう言っていた。

「動じることだけが戦略ではない。待つことも1つの手であることを覚えておけ」

相手が告白してくれるのを待つという僕の行動も1つの利口的な戦略なのかもしれない。

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