庭野 正
「今までどれだけの女を泣かせてきたのだろう」
告白は数えきれないほどされた。告白してきた相手を笑顔にしたことは1度もない。告白は常に断ってきたから。
告白をしてきた子の中には女優のような綺麗な子や茶髪でショートカットのタヌキ顔の顔だけでいえば俺のタイプの子もいた、基本的に俺に告白してくる子は可愛いとか綺麗な子ばかりだったが、どの子とも付き合う気にはなれなかった。
「他人のことが信用できない、裏切られるのが怖いから先に裏切るようにしている」
ある出来事がきっかけでこのような人格が
形成された。庭野 正 17歳
俺はいい人なんかじゃない。いい人のふりはしているが。自分でいってるんだから間違いない。
『この世は舞台、人はみな役者だ』
シェイクスピアの名言の中で俺が一番共感するものである。分かっている、誰もが嫌われないようにいい人を演じていることを。本当は嫌いなものをその場の空気に合わせるために好きっていってみたり、嫌なことを言われても傷付いても笑ってみたり。
俺は生まれながらのモテ男ではなかった。
小学生、中学生の頃は男友だちは多かった方だが、女友だちと呼べるような子は1人もいなかった。
俺自身に興味がなかったということもあるが、女子から告白されることなんて1度もなかったし、俺のことが好きな女子がいるって噂を聞いたこともなかった。
高校に入っても特に変わることはないと思っていた、俺も俺の周りの友だちも。
「庭野、3年の先輩がお前のことを呼んでるって」
そういって放課後に1人 美術室に行くと、美術部の部長である先輩から告白された。高校1年生の春の出来事だった。
「ごめんなさい……」
初めての告白に、戸惑い、心の整理が出来なかった俺はその告白を断った。今思えばこの時の選択が間違っていたのか。
この美術部の部長は、この高校で相当な人気者だったらしく、その部長が告白するような男だからとんでもない美形なんだろう。噂が噂を呼び、
「庭野はイケメン」「モテ男」というキャラクター像が作られてしまった。モテ男なんてやったことないのに。演じ方が分からない。
「かっこいい 庭野く~ん」
それを気に俺は次々に異性から人気の的になった。異性から好かれるようにはなったが、同姓からは嫌われるようになっていった。
俺の周りにいる男たちは皆 陰で俺の悪口をいっていることだろう。俺の周りにいることは自分がカーストの上であることをアピールするためだけで本当に友だちだとは思っていないだろう。
「俺の好きな山瀬さんのことを泣かせやがってよ~~お前なんか友達やないわ!」
小学校からずっと仲が良かった涼ちゃんも俺の元から離れていった。
仲良くなるのに結構な時間がかかったのに、離れていくのは一瞬。弁明の余地もなかった。
小学3年生の時に結んだ「涼ちゃん正ちゃん同盟」
はこんなにも簡単に決裂出来るものだったのか。
涼ちゃんは俺が生まれて初めて出来た友だちだったのに、一番の親友と呼べるのは涼ちゃんだと思っていたのに。そんな風に思っていたのは俺だけだったのか。
「じゃあ、どうすればよかったのか?」
俺は悪いことをした自覚はない。
涼ちゃんが思いを寄せていた女子の告白を断った。親友の好きな人と付き合うことはできないと、これでも涼ちゃんに気を使ったつもりなのだが。付き合ったら付き合ったでどうせ文句は言われてただろうけど。
「涼ちゃんを返してくれ女にはモテなくていいから、大好きな俺の親友の涼ちゃんを返してくれ」
家の中で何度この言葉を叫んだことか。誰にお願いしていいのかも分からず、誰に相談したらいいのかも分からずにただ、ただ、俺はひとり。
「庭野くん、好きです」
「私と付き合ってください」
「ごめん、君とは付き合えない……」
告白を断ると女子は決まって理由を尋ねてくる。
「どうして?好きな人がいるの?」
好きな人がいなければ断ってはいけないのか?
「君とは付き合えない それが理由だから」
「その他に理由はない」
適当に好きな人がいると答えればよかったのだろうか、そうしたらそうしたらで別の問題が発生することだろう。庭野の好きな人は誰かって……学校中で噂になる。
「俺は、人を信じることができないんだ、裏切られるのが怖いから最初から期待しないようにしている
君も俺と付き合ってもどうせ浮気するんだろ」
俺が断っている理由を伝えても誰も理解してくれないだろう。
彼女の方が浮気しなかったら俺の方が先に浮気
するだろうな。やられるくらいならこっちから先にやってやる。俺はそういう人間だ……