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鈴木 俊哉

「何で俺は人間なんだろう……」

俺は好き好んで人間になったわけではない。

仮に来世に生命として誕生する際に、選択肢としてトナカイ、人間、バッタ、ナメクジの4つがあったとしたらどれを選ぶだろう。そんな小説を読んだことがあるような気がする。タイトルは忘れたが……


「トナカイかバッタか……」

「もう人間は選びたくないな、こんなに辛い思いをするのなら、もう……」

鈴木 俊哉は、16年と半年ほどしか生きていないのにもう人間であることを辞めようとしている。


「強いオスがモてる」

「魅力的なダンスをしたものがモてる」

「大きな体をしているものがモてる」

他の動物のようにモてるオスの明白な条件が人間にもあったら、俺もこんなに悩まずに済んだのだろうか。


「中学生の時からずっと好きな女子にアプローチをしているというのに、いっこうに振り向いてくれない」

面白い男、優しい男、頼りになる男

自分のやれることはやったつもりなのにどうして

振り向いてもらえないのか?


何をどう頑張ればいいのか教えて欲しい。教えてもらえれば、それを努力する。世の男たちの誰よりも努力する。それであいつに心からの好きって言ってもらえるのなら。



「青春の~~馬鹿野郎~~」

好きな女子が屋上で1人 叫んでいる。彼女が何で叫んでいるのかは大体想像がつく。

俺と彼女は幼馴染みであり、俺の最初にできた友だちだから……


「目玉焼きは黄身固めが好き、ソースをかけて食べる、付け合わせの野菜がピーマンだと きまっていじける」

「普段は右利きなのに、箸と鉛筆を持つときは左、左手の薬指に小さなほくろがある」

「じゃんけんは、1回目は必ずグーを出す、彼女とのじゃんけんは100%勝てる。いつもわざと負けてあげているけど」

彼女の親しい友だちでも知らない情報がこの中にあるだろう。この情報はほんの一部でもっともっとたくさんのことを知っている。それが幼馴染みだ。


「千春……」

昔は何ともなく普通に言えていたのに、彼女のことを女性として好きになってからは本人の前では名前を呼べてない。名前を呼ぼうとするだけで心臓が弾け飛びそうで苦しい。うまく説明はできないけれど。


「青春の~~馬鹿野郎~~」

千春がもう1度同じことを叫んだタイミングで

俺は屋上に上がった。


「おい、何やってんだよ」

「どうした?ダイエットにでも失敗したか~?」

千春が叫んでいる理由を俺は何となく知っていたがあえて千春が言い返してくれそうなことを言った。他に気の利いたことは思い付かなかったからこれが精一杯。


「違う、ダイエットなんかしてないし」

「私は標準体重だから……痩せる必要ないし」

狙い通り千春は返してくれた。千春の言うとおり

彼女は全然太っていない。


「知ってる……千春は充分かわいい。今のままでいい そのままの千春が好きだ」

そんなことを心の中では思っているのに不思議だ。言葉にするとうまく伝えられない、うまく伝わらない。


「そうだな。今のままで充分…………」

俺は恥ずかしくなって上手く言えずに文末を濁したような話し方になった。これでも好きという感情を押し殺し、平常心で話している方だ。


「庭野だろ?」


「えっ?」


「庭野が宮城と付き合ってなったから、こんなところで大声を出していたんだろ?」

「知ってたよ、お前が庭野のこと好きだってこと」


庭野 正

『イケメン』という言葉を彼を表現するのに使わないのは不可能に近い。男の俺から見ても整った顔だと思う。おまけに身長もそこそこあってそれなりに運動もできる。女子が彼を見てキャーキャーいう理由がわかる。俺もあんな顔に生まれていたらもう少し積極的になれたのかな。


「まあ そうだけど……」

千春が認める。知っていたけど、彼女の口からその言葉を聞いてしまうと余計に悲しくなる。今までは俺自身の想像であったが、彼女の口から聞いてしまってはそれが、事実だということになるから。


「庭野のことしょっちゅう見てたらそうじゃないかと思って」

「面と向かっては聞けなかったけど」

俺は千春のことをしょっちゅう見ていたから分かることである。千春の目線はいつも庭野の方を向いていた。


「だって、庭野くんカッコいいんだもん」

「椅子に座っていても、サッカーボールを蹴っている姿も弁当のウインナーを口に入れている姿も全部カッコいい」

聞きたくない 聞きたくない 聞きたくない

庭野がカッコいいことは認めるけど、千春の口からは聞きたくない。


「相手が宮城っていうのがな~女子からしたら納得いかないだろうな……俺は男だけど納得いかないもん」

「例えば唐揚げとピーマンの肉詰めが付き合うみたいだもんな……」

宮城 晃、お世辞にも美人とは言えない地味顔で社交的な感じにも見えない。正直 庭野の相手が宮城だと聞いて驚いたのは俺以外にもたくさんいたはず。


「唐揚げとピーマンの肉詰め?その例えは分からないけど」


「唐揚げが庭野でピーマンの肉詰めが宮城ね、顔だけで言ったらね」

「唐揚げは美味しくてもピーマンの肉詰めは美味しくないだろ……」

分かりやすい表現が他に見つからなかったが釣り合わないということを表現したかった。


「唐揚げって好きな食べ物ベスト3に入るだろ?それに比べてピーマンの肉詰めっていったら138位くらいじゃないか?ピーマンの肉詰めの前が八宝菜」

ピーマンの肉詰めも八宝菜も俺は好きではない。晩御飯にこいつらが出てくると少しだけテンションが下がる。


「そうかな……私は八宝菜は、もう少し上だと思うけど」


「分かった、じゃあ八宝菜は30位くらいにするか……」

あれ?千春って、八宝菜好きだったっけ?それは知らなかったな。八宝菜が好きではない……うそうそ八宝菜大好き~俺 八宝菜 食べられる食べられる。


「何それっ、そのランキング適当すぎ……」


「いいんだよ、俺が今 適当に作ったんだから」

「それはいいとして要するに庭野と宮城は釣り合わないだろって言ってるんだよ」


「俊哉、じゃあさ、女子の唐揚げは誰になるの?」

「麻由美とか明日香とか?」


「俺からしたらお前だな……」

「俺のなかで唐揚げは千春だよ……」

そんなキザなセリフは恥ずかしくて言えなかった。言っていればそのままの勢いで付き合えたか、冗談だと思われ笑って流されたか、はたまた気持ち悪がられたか。


「そうだな。一般的な男子の意見で言えば坂本とか山瀬とかになるんじゃないか」

安全策として、他の男子が好きだといっていた女子の名前を挙げた。坂本は千春の友達だし悪い気はしないかなと思った。


「俊哉は、麻由美とか明日香のような子供が好きなのかな?」

「可愛いもんね、二人とも」

坂本も山瀬も可愛いとは思うけど、その何百倍も千春の方が可愛い。顔だけじゃないかわいい魅力が千春にはある。


「殺してやろうか庭野を?」

「俺が変わりに殺してやろうか?案外人を殺すのって難しくないと思う。直接手を下さなくてもいいしな」

人を殺すのって案外難しくないと思う。場合によっては凶器となる刃物も必要ないしその人に触れることなく殺すことだってできる。心さえ壊してしまえば簡単に人は死ぬ。


「えっ?やめてよ そんな物騒なこと」

大丈夫 殺さないよ。今にでも殺したい気分だが、庭野が消えたところで千春が俺のことを好きになってくれるとは限らない。千春が人を好きになる度に繰り返していたら俺は何人殺さなければならないだろう。


「でもさ、庭野がいなくなれば苦しまなくて済むんじゃないか?こんなところで大声で叫ぶ必要もなくなるし、胸が苦しくなることもなくなるんじゃない?」


「苦しいよ、悲しいよ」

「庭野君のせいで何度私は苦しんだことか……」

「明日は告白しようって寝る前に決心したはずなのに翌日には安全装置が働いて告白するのをやめる。そして後悔する」

同じだ……俺の安全装置も性能がいいようで、少しでも危ないと思ったらすぐに働く。


「なあ、大声で叫んだら気持ちよかった?」


「う~ん、僅かながら楽になった気がした。叫んだお陰で俊哉も来てくれたし……」


「そっか、そっか じゃあ俺もやろうかな~」

俺は深呼吸を3回もした。


「青春の~~馬鹿野郎~~」

自分が出せる最大限の大きな声で叫んだ。

ゴリラのオスは声の大きいものほどモテるという話を聞いたことがある。大きな声を出したところでこの思いが千春に届くはずはないことは分かっているが。これが男としての見栄か。


「何、演劇部の練習?今度は男?」

「うるさいね あれ誰?何がしたいの?馬鹿野郎はお前だよ!」


「微妙だな……こんなことしてもあんまりスッキリしないな~」

言葉どおり あんまりスッキリしなかった、気持ちよくなかった。俺は男だから知っている。こんなことよりと気持ちのいいことを……


「それは、失恋した私と俊哉ではスッキリ度に差は出るよ、モヤモヤしたことが俊哉になければスッキリも何もないしね」


「はははっ……そうか、スッキリしないんじゃなくて、元からスッキリしてたのか~それはウッカリ……」

俺は大きな声を出して大袈裟に笑った。

好きな人には笑っていてほしい。


千春も笑った。

彼女のそれも嘘笑いかもしれないけど。

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