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青木 千春

「青春の~~馬鹿野郎~~」

少女漫画に出てくるようなこっ恥ずかしい台詞を屋上から大声で叫んだけれども心は晴れるはずもない。天候は清々しいほどの青空。


天候は私の心とはリンクしていない……

当たり前だけど。


「天気が悪くなってきましたね~」

「これはー ひと雨 きそうですね~」

私の心は今にも雨が振りだしそうだった。

傘なんか持ってないからずぶ濡れになりそうだ。


青木 千春 17歳は人生で2度目の失恋をした……

試合に勝った負けたではなく、リングにすら上がることすらしない。立ち見の席でただただ敗れるものたちを黙って見ていた。


「卑怯なやつだよね……」

「それ、性格悪いよ……」

そんなことは分かっている。告白もせずに、

フラれた女子たちを見て心の中で自分じゃなくってよかったと安堵している。そんな性格の悪い自分がいることも知っている。そのくせ自分は何も行動を起こさない。


人の試合を黙ってみている間に、果敢に挑み続けていた挑戦者たちの中から新しいチャンピオンが誕生した。


「庭野君 宮城さんと付き合うらしいよ」

高校生の男女交際はあっという間に広がる。隠し通すことなんて飼っているハムスターに日本語を覚えさせるくらい難しい。

付き合い初めて1週間以内に大半の人物はそのことを知る。3週間もすれば、いわゆるスクールカーストの下層にいる人間たちもどこからかで耳にすることになる。

そういった噂話をどれくらいの早さで知ることができるかで自分が今スクールカーストのどの辺なのかをざっくりと把握することができる。


「宮城さんかぁ……」

宮城さんについて私が知っている情報とすれば

女子テニス部であること、名前が晃 (あきら)っていう男の子っぽい名前ってことくらいで。


「話したことはほとんどない」

「同じクラスになったことないし接点もない」

同級生……千春にとって宮城はそれくらいの存在。街で偶然目にとまっても自分から声をかけることは絶対にない。


「好きでも嫌いでもない人間が、私の大好きな庭野君と付き合うことになった……」

怒る、笑う、喜ぶ、悲しむ、蔑む……

この時の感情はどれが正解なのだろう?模範解答かあるなら今すぐに教えてください。考えても考えても私には分かりません。


「宮城さんと私の差って……?」

整った顔という表現は、宮城より千春の方が当てはまる。宮城は常時眼鏡をかけておかないといけないほど視力は悪い、鼻はつぶれていて、目は笑うと無くなるくらい細め。


「話が面白いとか、気が利くとか?」

「彼女のことは分からないけど庭野くんと釣り合う女子は他にいたはず、麻由美とか明日香とか森原さんとか……」

麻由美は可愛い、女子の私からしても可愛いと思う。庭野くんの相手が麻由美なら許せたのかって問われても、

「Yes……」と即答できる自信はない。


「麻由美は、飽きっぽいところあるから二股とか平気でしそう。可愛いから男の子の方から寄ってくるってこともあるんだろうけど」


『人の悪口ばかり言ってて楽しい?』

『あなたはそれで満足なの?』

分かっている……そんなことしてもなんの解決にもならないことを嫌われるだけだってことも


でもしょうがないじゃない……

女子ってそういう生き物だから。



「青春の~~馬鹿野郎~~」

もう一度同じことを叫んでみる。さっきよりも大声で。何なら宮城さんが練習しているテニスコートに届くくらい。頑張れば届く、屋上からテニスコートはそんなに離れていない。


「うるさいね~~集中力が途切れるは~!」

「何、演劇部の練習?ほんと やめてほしいわ」

宮城さんがこの声に気づいたとしても、これは

あなたに庭野くんを奪われたから私がこうなっているとは思うわけもないだろう。


「おい、何やってんだよ」

「どうした?ダイエットにでも失敗したか~?」

後ろから男の子の声が聞こえる。振り向いて顔を見なくてもこの優しい声で誰がきたか予想はつく。


「違う、ダイエットなんかしてないし」

「私は標準体重だから……痩せる必要ないし」

振り向くと私の予想通り、俊哉がいた。

心配して来てくれたのかな。


俊哉……鈴木 俊哉とは、物心ついた頃からの幼馴染み、私の初めての友だちは、俊哉だった。

小 中、高と同じ学校に通っている。俊哉が私のことをどう思っているのかは分からない。


「腐れ縁?幼馴染み?数いる友だちの中の1人?」

私は今でも俊哉って呼んでいるのに、俊哉の方は

私のことを名前で呼んでくれなくなった。小学生の頃までは、千春って名前で呼んでくれていたのに。


「そうだな。今のままで充分…………」

俊哉は文末を濁した。なんて声をかけてくれようとしたのか。


俊哉が来てくれたことだけで私の癒しになる。

俊哉だって気になる子くらいいるだろうけど、こんな私に構ってくれる。 それは私と俊哉は幼馴染みだからか。


「庭野だろ?」


「えっ?」


「庭野が宮城と付き合うってことになったから、こんなところで大声を出していたんだろ?」

「知ってたよ、お前が庭野のこと好きだってこと」

さすが幼馴染みの俊哉。何も言ってないのに当てられた。私が庭野君のことを好きなことも、その事が原因で私が大声を出していたことも。


「まあ そうだけど……」


「お前が庭野のことをしょっちゅう見てたらそうじゃないかと思ってた」

「面と向かっては聞けなかったけど」


「だって、庭野くんカッコいいんだもん」

「椅子に座っていても、サッカーボールを蹴っている姿も弁当のウインナーを口に入れている姿も全部カッコいい」

あれ?私どうしてこんな恥ずかしいことを平然と暴露しているんだろう。庭野くんをしょっちゅう見ていたっていうのは事実だ。暇になると私の目線は自然と庭野くんのいる方向に向いていた。


「相手が宮城っていうのがな~女子からしたら納得いかないだろうな……俺は男だけど納得いかないもん。例えばさ 唐揚げとピーマンの肉詰めが付き合うみたいだもんな……」


「唐揚げとピーマンの肉詰め?その例えは分からないけど」


「唐揚げが庭野でピーマンの肉詰めが宮城ね、顔だけで言ったらね」

「唐揚げは美味しくてもピーマンの肉詰めは対して美味しくないだろ……」

ピーマンの肉詰めが美味しくないっていうのは俊哉個人の意見な気がする。私は好きでも嫌いでもないし。


俊哉は私が落ち込んでいたり悩んでいるとこうやって私の元にきては下らないことを言って励ましてくれる。ありがとう……私は俊哉には感謝の気持ちしかない。ありがとう 俊哉。


「唐揚げって好きな食べ物ベスト3に入るだろ?それに比べてピーマンの肉詰めっていったら138位くらいじゃないか?ピーマンの肉詰めの前が八宝菜」

137位が八宝菜で138位がピーマンの肉詰めってこのランキングは何調べなの?


「そうかな……私は八宝菜は、もう少し上だと思うけど」


「分かった、じゃあ八宝菜は30位くらいにするか……」


「何それっ、そのランキング適当すぎ……」


「いいんだよ、俺が今 適当に作ったんだから」

「それはいいとして要するに庭野と宮城は釣り合わないだろって言ってるんだよ」

やっぱり あのランキングは俊哉調べだったんだ。


「俊哉、じゃあさ、女子の唐揚げは誰になるの?」

「麻由美とか明日香とか?」

自分の名前は挙がることはないとは思っていたけど気になった。女子が思う可愛いと男子が思う可愛いって若干違うっていうし。女子はパンダもうなぎも可愛いっていうけど男子はそんなことをいうと鼻で笑う。


「そうだな。一般的な男子の意見で言えば坂本とか山瀬とかになるんじゃないか」

坂本は、麻由美のこと 山瀬は、明日香のことを指す。男子の俊哉が思う可愛いと女子の私が思う可愛いに変わりはなかったようだ。


「俊哉は、麻由美とか明日香のような子供が好きなのかな?」

「可愛いもんね、二人とも」

私は幼馴染みの俊哉に恋の相談をされたら全力で協力するし、精一杯 応援するつもりだ。 お節介だと思われるかもしれないけど。


「殺してやろうか庭野を?」

「俺が変わりに殺してやろうか?案外人を殺すのって難しくないと思う。直接手を下さなくてもいいしな」

俊哉の口元が緩んでいるところを見ると、これは冗談なのだろうけど、殺すとかいう単語を聞くと私は笑えなかった。


「えっ?やめてよ そんな物騒なこと」

でも 私なら庭野君じゃなくて宮城さんを殺そうかって聞くと思う。どっちもまともな考えではないことは確かだけど。宮城さんがいなくなれば庭野君は私に振り向いてくれるかもしれないし。


「でもさ、庭野がいなくなれば苦しまなくて済むんじゃないか?こんなところで大声で叫ぶ必要もなくなるし、胸が苦しくなることもなくなるんじゃない?」


「苦しいよ、悲しいよ」

「庭野君のせいで何度私は苦しんだことか……」

「明日は告白しようって寝る前に決心したはずなのに翌日には安全装置が働いて告白するのをやめる。そして後悔する」

当たり前だけど私には彼を殺すという選択はできない。仮に明日 庭野君が死んでこの世からいなくなったとしても私の心は晴れるのか?きっと晴れないだろう。好きな人の体に触れることもできない、顔を見ることもできない、そうなったら私の心は長期的な梅雨に突入するだろう。


「なあ、大声で叫んだら気持ちよかった?」


「う~ん、僅かながら楽になった気がした。叫んだお陰で俊哉も来てくれたし……」


「そっか、そっか じゃあ俺もやろうかな~」

大声を出すための準備なのか、俊哉は深呼吸を3回もした。


「青春の~~馬鹿野郎~~」

俊哉の声は大きかった。私の1.5倍は出ていただろうか……遠くを飛んでいるカラスも驚いてこっちを振り向きそうなくらいの声だった。


「何、演劇部の練習?今度は男?」

「うるさいね あれ誰?何がしたいの?馬鹿野郎はお前だよ!」

私と俊哉の姿を他の人が見たらどう思うのだろう。おかしな男女が何か叫んでいるよ。別にどう思われてようが気にしない。庭野君がこっちを振り向いてくれることはないのだから。


「微妙だな……こんなことしてもあんまりスッキリしないな~」


「それは、失恋した私と俊哉ではスッキリ度に差は出るよ、モヤモヤしたことが俊哉になければスッキリも何もないしね」


「はははっ……そうか、スッキリしないんじゃなくて、元からスッキリしてたのか~それはウッカリ……」

俊哉は大きな声を出して笑った。私は俊哉の笑顔

に何度癒されたことだろうか。やっぱり俊哉は本当に私の大切な友達だ……

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