庭野 正
「おい、何だよ!」
話したことのない男から突然 頬を殴られた。
突然のことでつい 声を荒げてその男を突き飛ばした。いい人を演じることは出来なかったがさいわい誰も見ていない。
「誰だよ お前!」
そう言って倒れている男の顔を見る。彼は涙目になっていた。何でお前が泣いているんだよ。
「ああ、君か……」
彼の顔を見て気づいた。
名前は知らないがいつも教室の隅で3人集まって楽しそうに会話している。その時の笑顔の彼の顔が脳裏によぎる。
俺に持っていないものを彼が持っている気がして、無性に腹が立った。固い結束……友情……
それ、俺にも、くれよ!
倒れている彼の胸ぐらを掴み無理に起こしてから
彼の右頬を1発 さらに左頬を1発強めに殴った。
「イライラするイライラするイライラする」
人を殴ったところで何も解決はしない。余計にイライラした。床に横たわっている彼は間違いなく泣いているというのに、俺には彼が全てを悟ったうえで半笑いしているように見えた。
「お前のせいだ、お前のせいで」
何なんだ、本当に何なんだ?俺が何でお前に恨まれなければならない。もしかして彼女のことが好きだったのか?何なら譲ってやろうか?俺は別に彼女のことが好きではないし、付き合っているわけでもないから今すぐ別れたことにしてやるからそれから告白するといい。
彼女が何て答えを出すかは知らないけれど、軽く話ならしといてやるよ。お前のことが好きな男がいるらしいぞって、ただ暴力を振るうやつだから気を付けろって。
「お前のせいで、青木さんは涙を流すことになったんだぞ、お前のせいだ」
「謝れ……僕に謝れ」
青木……知らない。
彼に熱く訴えられたが、俺は知らない。
彼女はたしか、宮城だったはずだが、何を勘違いしているのか、青木という人は俺の案件ではない。
「青木、それは誰だよ」
「君は何か勘違いしているよ」
とりあえず、冷静さを取り戻すことが出来たが、正直 めんどくさいやつに絡まれたもんだ。
「勘違いじゃない。お前のせいだ」
「青木さんは、お前のことが好きだったんだ。なのにお前が付き合ってあげないから青木さんは涙を流すことになったんだ」
八つ当たりにもほどがあるだろ?知らねーよ。
君が好きな青山さんか、青田さんだっけ?怒りにくるならまずその人だろ?何で君が俺に文句をいいにくるんだ?
「君は、その人のことが好きだったのか?」
「ああ、僕は青木さんのことが大好きだ」
「ふん。そうですか」
そうそう青木さんか、青山さんでも青田さんでもなかった。分からない よかったんじゃないのか?君にとっては?俺は君が好きな青木さんを取ったわけではないのだから、告白する勇気もないくせに俺に八つ当たりをするんじゃないよ。
「謝れよ、早く謝れ」
「分かった。謝ってやる」
「ただ、1つだけ質問に答えてはくれないか?」
「質問……?」
「君は、青木さんと、どうしたいんだ?」
「付き合いたいのかい?キスしたいのかい?それとも好きだと一言 言ってほしいのかい?」
彼が存分に嫌な気持ちになるように、俺はゆっくりと小馬鹿にするように話した。彼にどう伝わるかは分からないけど。
「…………」
彼は黙っている。こうしたいって即答できないもんかな……恋愛って何だ?人を好きになるって何だ?君の好きって気持ちは純粋ではなかったのか?
「イライラする、イライラする イライラする」
俺に告白してきた女子たちも俺と何がしたかったのだろうか?俺と付き合っているというステータスが欲しくて告白してきたやつもいるんじゃないのか?結局はみんな自分のため、自分がフラれるわけないって自信があるから告白できるんだ、だからフラれた時に大声で泣けるんだ。
最初から結果を予想できていたら泣かないよな普通は。神様も不公平だ、俺にこんな才能くれなくてもよかったのに。貰い手は別にいくらでもいただろ?




