伊藤 くるみ
昔から、悩み事や恋の相談をよくされるのは、私が優しそうに見えて人の話を真剣に聞くタイプだから……?これって自画自賛?
でも今まで相談された件数は嘘つかない。
私のサポートのお陰で付き合い始めたカップルは4組以上。私のことを「恋のキューピットくるみ」と言ってくれる人もいる。
「他人の恋ばかり応援してきた私……」
「そろそろ、自分の恋愛も動かしたい。いくつもの幸せを見てきたけど私も幸せになりたい……」
JKこと女子高生はみんな誰かに恋をしている。相手は、イケメン芸能人やアニメの主人公かもしれないけど。みんなきっと誰かに恋をしている。
恋のキューピットくるみなんて呼ばれている私も気になっている人はいる。
いわゆるイケメンタイプではないけれど可愛らしい顔立ちと醸し出す優しそうな雰囲気が魅力的だ。
中学校2年生の時から気になっていた男の子に話があるからと放課後 誰も使っていない理科室に呼び出された。
「これってもしかして噂の……」
聞いたことがある。放課後に突然 異性に誰もいない教室に呼び出されると、付き合ってくださいと告白をされると……ついに私にも春が来たのかな?
「い、伊藤さん……き、今日の放課後空いてます?話があるんだけど、よかったら理科室に来てくれませんか?」
敬語で話しかけてくるのは、緊張からか?私に対する敬意か?いずれにしても脈あり……
「大丈夫だよ、理科室でいいの?」
今日は、バレー部は顧問の先生がいないからちょうど休み。断る理由はない、勿論 大丈夫だと返事をした。まだ、何も言われていないのに胸がドキドキしている。
好きな人の方から告白してもらえるのは、今まで私が人の相談に真剣に向き合ってきたご褒美?
「あ、ごめんなさい。伊藤さんの方が先に来てくれてたんだ。俺の方がお願いがあったのに」
鈴木くんは深く頭を下げる。こういう気遣いも彼の優しさの1つだと思う。
「大丈夫、私もさっき来たところだから」
嘘、15分前に来た。私の方が楽しみで理科室に早く来てしまった。
「やっぱり、付き合い始めたら名前で呼んだ方がいいのかな?俊哉くんって……嫌だ 恥ずかしい」
「私のことは何て呼んでほしい……?くるみちゃん?くーちゃん?いっそのこと くるみって呼び捨てもいいなぁ……」
「初デートのために新しい服を買って、一段と可愛らしいものを。鈴木くんはどんな服が好みかな?」
こんな妄想は、気が早すぎるかな?まだ何も言われていないのにもう デートのことを考えている。
「話があるって何?」
「い、伊藤さん、あの、そっ、相談があるんですけど、恋愛の相談が、聞いてもらえますか?」
相談……またも私は相談役かぁ……
告白してもいないのに何だかフラれたような気分になった。理科室になんて呼ばれるから、つい 期待してしまったけど、忘れてはいけない。私は、恋のキューピットくるみだ。人の恋を精一杯応援するのが私の役目……
「相談……?全然いいよぉ」
「あと、敬語じゃなくて大丈夫だよぉ」
大声で泣き出したい、ただ、今泣き出すと鈴木くんを困らせることになるから我慢した。相談を断ってこのまま帰りたい気持ちもあったけど、神様に認めてもらえるようにもう少し頑張ろうと思う。
「あ、よかった。ありがとう」
鈴木くんが安堵の表情を見せる。
私が相談を断るかもしれないという不安から緊張していたのかな?さっきまでドキドキしていた私、本当に馬鹿だ。
「実は、千春のことが好きなんだ」
「千春とは幼なじみで、小学生の頃は友だちとして好きだったんだけど、中学生になってから異性として千春のことが好きだって気づいた」
知ってる…千春からも昔話を聞いたことがある。
千春は仲のいい友だち。出席番号が近かったこともあって中学生になってからわりとすぐに仲良くなった。素直で純粋、少しだけ人とズレているところがあるけれど友だち思いで優しいし、いい意味で女子っぽさがないところが好き。
「でも、千春はおそらく庭野のことが好きなんだと思う。俺はどうすればいいんだろう?」
「そうだね~今は慌てないことが大切だと思う」
「相手に~好きな人がいる場合は焦ってはいけない。だって、庭野君が千春のこと 好きとは限らないじゃん」
普段はこんな話し方しないけれども鈴木くんの前だから少しでも可愛く見られようと私は語尾を上げる。声もなるべく女らしい声で話すように心掛けて。
「そうか、慌てないことか~」
「さすが伊藤さん、やっぱり女子の意見て参考になる~。男に聞いてもまともな回答返ってこなかったし。尾崎とか、わら人形で呪い殺せとか言うし、岸も壁ドン最強とか意味の分からないこと言って、全然アドバイスになってないし」
「逆に女の子は男の子の意見を知りたいよ~」
「男の子は女の子のどんな仕草を可愛いと思うのか、どのような子を好きになるとかぁ」
聞きたいのは、男の子の意見じゃなくて鈴木くんの意見。千春のどこが好きなの?
「おおっ……もしかして伊藤さんも好きな人がいるの?振り向いてもらいたい相手がいるの?」
「えっ?いやぁ、気になっているってレベルなだけで、好きとかでは……」
あなたのことだよ鈴木くん。千春じゃなくてくるみのことを見て。
「そうか~~伊藤さんの恋も~叶うといいね」
悪気なく純粋に、私の恋を応援してくれる鈴木くんだけど、私の恋が叶った時は、あなたの恋は散っていることを意味する。相手に、好きな人がいる場合は焦ってはいけない。私も焦っていない。そのチャンスがくるまでは現状維持 現状維持。




