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宮城 晃

スクールカーストの位置の違うもの同士が付き合うことになると学校の雰囲気に何かしらの変化が現れる。それは知っていた。例えば、付き合い始めたもののうち下位層のものだけがひたすらに嫌われるパターンや上位層のものも下のものと付き合い始めたせいで身分降格を言い渡されるパターンも。言い渡すのは誰でもない……その場の空気が何となく身分降格を知らせる。


私が付き合ったのは庭野。

彼はこの学校で1、2位を争う人気男子。その彼が誰と付き合うのかということに誰もが興味津々だった。彼に泣かされた女子も多い。そんな女子たちも自分がフラれた理由が納得出来るような素敵な人と付き合ってほしいと思っているはずだ。


そんな全ての女子たちのことを嘲笑ってこう言ってやりたい。

「はい、残念でした~」

「庭野が選んだのが私と知ってあなたたちはさぞガッカリするでしょう」

カッコいいだとか運動神経がいいだとか都合のいい部分しか見ようとしなかったから、庭野のことを理解しようとせずに自分の思いばかりぶつけているから私なんかに負けるのよ。まあ、あなたたちには庭野のことを理解することなんてできないだろうけど。


私は、悪い魔法使いから英才教育を受けたのでお陰さまで悪い魔法使いになりました。


人が悲しんでいる姿を見て喜んでいるのだからそうとう悪い魔法使いだ。能力はまだ使っていないけど使えば、傷付いている女子の中の1人の命くらいは奪えるはず。人が傷付く方法を私は、知ってしまっているから。


前の席の前川さんっていう吹奏楽部の女子は、ショックのあまり体調不良で学校を休んでいる。隣のクラスの青木さんっていう女子は頭がおかしくなったのか、屋上で何かを叫んでいたらしい。私の悪口か?告白する勇気がなくってもじもじしている間に私が庭野をもっていったから。


「正直いってくだらない」

こんなことで休んでいたらあなたは今後 様々なことで心が折れては会社を休むことになるよ。会社は学校と違って優しくないことを私は知っている。離婚してすぐの母が会社を4日間休んだだけで母には働いていた会社をやめるはめになった。


庭野と付き合いはじめたと噂されてからの周りの環境は変わったような変わらないような。


ほとんどの女子からは声を掛けられなくなったが、元々友だちと思える子はいなかったし、彼女たちが話す話題に飽き飽きしてたからめんどくさいことが1つ減ったと思えば気は楽だ。


部活が同じという理由だけで、私は4人グループで弁当を食べていただけだから、ぼっち弁当になったところで悲しくはない。1人で食べようが4人で食べようが美味しいものは美味しいし、美味しくないものは美味しくない。好きな人の前なら嫌いな食べ物が食べられるようになるか……なるわけない。


殴られたり、教科書を隠されたりするような具体的ないじめは受けてないだけましだ。無視はされるし、陰口は言われてるだろうけど、女から陰口を取ったら何も残らないから言われてて当然。その陰口を嫉妬だと気づいていない方が惨めなだけだし。



ただ……

今日の弁当のおにぎりは、母が塩加減を間違えたようでいつもよりもしょっぱかった。

庭野は私と付き合いはじめたと噂されてからも変化はないようだ。これがスクールカーストの上位層に位置するだけある。そう簡単には嫌われない。全裸で校舎を走るくらいのことをしなければ嫌われないんじゃないだろうか?


いまだに彼に近づく女子は多い。彼女ではなく友だち希望なのか?ただ話がしたいだけなのだろうか?言っておくけど彼は本心では話さないと思うよ。


人が喜びそうな言葉を見つけては口にし、相手を喜ばせる。ずっと相手の顔色を伺いつつも心の底では誰のことも信じていない。


「今日は部活休み?」

「じゃあ、一緒に帰ろっか?」

放課後 教室で私が帰る準備をしていると偽りの庭野が声を掛けてきた。周囲を気にしているからか優しい話し方をする。


「うん、今日は休みだから今から帰る」

今日は部活に行きたくない。体調不良と嘘をついてずる休みをしようと思っていた。


「よかった、俺も今から帰るところだから」

「俺も休み……帰宅部はいつも休みか……」

さすが人気者の庭野は違うね~そんなくだらない冗談も言えるんだ~面白い面白い。


「うん、そうだね」

一応私たちは付き合っていることになっているんだし断ることもできず庭野と一緒に帰ることにした。


「それっ、重いでしょ?」

「いいよ。俺が持つよ」

庭野は、私の通学鞄も持つと笑顔で教室を出た。

途中 途中で同級生に声を掛けられれば笑顔でお疲れと言って 校舎を出るとやっとふたりっきりになった。


2人だけで並んで歩くのは少し恥ずかしい。

隣にいるのは偽りの庭野だっていうのに……


「元気ないみたいだけど大丈夫?」

「ちゃんと ご飯食べている?」



「ねぇ?」

「いつまでそれでいるつもり?もう誰も見ていないでしょう?」

学校からもうずいぶんと離れたのに、庭野はまだいい人のふりをしている。


「これは本当に心配してるんだよ」

「俺が一緒に弁当を食べようか?」

ダメだ、ダメ。

こいつは調子のいいことを言っているだけで私のことを思ってこんな優しい言葉をかけてくれているわけではない。こいつも悪い魔法使いだ。


「好きに……」

違う。そんなわけはない。

私は、人を好きになったりしない。人のことも信じない。その方が絶対に幸せになれるから。


「大丈夫 私は、1人が好きだから」

「ひとり焼き肉とか ひとりボウリングとか、私 全然出来るタイプだと思うし、何ならひとり遊園地でも楽しめる自信はある。まあ、そんなくだらないところには行かないだろうけど」


「そう 別に……1人が好きならそれでいいけど」

「1人になった方が人間は強い。1+1は10になることもあるけど、マイナス5000になることもある」


とっさに庭野が言う。

「もうほとんどのが知っているようだな俺たちが付き合っているってことを。まあ付き合っているふりだけど」


「そりゃそうよ高校ってそういうところだから」

「誰か1人に話したらあっという間に噂は広がって皆が知ることになる。悪い噂なら大半が知るには、5日もかからないかもね」

噂が広まるように私が仕向けた。同じテニス部の安藤さんに自分から言った。近くにいた噂好きで有名な山瀬さんに聞こえるように大きめの声で。


「まあ、バレるように望んだのは俺だから構わないんだけど、流石に早すぎない2日でって?」

2日は早いと私も感じたけど、流石 山瀬さん。

彼女は噂好きで有名で本当のことでも嘘のことでも毎日のように誰かの噂や悪口を話している。


「私、庭野くんと付き合うことになった」

と同じテニス部の安藤さんに自分から言った。近くにいた噂好きで有名な山瀬さんに聞こえるように大きめの声で。


山瀬さんに伝わったことで、噂は捻れて捻れて真実とは多少異なる嫌な噂となって広まった。宮城は、庭野くんと付き合ったことを自慢していたとか……


噂は人から人へ伝われば伝わるほど真実とは異なっていく。最後の方になっていくともはや原型をとどめていない。


「A君がB君からリンゴをもらって食べた」

という文面が噂として人から人へ伝わると

「A君はB君の持っていたバナナを盗んで食べた」

という文面に変化する。


「今日の現代文、本当に退屈だった~」

勉強が面白くない、先生が嫌いだ。

こんな当たり前のような会話も今まで他の人には話してこなかったのか。完璧な人間であるためとはいえ純粋にそれをやっていないのなら辛いよね。本当は人並みに悪口や文句の1つくらい言いたいだろうに。


「私に存分に愚痴るといい。私は、あなたがそういう人間だって知っているのだから……」

「恐れることもない 私は友だちもいないからこのことを誰かにチクったりはしない」


「今回の現代文のテストヤバそうだな」

「赤点はとるわけにはいかないな。単純に恥ずかしいし」

庭野が赤点を取るくらい成績が下がったとしても彼の評価は下がらないだろう。勉強できない姿も事実上 かわいいと言われて。


「ねえ、現代文教えてよ?」


「え?私が?」

私は友だちがいないから勉強ができる方だ。休み時間に無駄話をする必要がないので勉強に集中できる。むしろ勉強をしなければ高校に来ている意味すらない。

「別に、私が教えられる部分なら教えてあげてもいいけど」


「本当に?じゃあ 頼むよ」


「今日は無理だから、明日とかなら空いているけど そっちはどう?」

ちょうどよかった。明日も部活にはいきたくないと思っていたから休む口実ができてよかった。


「俺?俺は大丈夫だよ。じゃあ明日図書館で」

「学校が終わってから2人で図書館に行こう」

久しぶりにプライベートなことで他人の約束で予定が埋まった。休みの日に友だちとカラオケに行く約束とか、学校帰りに新しい服に買いにいく約束とかそういうのをもう何年もやってなかった。そんな友だちがいないからか。部活の合宿とかで埋まることはあっても。


男の子と2人で勉強。何もないのになにかを期待している私は、他の女子たちと変わらない……?


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