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小野 翔三朗

「たった40分だというのに……」

てっちゃんとまっつんが待っていてくれなかったことは少しだけ気にくわないが、仕方ない。補習になったのはあくまでも僕が頭が悪かったからで


数学の補習が終わり1人寂しく帰ろうと思ったときだった。どこかで大きな声が聞こえる。野球部の掛け声にしてはむさむさしさがない。大きな声であるのに柔らかい心地のいい声だ。


「青春の~~馬鹿野郎~~」


「えっ?青木さん……」

声のする方を見ると、青木さんが屋上で何かを大きな声で叫んでいた。


「何をしているんだ あんなところで?」

「悩みごとでもあるのだろうか?」

青木さんに悩みごと……そんなの嫌だ。

青木さんには幸せな気持ちでいてほしい、僕にはなんにも出来ないけれど。


「青春の~~馬鹿野郎~~」

再び青木さんの叫び声が聞こえる。

屋上で1人、あんな大きな声で何かを叫ぶなんて僕にはとても真似できない。例え叫びたくなるような嫌なことや悩みがあったとしても。


「あんなところで叫んでいるなんて何か」

ここで僕が青木さんの元に行ったところで何もできるわけではないが、そう悩んでいる間に誰かが屋上へと向かっていくのが見えた。青木さんのことはその人に任せておこう。


「そうだ、今日は、転生したワールドはパラレルだったはず っていう小説の最新刊の発売日だったんだ。早く買いにいかないと売り切れる。あの小説は人気だけど僕のいく書店には在庫が少ないからな、保存用と読む用の2冊欲しいからな」

昔、この小説の展開をめぐって、まっつんと激しい言い争いをしたことがある。2人とも好きな小説だからこそ熱くなってしまったのだけど。てっちゃんが仲裁に入ってくれたので僕たちは絶交しなくてよかった。


「結果的にいえば、僕の予想の方が間違っていなかったけど」

この小説は前巻で僕の予想した通りの展開になった。主人公の幼馴染みとして初回から活躍してきたカリンという女剣士が悪の組織から殺された。所々で伏線が張られてからそうなることは小説をじっくり読んでいる人はまず気づく。


「今さら、まっつんに謝ってほしいとは思っていない。あのときは僕もまっつんにひどいことをしてしまった。売り言葉に買い言葉とは言え、彼の大好きなキャラクターのことをバカにしてしまったから」

助かった~よかったとは思っている。


てっちゃんとまっつんが僕のオタク仲間でいてくれて。2人とも優しくて性格もいいから2人とはずっと友だちでいられそうだ。


「たった40分の補習は待っていてくれなかったけど、転生したワールドはパラレルだったはず の発売日だから尚更待っていて欲しかったのに」



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