表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/25

開盤



「君は魔法使いになりたいのかね?」


 目の前のおじいさんがあたしにそう言った。



 台湾は何度か来たことがある。旅行していて、いつもとても不思議だった。

 道路わきの高い団地のような建物の上の部屋。道路の横に立ち並ぶ5階建てくらいのビル。雨とかで汚れたあそこには誰かが住んでいるんだろうか。それとも空室なんだろうか。


 ガイドブックに載っていた小籠包のお店で美味しい夕飯を済ませて、夜風に当たりながら台北駅に近いホテルに帰る途中。林森北路の路地を抜けた時、小さな雑居ビルのドアが開いていた。

 周りには人通りは無くて、少し向こうの大きな道からはバイクのエンジン音がまばらに聞こえてくる。

 ほんのりと明るい街灯が薄暗い路地を照らしていて、開いたドアから漏れる白い光がでこぼこの歩道に線を作っていた。


 ビールを飲んでちょっと気が大きくなっていたのかもしれない。悪いと思いつつも、周りに誰もいないのを確かめて中に入って、細くて狭い階段を上がった一番上の部屋。

 ここも少し開いたままの小さなドアの向こうに、今あたしはいる。


「名前はなんだね?日本の客人」

「……柳原伊澄やなはらいすみです」


 がらんとした部屋には丸い机があって壁際には小さな棚があるだけ。

 壁一面に様々な文様や八卦模様が描かれたタペストリーのようなものがかかっていた。天井には裸電球が釣り下がっていて、部屋は薄暗い。窓から街の明かりが差し込んできている。


 机の前にいるのはお爺さんだ。ゲームの中に出てくるような、というと安直だけど。香港映画とかに出てきそうな、赤っぽい中華服。文様のような幾何学模様の刺繍がされていて、黒っぽくて丸い帽子をかぶっている。

 長目のあご髭と眉。なんか仙人ってかんじだ。ただ、背筋はしゃんと伸びていて、なんかカンフーの達人っぽさがある。


「それで……君はそういうものに興味があるのかね?」

「そりゃあ興味ありますよ。ない人なんていますか?」


 ゲーム、漫画、アニメ、小説、映画。魔法とかそれに類する表現は山ほどある。自分がつかえれば、と思ったことがない人なんていないと思う


「魔法なんてね、お嬢さん。もっていても邪魔になるだけさ」


 淡々とした口調でお爺さんが言う


「そうですか?」


 魔法使いになりたい、というのは誰もが一度は考えることだと思うけど。


「もっていても意味がないさ。私が証人だ」

「なんでです?」


 ちょっとくぼんだ眼と伸ばした眉の向こうの目があたしを見た。


「私は魔法使いだからさ」



 ◆ 祁 祁 祁 ◆



「私は魔法使いだが……この年になるまでその恩恵は感じなかったよ」


 真剣な顔で言われたけど。正直言って、どう答えていいものかわからなかった。


「信じていないね?」

「あー、まあ、それは」


 私は魔法使いだ。と言われてはいそうですか、と答える人はあまりいないだろうと思う。酒でも飲んでいるのか、と思ったけど、さっきからの話し方は全然そんな感じはない。受け答えはしっかりしている。


 というか、日本語を完璧に使いこなしている。

 台湾の年配の方には日本語を話す人がいる、というのはガイドブックやネットでよく見る情報だけど、話し方だけ聞いているなら日本人だと思うだろう。イントネーションにもおかしなところは無い。


「証拠を見せようか?」


 反応に困っているとお爺さんが真剣な顔を崩さないままに言い募った。

 出来るんなら、なんていうと失礼かと思ってちょっと考えてしまうけど。その沈黙を肯定と請けとったのか、お爺さんが机の上の短冊のような紙を取り上げた

 もったいぶったように、紙を顔の前でぴたりと止める。なんとなく緊張感のある空気になってあたしも息をひそめた。


火點燃了ひよ・おこれ


 お爺さんがそういうと。紙が溶けるように消えて同時に赤い光が目の前で弾けた



近日中に2万字ほど追加されます。予約の設定ミスった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ