初めて人を殺した件について
タイムスリップした俺、小早川秀秋になっていた俺、攻めてくる徳川軍、俺を守る為に死のうとしている重元。
「待て……重元……俺も……俺も!」
俺は徳川軍の前に立ち止まった重元のところまで走った。
「行くぞー! 徳川軍、全軍発射! あの者の首をあげよ!」
その一言で足軽隊は一斉に重元目掛けて鉄砲を発射した。
「そんな鉄砲ごときに私は負けない」
重元は撃たれた弾を刀で弾きながら、足軽隊に近づき、次々に切っていった。
「怯むな! 押せ! 押せ! 数ではこちらが遥かに上だ! たった一人の男ごときに負けるな!」
足軽大将がそう言い、重元に切りかかった。
「お前が大将か……お前の首を取れば我らの勝ちだな……」
重元は切りかかってきた足軽大将の刀を右足で蹴り飛ばし、自分の刀を足軽大将の首に当てながら押し倒した。
「お前がワシの首を取っても、お前の殿様はあの世行きだがな」
足軽大将は不敵な笑みを浮かべながら目を閉じた。
「なっ……」
「徳川軍! 取りたければ俺の首を取れ!」
俺は徳川軍の注意を引くために出来る限りの大声で叫んだ。
「小早川秀秋の首をあげよ!」
足軽隊は鉄砲を俺の方に向け、構えた。
バキューン。
「重元……!」
重元は足軽大将の首に当てていた刀を地面に刺し、俺と鉄砲の一直線上に両手を広げて立ち塞がった。
「ぐはっ……」
足軽隊から放たれた無数の弾は重元に全て当たり、重元の体からは赤い血がぽたぽたと垂れた。
「重元……! 重元…! おい! 重元! 目を開けろ」
俺は膝をつき崩れかけている重元のところまで走り、血まみれの体を両手で抱えた。
「殿……なんで……き……ぐはっ」
重元は苦しそうな顔をしながら真っ赤な血を吐いた。
「重元……もう話さなくていい! 生きてくれ……俺を1人にするのかぁ!」
涙声でそう言うと俺の右手を重元は暖かい両手で握った。
「殿……私は……あなたに仕えられて……あなたの為に死ねて……幸せです……ありがとうございました」
重元はそれまでとは違う満面の笑顔なり、ゆっくりと目を閉じた。
「重元……おい! 重元!」
体をいくら激しく揺らしても重元の目は開かなかった。
「小早川秀秋……覚悟!」
足軽大将がゆっくりと俺に近づき、そう叫びながら俺の首に刀の刃をつけた。
「せめて、お前の家臣の刀で刎ねてやろう」
足軽大将が俺の首につけた刀は重元が使っていた刀だった。
「刀の刃って冷たいな……」
ゆっくりと閉じた俺の目からは自然と涙が流れていた。
「うおおおおおおおお!」
目を閉じていてもわかる、突然、徳川軍の背後から、数千は居るであろう軍勢が攻めて来たのだ。
「敵襲……あの旗は!」
少しして目を開けると、俺の首に刀をつけていた足軽大将は驚きのあまり手から刀を落として固まっていた。
「なにを諦めてるんだ! 秀秋! その刀を取れ! それでもお前は小早川家の当主か!」
顔は見えないが徳川軍の背後から若い女の声が聞こえた。
「人なんて殺したことない……俺には無理だ……重元も死んだ……俺には、俺には……味方が居ない!」
女の声が聞こえた方向にさっき以上に涙を流しながら、俺は精一杯叫んだ。
「重元の仇を取れ! お前の家臣はこいつに殺されたんだ! 仇を取れ! お前は何のためにここに来たんだ!」
「!」
俺はこの時代の人間じゃない、でも、俺は小早川秀秋だ。なら、小早川秀秋として、一軍の大将として、こいつをこの足軽を殺して家臣たちの仇を取るべきだ。
「重元……お前の仇……俺が取るぞ」
俺は足軽大将が落とした刀を恐怖で震えている右手に左手をかぶせながら拾い、拾った刀を両手でしっかり握り、刃先を逃げようとしている足軽大将の背中に向けた。
「力を貸してくれ重元」
今出せる全ての力を込めて刀を押した。
「ま……待て! ワシは悪……ぐはっ!」
刀はうまく足軽大将の背中から腹に貫通し、刀が刺さったまま大量の血を流して足軽大将は倒れた。
「俺は……俺は人を殺したのか」
白いスニーカーが倒れた足軽大将から流れてきた血で徐々に赤く染まっていった。
こうして俺は初めて人を殺した。
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