片眼鏡
「春樹、おかえり。愛梨子ちゃんと一緒だったんだね。」
重みを感じる車椅子を押し続け、商店街に入ると時計屋の前に秋が居た。
お話をしてたみたいで、目の前には知らない人もいたけど、こっちに気づいて声をかけてくれた。
「愛梨子!」
知らない人が、愛梨子の顔を見て急いで走ってきた。
ボサボサの髪に、右目にだけメガネをしてる変な人だった。
変な人は、愛梨子の目の前まで来ると床に膝をついて愛梨子の手を取った。
「あぁ、よかった。今日は迎えがいらないと言うから、心配したんだ。本当に無事でよかった。」
「もう、仁ってば心配性ね。春樹、紹介するね。
私の叔父の入江 仁よ。」
まるで愛梨子しか目に入ってない男が、愛梨子の叔父さんと聞いて少し安心する。
不審者だったら防犯ブザーを鳴らしているところだった。
仁って人が俺に気づいたのか、立ち上がってジッとこっちを見てきた。
「あ、こ、こんにち…わ…」
「君が鳳さんの家の春樹くんですね。
愛梨子と同じ学校に通うと聞いていたので、安心しました。
春樹くん、愛梨子を宜しくお願いしますね。」
そういって薄い笑顔を浮かべた仁って人は、どこか睨んでるような、怖い目をしてた。
正直、この人が苦手だと思った。
その時、笑顔でやり取りを見てた秋が口を開く。
「それで、先程のお話なんですが。
良かったら今日ご挨拶も兼ねて宴会を開かせて頂きたいので、宜しければ入江さん達もお越しいただけませんか?」
「まぁ!宴会?!仁、楽しそうね!私行きたいわ!」
「で、でも…」
宴会と聞いて、愛梨子の顔がぱぁっと明るくなる。
仁の腕をグイグイと引っ張ると、あまり乗り気じゃなかったのか仁が困った顔をしていた。
「ま、まぁ…愛梨子がそこまで言うのでしたら…」
ついに折れたのか、仁はしょうがなさそうに返事をしていた。
知らない人が沢山来るのだと思うと、少し緊張する。
でも明日は学校も休みだし、夜はあまり眠れないから遅い時間まで誰かと起きていられるのは少しだけ嬉しいかもしれない。
「それはよかった!では19時頃僕のお店へお越しください。
さ、春樹帰ろう」
そう言って差し出された大きな手を掴むと、目の前のお店まで歩き出した。
家に帰ってからも、秋は嬉しそうに今日の出来事を聞いてきたりもしてたけど、
あまり話せることもなくて殆ど黙ってた。
でも急に不思議そうな顔をして、俺に話しかけてきた
「あれ、春樹は愛梨子ちゃんが困ってるのを見て、送ってきたんだよね?」
「そうだけど…」
「おかしいな、僕が聞いた話だと愛梨子ちゃんの車椅子は自動運転機能がついてるはずなんだけど…」
「・・・えっ」
話が違うぞ、愛梨子。