赤毛
ーーーー・・・放課後
下駄箱で靴を履いてから外に出ると、夕暮れの光が綺麗に反射する赤毛が、俺を見て笑っていた。
忘れるはずのない姿に、体が硬直するのがわかる。
「こんにちは」
「お…」
「お?」
「おばけ!!!」
やっと思いで言葉が出たかと思えば、それと同時に校門とは逆の方へ体が走り出した。
後ろからは昨日より大きな声が、俺に向かって飛んでくる。
「待って!ねえ!また逃げるの!?」
そんな声も聞こえないかのように更に逃げようと足を早めると、途端に悲しそうな女の子の声が聞こえた。
「ねぇ、お願い!車椅子、1人じゃ上手に動かせないのよ!押してくれないかしら…?一緒に帰りましょう…?」
あまりにも悲しそうに話すから、思わず足が止まってしまう。
困ってる人には優しくしなさいって、秋が昔から言ってた。
だから、困ってる子を置いて帰ったら、きっと秋も怒ると思う。
助けなきゃという気持ちよりも先に、気づけば体は女の子の方へと向かっていた。
「お、おばけ…名前は…?」
「あら、おばけじゃないわ。入江 愛梨子っていうの。
6年3組よ。
ビビリくん、貴方のお名前は?」
助けてやろうと戻ってきたのに、ムカッとする事を言われて嫌な気持ちになる。
思わず愛梨子を睨むような顔をしてしまった。
「び、ビビリじゃねぇよ!…鳳 春樹。3年1組。」
ムキになる俺を見て愛梨子は"ムキになっちゃって可愛い"とか言ってクスクス笑ってる。
首から頭にかけて熱くなるのがわかって、誤魔化すみたいにまた大きな声を出した。
それでもクスクスと笑う愛梨子がよく分からなくて、ずっと睨んでいた。
「ふふっ。睨めっこは程々に、そろそろ帰らないと仁に怒られてしまうわ。
申し訳ないのだけど、押してもらえるかしら?」
まるでどこかのお姫様みたいな言葉を使う愛梨子に、変なやつだなという目を向けた。
でも、また困ったような顔をすると、ぐっと言葉を飲み込んで車椅子の取っ手に手をかける。
ゆっくりと動き出した車椅子は、思っていたよりも重さを感じて、
ちゃんと愛梨子は生きているんだと感じた。
「春樹は優しいのね」
そうやって楽しそうに笑う愛梨子には、あまりにも似合わない大きな車椅子と、動かない足。
その時俺が背中に冷や汗を感じていた事も、持ち手を握る手が汗をかいていた事も、
自分の後ろが見えない愛梨子には気づけないんだろう。