魔法
「えー、それでは授業を開始します。
春樹くんは、となりのお友達に見せてもらってね。」
先生がそう言うと、隣に座っていた女の子が机をくっ付けて嬉しそうに教科書を見せてきた
「ねぇ、春樹くんは能力もってるの?」
ヒソヒソと耳打ちする言葉に眉をひそめながら、教科書を見つめた。
今日の一時間目は、能力の授業らしい。
「能力なんて…」
そう呟くように返した言葉の途中に、先生のストップの言葉が割り込んできた。
"怒られちゃったね"なんて笑う女の子がずっと楽しそうで、理解できなかった。
「えー、じゃあ昨日の続きからね。
この世界には能力者と無能力者が存在します。
能力を持つ人間は、数百年前に突如この世に現れたのです。
炎を出せる人、心が読める人、危険を察知できる人、時間が戻れる人。
能力者の数だけ、能力の数が存在します。
能力は別名、魔法と呼ばれることがあります。
はい、早川くん。それは何故でしょう?」
「はい!この世界には、魔女が住んでいると言われているからです!
能力者は、おばあちゃんが魔女だったから魔法が使えると言われているからです!」
「うん、いい答えだね。
おとぎ話だけど、能力者が現れた頃、同時期に一度、魔女がこの世界に姿を表したと言われています。
それ以来、この世界には皆が行けない幻の島に魔女が住み着いていて、
その魔女の血を受け継いだ人達が能力を使える、なんておとぎ話があります。
だから、一部では魔法なんて呼ばれ方をしているんだね。」
教科書をぼんやりと眺めながら話を聞き流していた。
どのページを捲っても、能力者は素敵なもの、童話の魔法使いみたいな扱いをされている。
どうして大人はそこまで能力者を褒めるのかわからなくて、イライラする。
能力者がいいものなんて、絵本の中だけなのに。
「じゃあ続きを読むね。
能力者は、無能力者とは違う力を持っていますが、それ以外は普通の人間と何も変わりません。
みんなと同じ姿、形をしています。
ですが、能力者はできる事が少し多いので、社会人になると社会では少し優遇される事があります。
全て優遇されるわけありませんが、近年ではそれをよく思わない人達が能力者を虐めてしまったりする事もあるようです。
しかし、能力者も同じ人間です。
能力者を虐めることは、学校でお友達を虐める事と何も変わりません。
どの時代でも、差別は争いを生んできました。
また争いを起こさないためにも、皆で仲良くする事を心掛けることが大切です。
皆、いじめのない楽しいクラスを作っていきましょう!」
先生の呼びかけに、明るい返事が教室中に響いた。
"それじゃあまるで力のない人間ばかりが悪いみたいじゃんか"
そんな言葉が頭の中でいっぱいになって、同じように返事を返すことは出来なかった。