その2
■オープニングフェイズ
GM:では、シナリオを開始します。オープニングです。難易度は「イージー」で行きましょうか。
蒼子:「ノーマル」で行かないと実験の意味がないと思います(笑)
GM:わかりましたそこまで言うなら「ノーマル」で行きましょう(嬉しそう)。一応、この「〈小牙竜鬼〉の潜む森」には難易度が三つ設定されておりまして「ベリーイージー」「イージー」「ノーマル」となっております。
ロシナンテ:ほう。
GM:この三つということは普通中間の「イージー」を選ぶことが前提になってるんじゃないかという臭いをGMは感じているのですが、皆さんがそこまでの覚悟なら「ノーマル」でいきましょう。
目映:なるほどね。「ハード」無いんだ。
蒼子:いやーでもあたしたち「熟練者」だし。予告(註1)に臆面もなく書かれちゃったし。
一同:(爆笑)
目映:これは「ノーマル」行かざるを得ないでしょう(笑)
ロシナンテ:そういやそうだったな(笑)
GM:おっとそうでしたね。すでに皆さんの退路は断たれていたということで(笑)では続けます。時期は〈アキバ〉の〈円卓会議〉発足後くらいでしょうか。状況が落ち着いて〈冒険者〉たち、特にPKなどの心配がなくなった低レベルの〈冒険者〉たちの活動は活発になっています。朝早く集合してさっさと仲間とパーティーを組み、ある者たちは〈アキバ冒険斡旋所〉で受けたクエストに、ある者たちは狩りに意気揚々と旅立ちます。「美味しいものを食べるため」という基本的なモチベーションが設定されたことがこの活気を産んでいるようですね。
ロシナンテ:基本的な消費のサイクルができたのか。
蒼子:にもかかわらずあたしたちはどうしてここに三人でいるんでしょう…。
GM:あなたたちは皆サブキャラで入ってしまったゆえに今までの仲間たちとレベルが合わなさ過ぎてパーティーが組めないという問題があるのだと思います。また、サブキャラである故にその職での立ち回りも十二分ではないということも。
目映:なるほどねー。
ロシナンテ:だが俺たちだけでパーティーを組もうにも全員〈回復職〉だしな、ってとこか。
GM:そうですね。あなたたちはアキバのギルド会館で「俺たちの冒険はまだ始まらない!」みたいな状態にあるわけです。
蒼子:このままではレベル上げもままなりません……。
ロシナンテ:今度初心者〈冒険者〉向けの強化合宿があるらしいから、それに便乗してレベルを上げさせてもらってもいいかもな。
蒼子:それは参加させてもらった方がいいでしょう。ゲームの時とあまりにやり方が違いますし…。
目映:引き狩り(註2)で何とかならないかなぁ。「クレセントバーガー」とかも食べたいし……。
蒼子:レーダー見えないから死んじゃいますよ。
目映:無理かぁ……。
GM:あなたたちがギルド会館のホールでそんな話をしているところに、斡旋所の職員さんの一人が青い顔で話しかけてきます。周りに〈冒険者〉はおらず、〈大地人〉の職員さんや他の依頼人がいるばかりです。
職員(GM):「すみません、お話を聞いていただけないでしょうか?至急の依頼なんです」
職員さんの青ざめた顔に、思わずたたずまいを正し、おとなしく話に耳をかたむける三人。なんでも、〈アキバ〉から数時間程度の近郊の村、〈ワラビ村〉に〈小牙竜鬼〉があらわれ、村人が負傷したのだという。〈冒険者〉にとっては比較的くみしやすい相手である〈小牙竜鬼〉も、〈大地人〉の村人には荷が重い相手だ。
職員(GM):「まだ大きな被害は出ていませんが、これに味を占めて何度も襲撃を繰り返された場合どうなるかわかりません。本来ならすぐ〈冒険者〉のチームを派遣して退治する所なのですが、今はパーティーを組んだ方は出払ってしまっていて…」
GM:ごくりとつばを飲み込んで、職員さんは最後の一言を切り出します。「それで……あなた方3名にお願い、できないかと…」もう泣きだしそうですね。
蒼子:「ええと、あたしたちの職業、見えてますよね?大丈夫だとお考えなんですよね?」って一応言いますよ?
GM(職員):他に選択肢がないのでしょう。「せめて、時間だけでも稼いでいただければ……」と、悲壮な顔で絞り出します。
目映:まぁまぁ、行ってみて、手に負えなかったら籠城するって手もあるんだし。応援は期待できるんですよね?
GM(職員):「報酬はなくなってしまいますが、手に負えないようでしたら連絡していただければ。ただの小規模な群れという可能性も十分にあり得ますし」
ロシナンテ:…むむむ。
蒼子:ロシナンテさん、どうしたんですか?
ロシナンテ:いや、受けてやりたいのはやまやまなんだが、どうしても装備が、な。
目映:あー、わたしも弓とお洋服しかないしなぁ。
蒼子:……装備があれば、受けられるんですか?
ロシナンテ:行ける。プレゼンしている暇はないが、目映のビルドと装備があれば十分に可能な企画だ。
目映:え?わたし?
蒼子:……わかりました。あたしが持っている資材をすぐお金に換えて、お二人に「融資」しましょう。それで必要な装備をそろえてください。
目映:あおちゃんすごーい!
ロシナンテ:すまん、恩に着る。
蒼子:融資なんですから恩に着る必要はないです。結果で返してくださいね?
ロシナンテ:ああ。
蒼子:GM、という訳で二人に必要なお金を融資した、ということで。
ロシナンテ:俺もそれまでに持っていた装備を売って装備をそろえなおしたことにしてくれ。
GM:なるほど(笑)パーティー内の借金を許可しましたが、こうつなげてくるんですね。
もちろん借金やアイテムはビルドの時点で事前に処理しているため、これは茶番である。しかし、パーティー内の借金やアイテムを持っていない理由を、この緊急事態に絡めてロールプレイするプレイヤーたちの手法は素晴らしいものであった。
目映:あおちゃんあおちゃん。
蒼子:なんですか?
目映:牛串食べたい。
一同:(笑)
ロシナンテ:牛串はあとでいいから!
蒼子:御馳走はこれが終わったら食べましょう!今はそんな余裕はありません!
素晴らしいものであった。
GM:では、君たちが必要とするアイテムが買い揃えられます。事情もあるので職員さんも協力してくれました。
ロシナンテ:では装備を身に着けて出発しよう。
GM:そうするとですね、事情を知ってそれを見ていた別の大地人が不安そうにコソコソとささやきあっています。
GM(大地人A):「オイオイオイ」(註3)
GM(大地人B):「死ぬわアイツら」
一同:(爆笑)
GM:すると騒ぎを聞きつけたのか、奥から疲労困憊、といった感じの髪の長い男性〈冒険者〉の〈神祇官〉が出てきてですね…。
GM(????)「ほう。〈回復職〉オンリーの3人パーティーですか…、たいしたものですね」
蒼子:一体何ンス先生なんだ(笑)
GM(????):「〈施療神官〉は防御力とヘイト維持能力に優れるらしく、普段からサブタンクとして立ち回る者も居るくらいです」
ロシナンテ:なんで「らしく」なんだよ。そこは言い切れよ(笑)
GM(大地人A):「なんでもいいけどよォ」
GM(大地人C)「相手はあの〈小牙竜鬼〉先輩だぜ」
蒼子:先輩ゆーな(笑)
GM(????):「それにサブ職が〈勇者〉の〈神祇官〉。これも支援性と攻防に優れたビルドです。しかも弓装備で射程のバランスもいい」
目映:先生もう休んでください(笑)
GM(????)「それにしても〈回復職〉だけだというのにあれだけ無茶できるのは、あの〈森呪遣い〉がよほど安定しているというほかはない。これなら…」それを聞いて他の大地人たちは黙ってしまいますね。男は奥に戻っていきますよ。
ロシナンテ:「よし…と――」GM、《インヴォークリアクト》を先に空撃ちしておく。
GM:(拾った…)了解しました。
蒼子:これで戦闘開始時にヘイトが2あげられるようになったんだね。
ロシナンテ:俺たちの生命線だからな。ここで使っておかないと戦士役プレイは成立しない。
余談ではあるがこの時期の〈円卓会議〉は超絶混乱期であり各ギルドマスターは(ミロードを除いて)ほぼ全員過労死寸前の極限状況であったと推測される。
何はともあれ謎の〈神祇官〉に太鼓判を押され、急ぐ一行。〈アキバ〉の街から急行すること数時間で豊かな自然に囲まれた〈ワラビ村〉へとたどり着く。
GM:という訳であなたたちは昼前に〈ワラビ村〉に到着することができました。粗い柵に囲われた村は何やら騒がしい様子です。
蒼子:?
GM:村の中央広場に何人か集まって、何やら言い争っているようですね。
GM(村人A):「急いで探さにゃならんだろ!」
GM(村人B):「だが、今森には〈小牙竜鬼〉どもがおるじゃろ。依頼した〈冒険者〉たちが来るのを待った方が…」
GM(村人C):「そんな悠長に待って、何かあったらどうする。どうせ二三日かかるんだ」
蒼子:「何が始まるんです?」(註4)
村人:「あ!?もしや〈冒険者〉さんか?」
蒼子:「そこはそう返さないでくださいよ」って、まあ、〈大地人〉さんにはわかんないか…。
ロシナンテ:わかる方がまずいだろ(笑)
GM(村長):「ダイサンジタイセンじゃ!」って返してくれる老人が出てきますよ。
一同:(爆笑)
蒼子:わかるんだ!?
GM(村長):「いまのは〈冒険者〉に伝わる『来萬燈』の一節じゃな。ワシは詳しいんじゃ」
目映:NRS起こすから突然のエントリーやめて(笑)(註5)
ロシナンテ:敏感過ぎるだろ、それは(笑)
GM(村長):「ワシは村長のハビルフですじゃ。〈アキバ〉の冒険者の方々ですな?」
蒼子:「はい、そうですが…」
GM:「本当にありがたい。二三日かかるものかと思っておったのじゃが…」
ロシナンテ:このところ〈冒険者〉は動きが鈍かったからな。無理もない。
蒼子:「最悪、後続が来るまでは…」とか言っておこう。
ロシナンテ:往生際の悪い(笑)
GM(村長):「ひとまずわしの家までお越しくだされ。詳しいことはそこでお話しいたしましょう。皆の者、〈冒険者〉が来てくれた。もう大丈夫じゃ。畑仕事に戻れ」そういってあなたたちは村長の家に通されます。板敷の質素な平屋ですね。居間と客間を兼ねているであろう一番大きな部屋です。
目映:じゃあ正座してお話を聞きましょう。
客間で村長から事情を聞く一同。なんでも村はずれに住む猟師が〈小牙竜鬼〉に襲われて怪我をし、その娘レンが薬草を取りに行くために周囲が止めるのを振り切って森に入ってしまったらしい。
蒼子:ちょっと待っててくれれば、あたしたちがいくらでも治したのに…。
目映:まあまあ。わたしたちがいつ来るか、こっちはわかんなかったんだし。
GM(村長):「まあ、見てのとおり資源に乏しい村ですじゃ。森に入れんというのは死活問題に近い。〈冒険者〉殿。どうか〈小牙竜鬼〉たちを追い払い、レンを連れ戻していただけないものか」
蒼子:そんなに帰ってきてないんですか?
GM:そうですね。薬草を取るだけなら早朝に出て今まで帰ってきていないというのはおかしいように思えます。
GM(村長):「何もなければそれでよいのですじゃ」
目映:わたしたちが探しに行っている間に〈小牙竜鬼〉たちがやってきたら…。
GM(村長):「そこはバリケードもある。お願いしたいのはとにかく〈小牙竜鬼〉の退治と、レンの捜索ですじゃ」
蒼子:「まあ、追い払うくらいは」
GM(村長):「森から追い払ってくれるだけでも」
プレイヤーたちはTRPG歴が長いため、状況確認が細かい。GMは何とかキャラクター達を森に行かせなければシナリオが進まないため、結構必死だ。
GM(村長):「モンスター退治の報酬として金貨三百枚。レンを探して下さったらさらにもう六十枚お出ししましょう。貧しい村じゃ。これで精いっぱいですが、どうか頼まれてくださらんか」
蒼子:「キツくないならいただきましょう」
目映:まあ、全部成功報酬だろうしね。
GM(村長):「そうか、引き受けてくださりますか。やはり〈冒険者〉は頼りになりますのう」
ロシナンテ:「じゃあ、この条件で。村長はこれを確認したらこちらにサインを」
目映:どうしたのロシナンテさん。さっきまでずっと黙ってたのに(笑)
ロシナンテ:説明や交渉ってのは基本的に代表一人がするもんだ。そうじゃなきゃ依頼人は誰に話をするのか混乱するだろ。あ、そこ、訂正用のサインください。
そんなこんなで森に向かう一行。
蒼子:明かりいらないかな。いるなら前借交渉もするけど。
目映:うーん。要らないんじゃないかな。日が暮れたら明かりがあっても探すの難しいだろうし、〈小牙竜鬼〉たちが暗さに紛れて村を襲う方が心配だから、夜になったら引き返そうよ。
ロシナンテ:そうだな。あと、ここで魔法の品物が売っているとは思えん。
GM:そうですね。では、ここでオープニングは終了です。皆さん【因果力】を1点上昇させてください。
一同:はーい。
註1.『予告』 当時はtwitterで予告と実況をしていた。
註2.『引き狩り』 オンラインゲームにおける狩りの技法のひとつ。足の速い職で弓などを装備し、彼我の移動速度の差と攻撃の射程を利用して対象が接近する前に移動と攻撃を繰り返し、ほとんどダメージを受けることなく敵を倒すことができる。上記の条件のほかに高度な周辺把握が求められる。
註3.『「オイオイオイ」「あいつら死ぬわ」』 『グラップラー刃牙』ネタ。第一巻のネタにもかかわらず今でも通用することがこの作品の秀逸さを意味している。
註4.『何が始まるんです?』 ハリウッド名作『コマンドー』ネタ。どうでもいいが蒼子は本当に英才教育を受けているようだ。
註5.『「ワシは詳しいんじゃ」「NRS起こすから突然のエントリーやめて」』 NRSはNinja Reality Shockの略。伝説上の存在がいきなり現れた際、遺伝子に組み込まれた恐怖の記憶がショック状態を引き起こす。ここでは目映は村長の流れるような「ワシは詳しいんじゃ」に反応している。詳しくは『ニンジャスレイヤー』を参照のこと。なお蒼子と目映は急性ヘッズである。