その1
〈アキバ〉の街近郊、〈ワラビ村〉。〈大地人〉たちが暮らすこののどかな村に、暗い影が差そうとしていた。
〈小牙竜鬼〉たちの群れが、村人を襲ったのだ。必死に〈アキバ〉の街まで走り、助けを求める村人。
しかし、不運は続く。その時ちょうど連絡の取れる適正なパーティーを組んだ冒険者たちがすべて出払っており、ギルド会館に残っていたのは無力な〈大地人〉の職員と、たった三人の〈回復職〉だけ。
このまま他の〈冒険者〉たちが戻ってくるまで手をこまねいて待つしかないのか。それとも。苦渋の決断を迫られる〈冒険者〉たち。
〈ワラビ村〉の危機を救うため、〈アキバ冒険斡旋所〉において、無謀な挑戦がなされようとしていた……。
大地人A「オイオイオイ」
大地人B「死ぬわアイツら」
????「ほう。〈回復職〉オンリーの3人パーティーですか…」
????「たいしたものですね」
魂の翼持つ〈冒険者〉達よ。
地平線の彼方に(アカン感じの)あらたな記録を刻め!
■プリプレイ
GM:では、〈回復職〉のみによる実験的キャンペーン…。
プレイヤーB:キャンペーンなんだよね?
GM:キャンペーンですよ?
プレイヤーA:いつまで生き残るかよくわからんけどキャンペーンだよな。
プレイヤーB:いや、死なないから大丈夫。〈冒険者〉は死なない。(註1)失敗はするけれども。
プレイヤーC:そーね。死なないね。つまり何回目で成功するのかっていうのを…。
しばし冒険者の不死者性と試行の問題で盛り上がる。雑談はTRPGの花である。オフセ(註2)はさらに。
GM:はい、実験的キャンペーン「ヒーラーズ/ヒーローズ」というタイトルをいただいております、サブタイトルは「回復職がありあまる」です。
一同:(笑)
GM:「〈回復職〉は割と万能」と言われておりますが、果たして本当なのか、ということで今キャンペーンはそれを検証するために行われるものです。
プレイヤーB:だからD&D3版じゃないんだって!(註3)
プレイヤーA:それなら、領域だけでなんとでもなる。
プレイヤーC:各職の協力が大切なこのゲームだと無謀なんじゃ…?
プレイヤーB:それを、各〈アーキ職〉の中で最もワンチャンある〈回復職〉でやってみよう、と。
GM:はい、そういうことです。という訳で最初の課題としてCR1用公式シナリオ「小牙竜鬼の潜む森」を導入だけちょっとアレンジしてやってみようと思います。では今回は行動順で全員キャラクターの自己紹介を。
プレイヤーA:じゃあ、行動力2ということで。狼牙族の〈施療神官〉のロシナンテだ。サブ職は〈探検家〉。出来ることは《リアクティブヒール》でヘイトを保つことと治すこと、あとは《ホーリーシールド》で殴ることくらいか。このPTでは戦士役をすることになる。本来は〈守護戦士〉がメインキャラ。中身は30代の男で、企業で企画屋をしてた。
GM:ほほう。
ロシナンテ:〈エルダーテイル〉をはじめとしたいくつかのゲームを「自社の企画とコラボできるか」という調査の名目で遊んでいる。(註4)このキャラは低レベル帯の調査用。一番の悩みはお気に入りのタバコが吸えないことか。
GM:【STR】—【INT】重視のステータスで、将来的にはパーティー最速になるでしょうにそのお名前ですか。(註5)しょっぱなから渋いところが来ましたね。よろしくお願いします。
〈施療神官〉はその特技 《リアクティブヒール》によって、〈回復職〉三職の中で唯一エネミーに殴られてもヘイトの値を保つことができる。ロシナンテ(のプレイヤー)はそういったデータの運用に長けていて、詰将棋のようなプレイを得意とする。今回もその力を十二分に発揮していただきたい。
GM:では、次の方お願いします。
プレイヤーB:狐尾族〈森呪遣い〉の蒼子です。そーこじゃないです。あおこちゃんです。そーこってよんだら怒りますよ?
一同:(笑)
GM:ははは。明らかにサブの倉庫キャラの名前ですね。どうしたんですか?
蒼子:いやですね、新しいアップデートが来るとアイテムの相場が変動するじゃないですか。それでって思ってアイテムの受け渡しをするためにメインキャラとサブキャラをマーケットの前に並べて2アカ(註6)でやろうとしていたんです。そこで先にこっちのキャラクターが先に起動してしまってこんなことに…。
GM:なるほど。
蒼子:買い占めたりするのはメインキャラの役目だったので、お金もあまり持っていません。90レベルの〈召喚術師〉だったはずが28レベルの〈森呪遣い〉です。アイテムもとりあえず防具だけ持っています。出来ること言えば《ハートビートヒーリング》をかけることと、今回〈戦士職〉がいないということで《パシフィケーション》、自分用に《カムフラージュリーフ》。あとはモブ排除のために《ディスミサル》を。【魔力】も関係なしで使えますし。
GM:ほうほう。サポート重視の構成ですね。
蒼子:サブクラスは〈薬師〉で、《ファーマシスト》で「回復薬」を作るつもりです。マイナーはまだ皆さん活用できないでしょうから、最初はこれをお守り代わりに持っておいてください。
GM:すばらしい…。
〈森呪遣い〉は《ハートビートヒーリング》の再生を軸に、多彩な支援能力と打撃力を両立させた職だが、蒼子は支援能力とヘイト管理能力を重視したビルドとなっている。回復職オンリーという無茶ぶりを成立させるために打撃力を切り捨てているのだ。また蒼子 (のプレイヤー)はデータ管理やコスト計算を得意としているため、堅実な支援が期待できるだろう。
蒼子:中身は齢12にして複アカを駆使する廃ゲーマー女子でした。
GM:おっとお前の小遣いどうなってんだ!?(註7)って感じですね。とはいえその御年でそこまでディープな楽しみ方をされるならご両親もご理解があるのかも。
蒼子:もうめちゃくちゃ命かけてましたよ。マーケット操作とかしちゃうくらい。
GM:なるほどなー。
GM:では、最後の方お願いします。
プレイヤーC:目映です。ヒューマンの弓〈暗殺者〉風〈神祇官〉です。
GM:主キャラは弓〈暗殺者〉なんですね。
目映:そうですね。〈暗殺者〉のころはローブかぶってバリバリやってたんですけれど、こちらは特にこだわりもない、着せ替え用キャラです。中身は18歳の女子大生で、エンジョイ勢(註8)のゲーマーでした。
GM:新大学一年生ですね?
目映:そうです。このあいだ合宿で車の免許も取ったばっかり、みたいな?まあ、別にこれといった何かがあるわけじゃないです。性格はどちらかと言えばポンコツでおせっかいぎみ。サブ職は〈勇者〉で《スウェア・バイ・ソード》をとりました。セットアップに《禊の障壁》で〈戦士職〉に、メジャーに《白蛇の凶払い》で自分に[障壁]を作って、危ない時にはカバーに入るというキャラです。あとは打撃力として《フェイバリットアーツ》も使って《ウェポンマスタリー:弓》を2ランクもっています。
GM:ははあ、レイドとかで要求されそうなビルドですね。〈戦士職〉が倒れそうなときに一瞬余裕を作って息継ぎさせるような。(註9)
目映:そのためにキャラを作成したのかもしれませんね。あとはニンジャコス可愛い!ってしたかったんです。だから実効性のない武器とコスチュームくらいしか持ってませんでした。
GM:なるほど。では、よろしくお願いします。
〈神祇官〉はどちらかと言えば攻撃よりも防御や回復を得意とする〈メイン職〉だが、目映は《白蛇の凶払い》を選択し、さらにその[障壁]で仲間を守るために《スウェア・バイ・ソード》を取得している。しかも武器は弓を選択して範囲攻撃に巻き込まれないようにするという念の入りようだ。この荒業により、パーティーの防御性能と安定性は飛躍的に上昇したといえるだろう。目映 (のプレイヤー)もこうした一風変わったビルドを愛好するタイプであるため、これからどのようにキャラを構築していくのか、目が離せない。
GM:というわけでセッションを開始したいわけなんですが、まずパーティー内のコネクションを取りましょう。
蒼子:[職人]のロシナンテさんに[交友対象への親愛]で。
目映:じゃあ、わたしあおちゃんに[交友対象への庇護]で。
ロシナンテ:目映に…[交友対象への庇護]かな。年上として。
パーティー内でのコネクションで、《ファーマシスト》の効果を最大化するために、まっさきに[職人]タグをもつロシナンテへ交友関係を結ぶ蒼子。その年ですでに人間関係をモノに変える能力を持っているとはおそるべし。
GM:ではプリプレイに入りましょう。何かある方。
蒼子:はい、《ファーマシスト》。ロールプレイ、というか世界観的には〈見習い徒弟〉で延々といろんな職をやりたいと思っています。
GM:世界観的には〈見習い徒弟〉で、システム的には現在〈薬師〉なんですね。
蒼子:そうです、〈薬師〉で、《ファーマシスト》使って、ロシナンテさんが人物タグで[職人]を持っているので「水薬」三つ。「回復薬」だけでいいよね?
ロシナンテ:いいんじゃないか?あとは買えるし。
蒼子:「解毒薬」「万能薬」は必要になったら買おう。まあ、今はお金ないんだけど(笑)
非売品の「回復薬」を三つ得た蒼子はそれをそのまま全員一つずつ分配。こうして全員のカバンにいざという時のための回復薬が入っていることになった。
目映:始める前に聞いておきたいのは、みんなのカバンの空き具合。
ロシナンテ:残り3だな。
蒼子:残り3だけど、あとで「招命の宝珠」(註10)は買っておきたいかな。
目映:じゃあ、2だね。わたしは「冒険者セット」と「サンドイッチ」しか持ってないから、あおちゃんからもらった「回復薬」いれて残り4。パーティーの残りスロット欄は9でーす。
今キャンペーンでは卓から一人アイテム係を作って、パーティー単位で拾得物を一括管理している。消耗品や装備以外は「誰が持っている」かは大して重要ではなく、また、最後に会計する際にいちいちアイテムを報告しなおす必要がなくなるためだ。今回は目映が管理役である。
註1.『〈冒険者〉は死なない。』 LHTRPGにおいて、プレイヤーの分身たる〈冒険者〉は真の意味では死ぬことがない。その肉体が何度滅びようと、大神殿で復活を果たし、挑み続けることができる。
註2.『オフセ』 ここではオフラインセッションの略。オンラインではなく現実にメンバーが集まって行うセッションのこと。
註3.『だからD&D3版じゃないんだって!』 D&DはWoC社の名作TRPG。その3版において、クレリックは己が信仰する神格の司る領域からの恩恵によって、さまざまな活躍ができた。
註4.『調査の名目で遊んでいる』 ゲームのアカウント料金及び内部課金を経費で落とせるとなると、割と大きい企業ではないかと推測できる。
註5.『そのお名前ですか』 「ロシナンテ」は小説『ドン・キホーテ』に登場する主人公の愛馬の名前。「駄馬以前」の意味を持つ。
註6.『2アカ』 2アカウント。アカウントを複数持つことによってキャラクターの倉庫欄や配布アイテムなどのインフラ部分を最大化する遊び方。人によっては複数のPCで複数の自アカウントを操作し、自キャラだけでパーティーを組んで遊ぶという強者も。
註7.『おっとお前の小遣いどうなってんだ!?』 〈エルダーテイル〉は日本では月額1600円。一日チケットとお年玉をつぎ込めばあるいは…。
註8.『エンジョイ勢』 MMOなどにおけるプレイスタイルの一つで、「自分がいかに楽しむか」「楽しければよし」という点を重視する。原作においてその極致はカナミ女史である。
註9.『一瞬余裕を作って~』 それだけではなく、壁役の戦士職が倒れてしまった時にも時間を稼ぎつつ蘇生もこなすという職人ビルド。冷静なヒールワークが要求されるだろう。
註10.『招命の宝珠』 〈回復職〉の[戦闘不能]を回復させる消費アイテム。すべての職に効果がある「蘇生の宝珠」より安価。