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ボクの勇者

作者: 虚月

 


 僕らは今、魔王城の目の前に立っている。


 

 勇者に選ばれてからはるばる魔王城までレベル上げとともに旅をしてきた。魔王城と、王城は地図で最も遠い位置にあったから、おかげでそこらじゅうに出てくるモンスターなんかは片手間で倒せるレベルにまでなった。最初は一人だったけど、長い旅路を行くうちに頼もしい仲間たちが仲間になった。


 魔王城に来るまでにはいろいろあった。本当にいろいろあったから、全てを書いていると大変なことになるから割愛させてもらうよ。 


 正直魔王城前で少し怖気づいているところもあるにはある。でも、楽しいことも悲しいことも苦しいことも、今の仲間たちとともに一緒に乗り越えてきた。だから、不安ではない。


「そろそろ、行きましょう。」


「そうですね、もたもたしていてもしょうがないです。」


「まさか、こんな所まで来れるようになるなんて、前の私からは想像も出来ませんでした。」


 僕の仲間がそういった。僕は何も言わずにゆっくりと魔王城の入口へと向かっていった。



               ■ ■ ■



 魔王城の中に入った途端、外の雑音が全く聞こえなくなった。中は、黒を基調にした悪趣味なデザインだった。骸骨のトーチが、薄暗い城の中を照らしている。トーチの炎は青白く、ちらちら揺れている。そのせいで余計不気味に見える。


 結構な距離を進み、ずいぶん遠くの方まで入ってきたと思うのだが、今まで一体もモンスターに出会っていない。ここまで、僕らはかなり周りを警戒しながら進んできた。それでも、モンスターらしい気配を全く感じなかった。ただ、僕らが向かっていく先にとてつもなく大きな気配がするから魔王はいるのだろう。


「…あれ、ここは最深部ではないはずなんですけど、この先の扉からものすごく大きな魔力の塊を感じます。」


「ということは、もうここに魔王が…?」


「いえ…、違うみたいです。とりあえず進んでみましょう。」


 僕は黙ってうなずき、扉を開けた。今までモンスターは出てきていない。モンスターには普通の気配ではなく、魔力を察知しなければ存在にすら気づけないモンスターもいる。うちの魔法使いはどんなに小さい魔力でも探し出そうと思えば一瞬で探し出し、そのモンスターの詳細までわかってしまう。そんな彼女が『ものすごく大きな魔力の塊』という曖昧な言い方しかしないということは、かなり厄介なものの可能性がある。かなり用心して開けた。



 しかし、扉を開けた先には予想していたモンスターはおらず、部屋いっぱいに不気味な赤い光を放つ大きな魔方陣があっただけだった。


 ――――――『だけだった。』で済めばよかったのだが、扉を開き中に足を踏み入れた途端に僕らは魔方陣の方へと引き寄せられた。何かが起こったときのためにと、離れずにいたのが仇となったのだろう。引き寄せられた途端に僕らの視界は真っ暗になった。



               ■ ■ ■ 



 視界が真っ暗になってからしばらくすると、目の前に先ほどまでとは違う景色が見えてきた。


 魔方陣の部屋よりもずっと広く、そして魔力を感じることのできない僕でも感じる重圧。おそらくここが魔王のいる部屋だろう。だが、目の前には魔王はいない。


「どこ……でしょうか、ここは。」


「わかりません。でも、飛ばされたということは魔王がいるのでは……?」


 だが、周りを見渡してもどこにも魔王はいない。何もすることも出来ず、周りを調べていたが特に目立つものはなかった。しばらくするといきなり声が聞こえてきた。


「お前が、勇者か。」


 その声が聞こえた瞬間。僕らは一斉に同じ方向を向いた。その方向には大きな絵画がかかっていた。その前には玉座があり、その辺りからその声が聞こえてきた。


「そこに…いるんでしょうか。魔王が。」


「ええ……、そうみたいです。一番魔力の濃度が濃いです。モンスター特有の色をしています。」


「やっと、会えましたね。」


「ああ、……僕が勇者だ。魔王。姿を現わせ。」


 僕が、その玉座の方へ向かって話しかけると誰もいないはずの玉座に人が座っていた。ただその姿は人のようだが、頭から捻じれた角が二本生えていた。その身長は座っていて分かりづらいが、立てば高身長だろう。やはり魔王だからだろうか、全体的に暗い印象があり黒ずくめだった。


「吾輩のいる場所がわかるとは、なかなかやるようだ。特にそこの魔法使い。吾輩の魔力の色はモンスター特有の色をしてはいるが、空気中の魔力とほとんど変わらない色にまで偽装している。その色がわかるとはかなり優秀な魔法使いを仲間にしたのだな。勇者よ。」


 ボクが思っていたよりかなり長いな、魔王の話。こういうのは簡潔に済ませてほしい。


「お褒めにあずかり光栄です。……光栄と言っていいのかは分かりませんが、魔王に褒められるなどあまりないことですからね。ですが、人類のため、世界のため、あなたの事は倒させていただきます。」


「強いのはうちの魔法使いだけじゃないですよ。なめてもらってはこまりますからね。」


「ええ、皆一様に修業を積んできましたからね。」


「もとより、お前らをなめるつもりなど毛頭ない。全力で、本気で戦えるよう、この城には吾輩しかいない。本気でかかってくるがよい、吾輩も本気で迎え撃とう。」


僕らは、一斉に魔王にかかっていった。


 魔法使いにはとどめを刺すための大魔法を発動するために魔力を温存してもらい、魔力消費量が少なく済む援護魔法をかけてもらっている。


 僧侶には魔力回復と体力回復など、回復系を重点的にかけてもらった。魔法騎士には、剣術と魔術を組み合わせてなるべく多くの魔王の体力を削ってもらった。


 僕は、勇者として、剣を主に使いながら魔王の懐へと進んで入っていき一番魔王の体力を削ってやった。


 最後に、魔法使いの大魔法の準備ができたから、僕が攻撃すると同時に発動してもらった。その魔法は僕には全く効かないけれど、モンスターであり、悪の根源である魔王にはとてもよく効く魔法だ。この世の全属性を重ね合わせた魔法で、彼女にしか使えない。


「……まさか、この吾輩が倒されることになるとはな。……今まで、何人かの勇者が吾輩を倒しに来たが、全く。お前らはそんな前のやつらとは比べ物にならないくらい強い。そんなお前らに倒されるのであれば、後悔はない。」


 そう言って魔王は黒い光の粒子となって消えていった。魔王が座っていた玉座は消え、その下には階段があった。階段を下りるとそこには、大量の財宝が眠っていた。


 僕らはとりあえず、魔王を倒した証として財宝のいくつかを持って、王国へと帰った。


 王国では魔王を倒した英雄として迎えられた。王に魔王を倒した証の財宝を見せると、僕らはこれ以上にないほどほめたたえられた。褒美として、王国の王都に良い屋敷を与えられ、良い地位も与えられた。僕は、王女と結婚し魔王のいなくなったこの幸せな世界で幸せになった。


 僕の視界は真っ暗になった。記憶が消えていき、意識が遠のいていった。



                ■ ■ ■






 ボクはその世界を真っ黒に染め上げた。


 全てを塗りつぶす。『僕』がやってきたことすべてを。ボクが操っていた世界を。ボクが消した。


 真っ黒から、ボクがまっさらの白紙へと変えていく。そして、再び現れたのは始まりのシーン。


「お前はいいな。魔王を倒せば、幸せになれて。良い仲間に慕われて。ボクはそんなの居なかった。」


そう言って僕はゲーム機を閉じた。


「さて、……やるか。」


 ボクには、仲間なんていなかった。最初から、最後まで。ボクは見事魔王を倒したけれど、今まで仲間だと思っていたやつらは、名誉のためにボクを殺そうとした。いつの間にかボクは―――


 ―――ボクは、倒すべき『役者(てき)』となっていた。


 魔王がいなくなったことで、倒すべき敵がいなくなった。つまり、平和が訪れたわけだが、国としては国民が倒す敵を作らなければいけなかった。魔王がいたからなりたっていた経済が、回らなくなり国としてやっていけなくなってしまうという、なんとも身勝手な理由だった。


 魔王は、この世界で最も強い生物だった。つまり、簡単に倒せないわけで、その敵はなるべく長くいれば、長くいるほどいい。圧倒的に強かったからこそ、意味があった。


 だから、『魔王を倒した』ボクが次の『魔王』になった。人の印象というのは、深く関わり合っていなければいないほど、変わりやすい。国が、ボクがやってきたことを悪者になるように言いようにねつ造してしまえば、国中はボクを敵と見る。


 誰も、仲間がいなくなった。助けてくれる人もいない。誰も。だから、この力で。


 ―――ボクが魔王となったその時にあらわれた、この力で。



                ■ ■ ■



 ボクは、大きな黒い影になった。


 全てを、黒く塗りつぶす。それこそ、『魔王』らしく、『敵』らしく。


 ボクを魔王に仕立てた、居場所のないそんな世界を。黒く塗りつぶしていく。


 『国民は関係ないじゃないか。』なんて声は聞かない。


 ボクは、『魔王』になった。それを、国中で認めた。だから、ボクは『魔王』らしく全てを蹂躙する。


 全てを、世界のすべてが真っ黒に、そして、真っ白になった。



                ■ ■ ■






 そして、ボクの目の前には新しい街が広がっていた。



 一人、道にたたずんでいて、周りの人よりも、少し汚れている。ただ呆然と立ち尽くす人物に、誰も目を向けない。真新しいその世界で、その人物だけが異質。なのに、誰も気にしない。まるで、見えていないかのように。


 それも気にせず、ボクはそこに立ち続けた。純粋に生活を楽しむ人々を眺め続けた。ふと視線を動かすと、そこには武器屋があった。なぜか見覚えがあった。そして、不快感も覚えた。


 ボクは、それに気づくと逃げるようにそこから立ち去った。


 ボクは、いろいろなところが見える高い場所へと行った。ボクからはいろいろ見えるが、街からは見えない位置へと。


 そして、全てを終わらせようとした。ここにも同じ、結末が待っていると知って。


 その時に、見覚えのある人影がボクの視界に入った。


 勇者になって、意気揚々とこの世界にはいないはずの魔王を倒すために旅に出る“ボクの勇者”が。


 ボクが使った力とは、簡単にいえばリセットをする力だ。これは、全てをかき消す力。リセットした後、消したままにしておくことはできず、消した元のものと基本的に同じようなものに変わる。その時、一つだけこうしたいと思う事を実現できる。


 そして、ボクはあの世界をリセットした時に望んだのは、『魔王の居ない世界』。だから、勇者は生まれないはずだった。


 あの武器屋も、ボクの勇者も。それは全て、ボクが画面の奥に見た世界と同じもの。


 ということは、これはあのゲームの世界。すると、ボクの勇者は無駄な旅をすることになる。そして、おそらく魔王がいる事にされているということは、もしかしたら、どこかでボクの勇者は国のやつに殺されるだろう。『志半ばで倒れた』と。


 ボクのわがままで世界を消した後に、新しく出来た世界でボクのわがままで魔王を消したばっかりに、ボクよりひどい結末になるなんて。そんなのは―――イヤだ。



 ―――だったら、ボクが、魔王になればいい。



 もし、この世界が、あの画面の奥に見た世界と同じ世界なら。ボクが魔王になれば、ボクの勇者は幸せに、ハッピーエンドを迎えられるはずだ。ボクが、うまく事を運べば。


















 ―――ボクが、僕に、見ることのできなかったハッピーエンドを迎えるために。







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