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‥‥言ってしまった‥‥。
考えるより口が先走ってしまった。
顔に熱が集まるのを感じる。お酒のせいでないことなど理解している。
ヤバいヤバいヤバい!!
時間が先に進まない。こんなときにドラマのような”気付けば家にいる”などの編集が羨ましくなる。
現実逃避をしている場合ではない。でも、恥ずかしすぎて、そうしなければ立っていられないような気持ちなのだ。
「アハハ、いいね、意外性っていうの?面白い!!」
「は…?」
「朝の6時まで仕事してるから会うのは無理だけど、連絡はできるよ。
はい、ここに連絡ちょうだい」
胸ポケットからボールペンを出したイケメン店員さん。その横に名札がついていて、この人は佐々木という名前らしいと、いまさら思う。
渡されたレシートの裏に書かれた11桁の数字。
「え?佐々木さん…?」
「うん、佐々木です。じゃあ、ありがとうございました~」
レジ袋を持たされ、頭を下げられると、条件反射で歩き出す。
「あれ?」
首をかしげながらコンビニを出ると、自動ドアが閉まった。
その音で我に返り、振り向くけれど佐々木さんはレジにはいない。
店内を見渡しても見つからなかった。
教えてもらった携帯番号に帰り道に電話を掛けた。が、案の定、仕事中の佐々木さんは出ることはなかった。
それどころか、待てども待てども折り返しも来ない。
朝の6時って言ってたよね?いったい何日後の6時だよ!!?
ハッ!!実はキモイって思って適当にごまかしたのかも…。
あり得る。
忘れよう、そしてあのコンビニにももう行かないでおこう。
このご時世、仕事って大事だし。邪魔はしません、できません…。
でも、イケメンだったなぁ‥‥。
あの人の子ども、絶対可愛いんだろうな。
もっとボンキュッボンで、綺麗な顔だったら私でも相手をしてもらえたのかも。なんて考えたってきりがないけれど。
「はぁ…」
今夜もバーに飲みに出たが、お酒だけが進む。
いいことは続くと思い込んでいたが、よくよく思い出してみたら、厄年中だった。宝くじのせいで忘れていた。
まだ夜は肌寒い日もあるけれど、もうすぐ夏がやってくる。
バーからの帰り道、トボトボと歩きながら空を見上げた。
星が見えない。
都会は四角い空なんて比喩をよく聞いたけれど、本当にそうだ。
田舎みたいに大空に星がキラキラ輝くなんてないし、お隣さんだって知らない。
毎日いろんな人とすれ違って、満員電車でギュウギュウに押され、関心も持たないし持たれない。
だから、忘れてしまえばいい。
子どもを産むなんて高望みだったって。笑ってしまえばいい。
「泣きそうな顔ですね」
コンビニまで距離500m。
空から視線を移せば、漫画のように‥‥
ちょっと意地悪そうに笑った彼がいた。
トクンと鳴ったのは、心。
無意識に決めてしまっていたのかもしれない。
この人の子どもを産もうって…!