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決意したのはいいものの、デブで可愛くもないわたしだから。結婚?無理。彼氏?無理。精子バンクは抵抗が…。ということで、男の人を買うことにした。
幸い、シングルマザーでやっていくお金もあるし、お金でなびく男がいることも知っている。では、そのなびく男とどこで知り合うかが問題だ。
ここは、実益と趣味を兼ねて飲みに行こう!!
お酒は毎日飲むほど好きだし、酔った勢いで”ワンナイトラブ”なんてよくテレビで見る。
一石二鳥なのでは!と勢いも手伝い飲みに行く。…が、世の中そんなに甘くない。
近所のバーを2軒回って14,900円。収穫は美味しいお酒が飲めるお店を2軒発見したこと、それだけだった。
15,000円‥‥。
それは一か月の水道光熱費に相当…。
趣味は満たされても実益は満たされていない。いや、あけすけなく言ってしまえば一番の目的が満たされていないのだ。だからだと思いたい。損得勘定をしてしまうのは…。
‥‥この貧乏性は治りそうにないかも。
「あ~、ヤリたい」
バーからの帰り道、お酒とは怖いものだと思った。恥ずかしげもなくこんな言葉が言えてしまう。そして期待していた分、体が満たされずにうずうずしている。
女にだって性欲はある。したいときはしたい。
30歳を超えたら女はエロくなるって聞いていたけど、私は当たっていると思う。
昔は性欲なんて感じたことあったかな?というくらいだったのが、今や最低でも半年に一回は必ずムラムラうずうずする。
「やばい~、もぉどうすればいいの…」
シュンとしながらいつものコンビニに入った。籠にミネラルウォーターと缶酎ハイ、コーヒーを入れてレジへ向かう。
体の熱を逃がすようにため息をつきながら、レジに立つ店員さんを見つめた。
「悩み事ですか?」
「え…?」
無意識だろうが、目を逸らさずにいたらしい。彼に話しかけられた。
「いえ、久しぶりのご来店でため息をついていらっしゃったので。
お仕事がお忙しいんですか?」
「仕事のことでは…」
「そうですか。じゃあ、彼氏さんと喧嘩でもしましたか?」
「…ッ!!」
彼氏!?ないない、そんな人いるわけない。こんなわたしに‥‥
「すみません、踏み込んだことを聞いてしまいましたよね」
店員さんは話しながら、器用に袋詰めをしている。
「そんな…彼氏はいません。仕事も順調です。厄年なのにって心配になるくらい…」
「そっか、女性らしいですね」
「え?」
「厄年気にしてるってことは占いとかも好きなんじゃないですか?」
「はい!!好きです」
よく見れば、イケメン店員さん。眼鏡と前髪でちょっと損してると思った。
こんなにせわしなく表情筋が動いたのは久しぶりだ。
「ハハッ、久しぶりです。こんなに可愛い人と会ったの」
「可愛い…!?」
褒められた!?いや、きっと社交辞令だ。それ以外にない。
‥‥でも、嬉しい。
わたしだけじゃなかった、久しぶりだと思った感情が。可愛いなんて嘘でもいい。寂しさと虚しさが一瞬だけ消えた気がした。
一人暮らしで会話のない毎日。テレビに向かって独り言を言ってしまう毎日。1億円が当たってから周りを警戒してしまう毎日。
疲れていたのかもしれない。
そうに違いない。
だからいつもは言わないあんなことを言った。そして、
「仕事何時に終わりますか?」
ナンパもした‥‥。