夢だと思った 1
宝くじが当たってしまった。33歳、後厄中に。
1億円当たった彼女は長年の夢「子供を持つこと」を思いたつ。まだ見ぬ子供のためと頑張って奮闘する女性の歩く道。
アパート近くの小さな宝くじ売り場。そこでまさかの音が響いた。
「こちら、1億円当選しております」
目を限界まで見開いているのは私だけではない。売り場のお姉さんも同じ顔をしている。
状況が呑み込めないまま、丁寧に返却された宝くじを震える手で受け取った。4月にしては寒い日ではあるが、震えるほどではない。
こんな高額当選初めて出会いました。と握手を求められた。
換金できる銀行を聞かされ、それが書かれた紙までもらい家へと帰る。
道中、ドッキリ?とか、夢?なんて考えながらも、財布に入れたくじをいちいち気にしながら帰宅した。
賃貸2Kアパートの玄関を閉めて、すぐ鍵をかけた。いつもより素早い動きだったのは致し方ないのではないか、と意外にも冷静な自分を褒めてあげたい。
「1億…?」
靴を脱ぐことすら忘れて、財布が入っている鞄を見つめた。
大野 香織33歳。小さい頃から太っていて、親から「おデブちゃん」と呼ばれながら育ってきた。
そのせいか女として自信がなく、自己評価も低いらしい。だからこそ、人間力だけでも…と一念発起したのが7年前。
秘書検定と簿記検定を取って転職。事務員でしかないが、資格があると何事にも有利だと気付いたのもこの会社に来てからだ。
試算表の書き方を聞かれたときも、勉強したことを思い出して答えたら褒められ。電話対応が良かったとお客様が言っていたと褒められ。結果、お給料が上がった。
毎年昇給があるんだろうなぁ…とのん気に思っていたら、どうやら違ったらしい。入社2年で昇給はしなくなった。
厄年に入ってからはいいことなしだった。会社を辞めたいと何度考えたかも思い出せない。
だが、まさか、ここにきて‥‥
今日1日を振り返ってみよう。
いつもどおり家を出て、いつも乗る7:12発の電車で30分ほど揺られ、会社まで10分歩く。8時に仕事を始め、お昼休みに入ろうとしたときだった。
私の運命が動いた。